ふるさと納税とiDeCoを併用した節税効果は?年収500万円をモデルにFPが解説

「節税」という響きはとても魅力的ですが、ふるさと納税とiDeCoでは、その目的も税金計算の流れも異なります。もちろん併用をすることは可能ですが、節税という言葉のマジックに飛びつかずにその違いを理解しましょう。


税金計算の流れ

iDeCoは節税をしながら自分年金が作れる制度として人気があります。掛金が全額所得控除、運用益が非課税、受取時に退職所得控除あるいは公的年金等控除が利用できると3つの税制優遇が適用されるので、強力な自分年金制度とも言えます。

運用益が非課税となるメリットは、どのくらいのリターンを得るのかによってバラツキが生じます。リターンが大きければ、払わずに済む税金のメリットは大きくなりますが、リターンが小さければ非課税の恩恵も小さくなります。また受取時の税制優遇は、加入期間や受取方により差がつきます。iDeCoの他に退職金があったり、公的年金の受取があれば、合算され課税対象が大きくなったり、そもそも加入期間が短いと非課税枠が小さかったりと税のメリットに違いが生じます。

一方、掛金が全額所得控除になる点は、iDeCoに加入すれば、すべての人が等しく享受することができる確実なメリットです。もちろんそもそも所得税を支払っていない人は、「得する」税金がありませんが、収入がある人であればiDeCoに加入するにより、税金を減らすことができます。

年収500万円の会社員を例に、税金の流れを見てみましょう。年収というのは、1年間に会社から受取った報酬です。源泉徴収票では「支払金額」の欄に記載されます。

ちなみに、公共交通機関で通勤する場合、月15万円までは非課税ですから、これは「支払金額」には含まれません。マイカーや自転車での通勤は、通勤距離により非課税限度額が異なります。非課税限度額を超えた分は、「支払金額」に含まれ、課税対象となります。

会社員の場合、年収に直接税率が掛けられるわけではありません。まずは「給与所得控除」という、みなし経費が年収から差し引かれます。

給与所得控除は、年収により金額が異なりますが、年収500万円の場合は、144万円(年収500万円 × 20% + 44万円)です。実際仕事上の経費が、通勤用のスーツと靴くらいで年間144万円も使っていなかったとしても、給与所得控除は144万円認められますから、会社員にとってこれは「領収書のいらない割の良い節税」とも言えます。

さらにこの後、様々な「所得控除」が差し引かれます。納税者本人の経費として「基礎控除 48万円」、1年間に支払った社会保険料の総額が「社会保険料控除」として差し引かれます。また生命保険料を支払っていれば、一定の計算で求められた金額が「生命保険料控除」となりますし、扶養する家族の収入などによってはそれぞれ控除が認められます。

給与所得控除後の金額が356万円の会社員の社会保険料控除が75万円と仮定しましょう。特にその他の所得控除はない場合は、基礎控除のみを差し引きますから、課税所得は233万円となります。

所得税率は超過累進課税ですから、課税所得194万9,000円までに対し5%、それを超過し339万9,000円までに対しては10%の税率が掛けられます。それ以上の所得については、国税庁「No.2260 所得税の税率」などを参照してください。つまり、この場合、払うべき所得税は、13万5,500円(233万円 × 10% - 9万7,500円)となります。

住民税は、給与所得控除と社会保険料控除は所得税の計算と同じですが、基礎控除が43万円で税率は基本的に一律10%ですから、23万8,000円(238万円×10%)となります。

iDeCo加入における節税とは?

iDeCoの掛金は「所得控除」のひとつ「小規模企業共済等掛金控除」として、年収から差し引かれます。所得税は、年収から様々な控除を差し引いた後の「課税所得」に税率が掛けられるので、控除額が大きくなればその分課税所得が減り、納税額が減少します。

では、現在の所得税13万5,5000円、住民税23万8,000円支払っている会社員がiDeCoをすると、どの程度「節税」できるのかを見ていきましょう。

勤め先に企業年金がない会社員のiDeCoの掛金上限額は年間27万6,000円です。仮に上限いっぱいまでiDeCoに拠出すると全額が所得控除となり、課税所得を233万円から205万4,000円に引き下げます。結果納めるべき所得税は、10万7,900円(205万4,000円 × 10% - 9万7,500円)となります。つまり、掛金の10%にあたる2万7,600円が「節税できた」ということになります。

住民税はどうでしょうか? ここでも掛金が全額所得控除になりますから、iDeCoに掛金を拠出した後の課税所得は、210万4,000円となり、住民税額は21万400円となります。やはり掛金の10%にあたる2万7,600円が「節税できた」ということになります。

