「推し休暇」がやる気向上の糸口に? 従業員のやる気を上げる施策を徹底議論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「モニフラZ議会」のコーナーでは、 “推し休暇”、そして“従業員のやる気の引き出し方”についてZ世代とXY世代の論客が議論しました。

◆"推し休暇”で社員のやる気は上がるのか!?

北海道・札幌市の保育園で導入される"推し休暇”。これは職員が自分のお気に入り、いわゆる"推し”を楽しむための休暇で、有給休暇に加え、年間10日間取れる制度です。使い方はさまざまで、チケットや領収書など証明するものがあればアーティストのライブや映画、さらには温泉などに行く場合にも使えます。この制度を考えたのはロックバンド「BUCK-TICK」推しの保育園園長。プライベートを充実させ、職員のやる気を高めるのが狙いです。

「推し休暇」について、まずはZ世代を代表し、アフリカの紛争問題を研究する東大院生の阿部将貴さんが「休暇を導入するならば分野に囚われない覚悟を」と主張。社員のプライベートを充実させることは大賛成ながら「推し休暇という形ではなく、普通に年次有給休暇を増やせばいい。推し休暇は使い勝手の悪い有給休暇じゃないか」と指摘します。

というのも、推し休暇となると"推し”が必要であり、なおかつそれが休暇にふさわしいものなのか上司に許可を取る必要があるからで、「企業が"推し”の判別をすべきではない。年次有給休暇を増やし、やる気を引き出したほうがいいし、導入するならば(推しに関する)分野を企業が決めるべきじゃないので、覚悟が必要」と自身の見解を示します。

XY世代の生活経済ジャーナリスト・和泉昭子さんは、推し休暇肯定派。かつて、「FIFAワールドカップ」を現地で観戦するために会社を辞めた人もいたことを引き合いにし、「(社員が)自由になっていいんじゃないか」と話します。

Z世代のHealth for all.jp代表の茶山美鈴さんは、推し休暇を導入することで「意識改革され(休暇を)取りやすくなる、ハードルを下げるという意味では有給休暇制度とは少し違うメリットがあるのかなと思う」と語る一方で、「阿部さんの言う通り、推しがない人、単純に休みたい人がメリットを感じられないことに関しては、もう少し制度について詰めたほうがいい」とも。

XY世代のキャスターの堀潤は、経営者目線に立ち「その休暇が仕事にどう還元できるのか。双方にとっていい形で描けると良いのでは」と休暇の有効性について言及。

これにキャスターの田中陽南からは「休みは業務に役立てないといけないのでしょうか?」とストレートな意見が。堀は「全くその通りですね」と苦笑い。ただ、堀自身はこれまで休みも全て仕事に捧げてきたと言い、「休みを取るからには、復帰したときにもっと良くなるために使いたい思いがあった」、「仕事が上手くいけば収入面も上がり、生きがいややりがいも生まれる。(プライベートと)あまりセパレートする必要がないという思いはある」と休暇に対する自身の考えを語ります。

また、和泉さんからは「ユルイほどつなぎとめられる」という意見も。

昨今、雇用・人材が流動化し、今後はあらゆる分野で人材不足が予想されるため「(社員に)辞めてほしくないと思ったら、なるべく(社内環境を)ユルくしておいたほうが若い人・優秀な人が辞めないと思う」、「今の会社は好きなことをやらせてくれる、あまり干渉しないなど、(社員を)つなぎ止めたければあえてユルくすることが大事」と主張します。

そして、「推し休暇は使い勝手の悪い有給休暇」という阿部さんの意見に対しては、「ただ有休を増やしただけだと話題にならない。だから、ちょっと色をつけて、作戦として"推し休暇”として名付けただけでは」とあくまで話題作りの一環と推察します。

ここで阿部さんからは「例えば、地球温暖化を危惧している人が気候変動対策のデモに行くために休暇を取るのはどうなのか? これはチケットや領収書もない」との質問が。

これに堀は「(休暇理由を)受け取った経営者側も、社員が何に興味があるのか、休みに何をするのか、そういった特性がわかれば、その後の適材適所にもつながる。コミュニケーションが円滑になれば、みんなが気持ち良く持続可能な成長を迎えられると思う」と会社目線でポジティブに返答します。

◆日本は世界に比べ、やる気のある社員が格段に少ない!?

