3連覇とダブル王者狙う野尻智紀「刺激的なチームメイト」大湯加入とARTA2台体制で高まるプレッシャー

 12月12日、ホンダの2023年参戦体制発表会において明らかとなった、スーパーGT・GT500クラスのラインアップ。5台中3台でドライバーコンビが変更されることとなったが、中でも大きな変化となったのがARTA陣営だ。

 これまで8号車の1台体制で戦ってきたARTAだが、2022年までTEAM Red Bull MUGENとして戦ってきた16号車が加わる形となり、1チーム2台体制となった。そして昨年まで8号車をドライブしていた福住仁嶺が16号車に移り、Modulo Nakajima Racingから移籍する形となった大津弘樹と新たにコンビを組むことに。

 そして8号車野尻智紀の相方としては、TEAM Red Bull MUGENから大湯都史樹が加入。スーパーフォーミュラで2年連続王者となった野尻、そして近年抜群の速さを見せてきた大湯のコンビとあって、チャンピオン奪還を「必達目標」(HRC渡辺康治社長)とするホンダが大きな期待をかけられた1台であることはラインアップからも見て取れる。さらに、発表資料では触れられていないものの、8号車、16号車ともにメンテナンスはMUGENとなり、タイヤは2台ともブリヂストンを履くことも、関係者への取材で明らかになった。

■「彼の方が速く走る状況が多いのではないか」

 発表会当日、2台を引っ張る立場となるであろう8号車の野尻に現在の心境を聞くと、まず口にしたのは新たにコンビを組むことになった大湯の『速さ』についてだった。

「彼はすごくよくドライビングを考えている人です。(SNSなどで)ああいう見せ方をする選手なので、そう思われにくいところもあるかもしれませんが、たぶん誰よりもドライビングに対しては考えています。それは当然、彼の速さに直結していると思います」

 さらにその大湯の速さについて野尻は、「シーズンが始まってしまえば、彼の方が速く走る状況の方が多いのではないかと思います」と、平然と言う。

「彼の存在を刺激として、彼に負けないように僕も努力しなくちゃなっていうのが、シーズン前のいまの率直な感想ですね」

 このコンビ誕生の噂が出た時点で、関係者からはふたりのドライビングスタイルの違いを心配する声も聞かれていたが、野尻はまったく気にかけていないようだ。

「彼はどんなマシンでも乗りこなすという特徴があるので、(自分とは)スタイルが違うと思われがちですが、おそらく求めているもの(クルマの方向性)はそれほど違わないと思います。『リヤのグリップがあって、誰よりも速く(コーナーに)入っていける』という部分では一緒なんですけど、それに対して何か起きたときに、どういう対応するか、というのが少し違うのだと思います」

2023年、ARTAの8号車でGT500クラスに参戦する野尻智紀と大湯都史樹

 8号車陣営としては、メンテナンスはこれまでのセルブスからMUGENへと移ることになるが、野尻にとってはスーパーフォーミュラで慣れ親しんだ環境であり「メカさん、エンジニアさんも知っていて信頼関係ができる人たちが多いので、そういう意味では安心して戦えるな、という感じはありますね」という。

「いい戦いができるだけの土台はそろっているなと思います」と、噛み合わない数年を過ごしたGTでの雪辱に、野尻は意欲を燃やしているようだ。

 ホンダ陣営内で見ると、1チーム2台体制は近年では珍しい。タイトル奪還へ向け、大いに武器になる体制にも思えるが、「2台あっても、同じようにならないのがこのレースだと思っています」と野尻は冷静に考えている。

「とはいえ、横のつながりを持つことによって、『いま、こっちのクルマはこういう特徴があるから、こういうふうにセットアップしていますよ』という“背景”を理解したうえで、情報共有していくのが大事だと思うんです」

「そうすればARTAの中での戦力アップになるだけでなく、HRCとしても強みになると思います。すごく楽しみですね」

 野尻は2023年、スーパーフォーミュラでもチームメイトが代わる。すでに先週の鈴鹿合同/ルーキーテストには自身は走らずともチームに帯同し、15号車をドライブするリアム・ローソンの走りを見守っていた。

 野尻はローソンについて「すごく丁寧に走りますし、F2に2年乗ってきただけあって、ある程度ダウンフォースの大きいクルマの走らせ方はよく理解していると思います」と印象を語る。

「あと、今年は笹原(右京)選手がチームメイトでしたけど、ドライビングスタイルが結構違うところがありました。笹原選手はアグレッシブにクルマを動かす印象があったので、そのあたりは(ローソンは)どちらかというと僕のセットアップの方が好みかなという感じはしたので、そういった面では来年はもう少し2台のセットアップの差が少なくなれば、チームもやりやすいかもしれませんね」

 野尻は中嶋悟氏以来となる国内トップフォーミュラ3連覇、そして悲願のGT500チャンピオンを目指すことになる。

「3連覇はもちろん、なかなか挑戦できる人はいないですし、そこは『吹っ切って楽しもう』という感じですね。むしろ、GTの方がプレッシャー大きくなるかもしれません。チームメイトもすごく刺激的な大湯選手ですし……」と、野尻としてもスーパーGTにかける気持ちが、とても大きくなっているようだ。

12月12日、ホンダの2023年体制発表会に登壇したスーパーGT/スーパーフォーミュラ参戦ドライバーたち

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