よくiDeCoと個人年金保険の違いを質問されることがありますが、保険会社の商品である個人年金保険の場合、支払った保険料が所得控除になるという点ではiDeCoと同様「節税」になりますが、控除の対象となる金額に上限が設けてある点が異なります。

例えば、上記の例と同様年間27万6,000円の保険料を支払った場合、生命保険料控除として認められる金額は所得税が4万円、住民税が2万8,000円です。つまり、個人年金保険による税のメリットが合計6,800円(6万8,000円 × 10%)にとどまるのです。

iDeCoは所得税も住民税も全額所得控除となるため、この例だと税のメリットの合計は5万5,200円となりますから、その節税効果の大きさは容易にご理解いただけると思います。

ふるさと納税は節税ではない!?

ふるさと納税は、自分で自治体を選び任意の金額を「納税」すると、その金額から自己負担2,000円を差し引いた金額分税金が控除されます。

ふるさと納税の対象となる金額には、年収などにより上限が設けられています。この計算は少し複雑なので、シミュレーションサイトを利用して求めます。例えば前例に上げた年収500万円の会社員の場合は、6万1,000円が上限です。

この方が任意の自治体に上限額いっぱいまで「ふるさと納税」をしたとします。しばらくすると返礼品が届き、さらにその自治体から税金の計算に必要な「寄付金受領証明書」が届きます。

税金の申告は、原則確定申告ですが、会社員でふるさと納税の寄付先が5自治体以内であれば簡易的なワンストップ特例が利用できますので、ここではその利用による税金計算の流れをご紹介します。

確定申告を選ぶと、一部が所得控除され、さらに住民税で税額控除を受けます。一方ワンストップ特例を利用する場合、住民税が税額控除されます。実際どちらの申告方法を選んでも節税額は基本的に同額です。

住民税から控除される金額は3種類あります。まず基本分とは、実際に行ったふるさと納税の額から自己負担2,000円を引いた金額の10%です。今回の場合5,900円となります。

次に特例分を計算します。これは上記同様、ふるさと納税の額から自己負担を引いた金額に対し住民税の控除基本分10%と所得税率10%(簡易的に計算しています)の割合を減額した残りの率をかけ算します。ここでは、5万9, 000円 × 80%(100% - 10% - 10%)= 4万7,200円となります

さらに申告特例分を計算します。これはワンストップ特例では適用されない所得税の寄付金控除相当額にあたるものです。この計算をすることで、ワンストップ特例でも確定申告でも同額の税制メリットが受けられます。

この計算は「特例分の控除額 × 所得税率/(90% - 所得税率)」となります。すると上記申告特例分が47,200円ですから、5,900円(4万7,200円 × 10%/(90%-10%))となります。

合計すると、5万9,000円です。長々と計算しましたが、つまりはふるさと納税の額から自己負担2,000円を引いた金額が税額控除されるという意味です。税額控除というのは支払った住民税からその金額全部をお返しするという意味です。つまりふるさと納税をしない時の住民税は23万8,000円でしたが、ふるさと納税をすると、5万9,000円安くなるので、結果的に住民税が17万9,000円に減額されるという意味です。

しかし、これを5万9,000円の節税だと言っては間違いがあります。なぜならば、すでに6万1,000円を任意に選択した自治体に「納税」しているので、その分が返金された(差し引いた)だけだからです。しかも自己負担2,000円分は住民税額から引かれませんので、この分は実質マイナスとなります。

ではなぜ、ふるさと納税は「お得」と言われるのでしょうか?

それはやはり返礼品です。返礼品は、概ね納税額の30%程度の商品とされているので、この例だと6万1,000円の寄付に対し自己負担2,000円で1万8,300円程度の品物が届くので、「お得」と考えるのでしょう。

賢いお金の使い方をする

このようにiDeCoとふるさと納税は、全く異なるものです。ふるさと納税を「節税」と言われてしまうことに違和感を覚えますが、税金を節約するというより、お金の支払先を自分で選ぶというポイントの方が重要なのではないかと考えます。

例えば、iDeCoは手元にあるお金を今使わず将来の自分に仕送りします。今欲しいものを買えないというデメリットはありますが、年をとって就労収入が得にくくなった時に使えるお金を準備するのは賢い選択です。

ふるさと納税は、今住んでいる自治体ではなく、任意の自治体へ住民税を納付することです。さらにその使い道を指定することができたりするので、より能動的な納税の仕方と考えると賢い選択です。

大切なお金を無計画に使うのではなく、使う先を吟味することはとても意義のあることと考えます。繰り返しになりますが、iDeCoとふるさと納税は異なるものですが、併用も可能ですし、むしろ賢いお金の使い方という点では、両方活用するべきでしょう。

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