どうすれば社員のやる気は上がるのか。街頭で聞いてみると「いつでも休みが自由に取れたらいい」(25歳 女性)、「ボーナスなどが上がれば」(23歳 女性)、「食事の補助など、やる気につながる補填があれば」(35歳 女性)、「メンタルヘルスの資格を持った人が面談などでケアしてくれれば」(22歳 男性)など、さまざまな意見がありました。

現在は従業員のやる気を数値化した「エンゲージメント(やる気指標)」というものがあり、23の国・地域で比較したやる気のある社員の割合は世界平均66%に対し、日本平均は56%。6年連続で最下位となっています。理由は社員側に会社への帰属意識が高く、自分から提案していく風土が乏しいこと。さらに、会社側も終身雇用を背景に、やる気を高めていこうという努力不足があるのではないかとされています。

そうしたなか、練馬区にあるガソリンスタンドでは、4年前からエンゲージメントを導入し、「DOOD&NEW」を行ったことでやる気の数値が49.8%から89.1%に上昇。「DOOD&NEW」とは身の回りのよかったことを交換日記などにして見せ合う取り組みで、結果として意見が言いやすい環境になり、業績も上がったということです。

日本の実情を目の当たりにした堀は「やはり"脱帰属”を進めていかなくてはいけない。もはや会社を求める必要はない。もっと個性を伸ばしてあげられるような組織運営を」と訴えます。

和泉さんは、推し休暇をはじめ社員のやる気を上げてくれる施策、人生を豊かにしてくれるような環境が整っていれば「その会社が好きになって頑張れるのではないか」と話します。

さらには、企業価値についても言及。企業は投資家に説明する際、業績などをまとめて提示しますが、今後はそれだけでなく「いかに新しい発想でやっていくかというときには、やはり人的投資が必要。このエンゲージメントはものすごく大事」と和泉さん。

茶山さんは、やる気を上げる手段として「労働生産性」と「閉鎖型登用性」を挙げます。茶山さんによると、日本は労働生産性が先進国中最下位。これを打開するには「従業員の休みを増やすことでブレイクを与え、いかに利益を上げるかにアイデアを注げるようにするべき」と主張。

また、「単純に無駄な労働時間が多いのでDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めることも大事」とも。さらに、閉鎖型登用性については「終身雇用を続けていけばそれなりに給料が上がるという共通認識があるが、成果に見合った給料、成果によってステータスが上がっていくようにしていくべき」と望みます。

堀も現状のなかでいかに労働生産性を上げるかを重要視しつつ「今一番足りないのは新しい産業、新しいイノベーションを生み出すところのパワー」と指摘。休暇が取りやすい環境作りを行うと同時に「自分の特性に合った好きなことを仕事に起こせるようなことをセットで支援してほしい」と力を込めます。

過去に厚生労働省の委員経験のある和泉さんは「普通の人はみんな雇われていることが幸せ、それが前提の制度だった」と当時のことを振り返りつつ、それも最近変化したと話します。コロナ以降は個人事業主や起業家にスポットライトが当たるようになってはきているものの、それはまだまだで「やはり会社が守ってあげるやり方でないと幸せに生きていけないという前提が、まだ日本にはあるような気がする」と懸念。

当番組のTwitterスペースに参加していた視聴者からは「(そもそも)やる気は本当に必要なのか?」との疑問も。そして、「経営者側と従業員側の意識の違い・差が、従業員がフルパワーで働けない要因になっている」との指摘がありました。

総じて、モニフラZ議会を代表し阿部さんが提言を発表。それは「指標づくり開示の議論を進めよう」。

今回の議論を通じ、指標作りやその開示の議論を進めることの重要性を感じたようで、「会社が守ってあげるのではなく、従業員が主体的に働きがいなどを選べるようにしたり、やる気は主観的なものなのでどう定義づけるかはいろいろと議論があると思うが、それをしっかり調べ、企業ごとに開示し、例えば有価証券報告書などに載せたらいいと思う」と意見を述べます。

そうすることで、その会社がどれだけやる気があるのかわかり、就活生や取引先にも有意義だから。ただ、「(やる気指数が)高ければいいではなく、自分に合うか合わないかが大事。労働者が主体的な選択ができる情報の一端になるべき」とまとめていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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