開放的でピースフル!ふたつの季節で楽しめる KUWATA BAND のクリスマスソング  レゲエビートにのせた夏の日の恋「MERRY X'MAS IN SUMMER」

夏にリリースされたKUWATA BANDのクリスマスソング

KUWATA BANDのシングル「MERRY X'MAS IN SUMMER」は、その名の通り、夏にリリースされたクリスマスソングだ。「どうしてまた夏にクリスマスソングなのだろう?」と思っていたら、「南半球じゃクリスマスは夏だからな」と友人に言われ、ひどく感心したのを覚えている。クリスマスが冬なのは北半球で暮らす僕らの目線に過ぎない。そんな当たり前のことに、僕はこのとき初めて気づいたのだった。

その日の学校帰りにレコード屋へ寄り、発売されたばかりの「MERRY X'MAS IN SUMMER」を手に取った。ジャケットの中では、スノーマンが汗をかきながらスイカを食べており、熊が生ビールを飲んでいた。上半身裸のサンタクロースがサーフボードを抱えてビーチを歩いていた。夏のクリスマスもなかなか楽しそうである。

開放的でピースフルなレゲエのリズム「MERRY X'MAS IN SUMMER」

曲はレゲエビートにのせた夏の日の恋を歌ったもので、タイトル以外にクリスマスという単語は出てこない。また、南半球が舞台かと思いきやエボシ岩が歌詞に出てきたりと、設定自体も大分ゆるいようだった。それでも、間奏にジングルベルのメロディーが挿入されていたり、「神様が微笑むこの街」といったフレーズなどから、クリスマスソングらしい風情もちゃんと感じられた。

桑田佳祐がどうして夏にクリスマスソングを出そうと思ったのか、その真意はわかりかねるが、このときサザンオールスターズは1年間限定で活動を休止しており、桑田はKUWATA BANDとしてサザンとは違う視点での活動を精力的に行っていた時期だった。そこで、サザンならストレートにサマーソングを出すところを、少しひねってみたくなったのかもしれない。夏だけどクリスマスですよと。

「MERRY X'MAS IN SUMMER」はその夏にヒットした後も、クリスマスが近づくにつれ、再びあちこちから聞こえてくるようになった。他のクリスマスソングに比べると厳粛さに欠けてはいたが、その分開放的でピースフル。当時はまだ冬にレゲエのリズムを聴くのが珍しかったこともあり、やけに新鮮に響いたものだった。

夏になれば聴きたくなり、クリスマスが近づくとまた聴きたくなる

クリスマスソングには新旧問わず名曲が多い。歴史上もっとも売れたシングルレコードが「ホワイト・クリスマス」であるという例を出すまでもなく、質量ともに圧倒的だ。それでも、クリスマスが近くならないとあまり聴く気がしない。時期ものだし当たり前なのかもしれないが、これだけいい曲がたくさんあると、それはそれでもったいない気もしてくる。でも、聴く気がしないのだからしょうがないのだろう。

その点、「MERRY X'MAS IN SUMMER」は例外だ。夏になれば聴きたくなり、クリスマスが近づくとまた聴きたくなる。レゲエのリズムにのせて夏の到来を喜び、楽しげなメロディーに合わせて聖なる夜を祝う。サマーアンセムがクリスマスソングなのか、クリスマスソングがサマーアンセムなのか…。どちらにせよ、ふたつの季節で楽しめるクリスマスソングなんて、そう多くはないはずだ。

夏と冬。南半球と北半球。それぞれのクリスマスを思い浮かべながら、今年も「MERRY X'MAS IN SUMMER」をターンテーブルにのせよう。

※2017年12月23日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 宮井章裕

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