被爆2世訴訟判決 開かなかった援護への道… 早世の弟に「伝えられない」原告の野口さん

弁護団の報告を、悔しそうに聞く野口さん(左)=長崎市桜町、県勤労福祉会館

 被爆2世に対する援護を怠っているのは憲法違反だとして、長崎原爆の2世らが国に損害賠償を求めた訴訟。長崎地裁は12日の判決で、放射線の遺伝的影響の可能性を否定しない一方、「違憲とはいえない」として請求を棄却した。開かなかった法的援護への道。「不当判決だ」「活動を続けるしかない」。原告団に憤りと決意が交錯した。
 同日午前10時半過ぎ。地裁から出てきた原告側の代理人弁護士と崎山昇原告団長(64)は、硬い表情で2枚の旗を掲げた。「不当判決」「2世の援護に道を拓(ひら)こう」。事前に印字された「拓く」の文字には、手書きの修正跡が。原告団にとって期待を裏切られる内容だった。
 「非常に残念。こんな内容は弟に伝えられない」。原告の野口伸一さん(75)=長崎市女の都2丁目=は悔しさをにじませた。26歳で早世した弟末晴さんのことだ。
 野口さんの母親は20歳の時、爆心地から約5キロの同市戸町で被爆。2年後に長男の野口さんが生まれた。弟と妹が4人いたが、1984年、末っ子の末晴さんが突然「耳や鼻から血が出る。体に斑点が出る」と訴えた。
 血液検査で急性白血病と判明。急激に症状が悪化し、末晴さんは間もなく亡くなった。母親は「自分が殺したも同然」とふさぎ込み、他のきょうだいへの遺伝的影響を恐れた。
 野口さん自身も30代で血圧や血糖値の異常が確認され、10年ほど前に脳梗塞を発症。胃がんの摘出手術も受けた。弟や妹も、がんや難病を患った。「これだけ健康が阻害されている。放射線の影響がないはずがない」。野口さんはそう考え、2017年、原告団の一人として国を提訴。昨年6月には家族の病や、医療費支給などの援護策がない窮状を法廷で訴えた。
 しかし、12日の長崎地裁判決は、2世の法的援護につながる判断を何も示さなかった。市内で開かれた弁護団の報告集会で野口さんは「遺伝的影響の可能性は認めているのにおかしい」と怒りをにじませた。予定していた末晴さんらの墓参りは中止。「闘いが続く限り参加し続けて、いつか良い報告をしたい」と言葉を絞り出した。
 集会には、来年2月に判決を控える広島被爆2世訴訟の原告も参加。広島県被爆二世団体連絡協議会の角田拓事務局長(59)は「がんなどに苦しむ長崎の原告にとって厳しい判決。(広島でも)期待を持てないが、何とか前進を勝ち取れるよう祈りたい」と話した。
 長崎被爆2世訴訟原告団長の崎山さんは控訴について、他の原告や全国二世協の方針などを踏まえて「数日中に判断したい」。全国に数十万人いるとされる被爆2世。「初めての歴史的判決で遺伝的影響が否定できないことは認められた。今後も、全ての2世に法的援護の道が開かれるよう活動を続けたい」と述べた。


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