リーシュコードで指切断、サーフボードのフィンで太もも大ケガ…サーフィン中の怖い事故【敦賀海保日誌】

サーファーで賑わう時化模様の海岸(福井県高浜町)

突然ですが、「海が荒れれば荒れるほど楽しむ人が増える遊びってなーんだ!?」

チッチッチッチッチッチッチ・・・

時間切れ! 答えは・・・「サーフィン」!!荒れた海で遊ぶ人なんているの??まるでなぞなぞのような話ですが、実はこれ、なんのひねりもないそのまんまの話なんです。

サーフィンの醍醐味はやはり“波に乗る”こと。つまり波が無い平穏な海では、そもそも楽しむことができない遊びなんです。これからやってくる冬の日本海は時化が続きます。サーフィンガチ勢の方たちにとってはオンシーズンの到来といえるのかもしれません。とはいっても、やっぱり荒れた海には危険がいっぱい。福井の海ではこの時期になるとサーファーさんがたくさん活動されていて、その分事故も多く発生しています。

⇒パドリング中の女性の顔にサーフボード直撃…救急搬送 人気サーフィンスポットの危険

2020年福井県高浜町の海岸で、サーフィンを始めたばかりの女性が波打ち際から10メートルほどの沖合で押し寄せる波に乗ってサーフボードの上に立つライディングの練習をしていたところ、ボードの前寄りに乗りすぎたためにバランスを崩して転倒。女性がボードから海に落ちたとき、一旦海中に沈み込んだボードが浮力で勢いよく跳ね上がり、ボードの裏面についているフィンが女性の太ももを切り裂きました。その後女性は病院に救急搬送され、20針を縫う大ケガを負ったのでした。当時、女性の服装は水着のみだったということで、ウェットスーツなどのサーフィンに適した服装を着用せず、肌があらわになる服装で行っていたことが大ケガを負う原因となりました。

同じく2020年福井県高浜町の海岸を訪れていた男性は、初心者の女性にサーフィンを教えていました。しばらくして休憩のために2人で波打ち際から砂浜に上がろうとしていたとき、男性が高さ1.5メートルほどの大きな波が近くまで迫ってきていることに気付き、波に煽られたボードが女性にぶつかってしまうと、咄嗟にボードについていたリーシュコード(サーフボードと体を繋いでおくためのゴム紐)を手で掴みました。その甲斐あって女性にボードが衝突することは免れましたが、ボードが波でいっきに流された勢いで男性が掴んだリーシュコードが急に張って手の指に巻き付き、指の第一関節から先を切断してしまったのでした。この事案では、波打ち際でボードから降りるときは一般的に沖側へ降りるべきところを、初心者である女性が岸側に降りてしまったことが間接的な原因であったといえるでしょう。

2021年には、福井県高浜町の海岸に訪れた男性がサーフィンを開始した直後、潮の流れの影響でみるみる沖へと流されてしまい、岸に戻ることができなくなりました。幸い沖合200メートルほどの場所に浮かんでいたブイに掴まることができ、それ以上沖に流されることはなかったのですが、どうにも岸まで戻ることができません。そんな中、たまたま近くで状況を見ていた別のサーファーがブイに掴まる男性を岸まで引っ張って救助。流された男性は軽いケガを負った程度で無事に生還することができたのでした。

⇒SUP死亡事故で改めて考える海の安全守るルール

この日事故があった現場は、秒速8メートルの強風が吹いていて、波も2メートルほどの高さになる荒れた状況で、流された男性はサーフィンを始めてから4回目の初心者でした。海には、岸に打ち寄せる波の反復作用で沖側へ向かう「離岸流」という強い潮の流れがあり、これに乗って流されてしまったときは、流れに逆らうのではなく岸と平行に泳ぐなどして、まずは流れの中から脱出することが優先されますが、事故者はこのような回避方法を知りませんでした。

さて、今回3つのサーフィンにまつわる事故を紹介しましたが、どれも痛ましく恐ろしいものでした。荒れた海の中で遊ぶということがどれほど危険か分かっていただけたのではないでしょうか?それぞれの事故の原因を見てみると、海のことやサーフィンに関する“知識”がもう少しあれば事故を回避できていたかもしれません。つまり、今回紹介した3つの事案に共通すること、それは“知識”に乏しい「初心者」が関係するものであったということです。

コロナ禍以降、屋外で行われるマリンスポーツが人気を集めており、また東京オリンピックで初めて正式競技となったことも相まって、サーフィンを新たに楽しむ方は増えているそうです。限られたフィールドの中でたくさんの人が集まって、ただでさえ危険な荒れた海という環境下で行われるサーフィンというスポーツの性格上、一般的な海の安全に関する知識はもちろんのこと、波に乗る順番や海の上でのポジショニングなど、サーフィンのルールを事前に熟知しておかないと、事故に直結することになります。新しく始める方は、事前に海の安全やルールなどについてよく調べていただき、自分の技量に見合うコンディションのもとで、できるだけベテランサーファーとともに活動することをおすすめします。

冬の冷たい荒れた海に入るなんて、サーフィンをやったことがない私にとっては罰ゲームとしか思えません。でもそれだけ、波に乗るということに魅力があるんでしょうね。 「波」と言えば、新型コロナ感染拡大の波、第8波がこの年末年始にかけて到来するようです。

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みなさん、こちらの波にはできるだけライディングしないよう、くれぐれもご用心ください。(敦賀海上保安部・うみまる)

 

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