人気洋菓子店「マダムシンコ」に賃金支払い命令 「求人サイト募集広告」と「入社後」の給与額が“違いすぎ”たら?

「なぜ、こんなに安いんだ・・・」。
「求人サイトに書かれてた給料と全然違うがな!」という事件です。

人気洋菓子店「マダムシンコ」の従業員だった男性が、労働審判を提起。「求人サイトに掲載された待遇よりも実際の月給が10万円以上少なかった」旨を主張して、会社に未払い賃金約200万円の支払いを求めました。大阪地裁は、11月25日、会社に対して約90万円の支払いを命じました。

報道によると、会社は労働審判において「閲覧者を増やすために給与額を高く表示した」と認めています。となると、今回の男性のように、「言うてたんと違うがな!」と憤っている方々が大埋もれしている可能性が大です。ニュースとともに、過去に慰謝料請求が認められた裁判例もご紹介します(弁護士・林 孝匡)。

「求人情報」の記載はどうなっていた?

男性は、2021年3月、求人サイト「インディード」に掲載されていたマダムシンコの菓子製造の仕事に応募しました。サイトには「月給35万~50万円(残業代を含む)」と記載されていました。その後の面談でも人事担当者からも同様の説明を受けたようです。

男性が働き始めて1カ月後、会社から雇用契約書を示されました。契約書には、なんと!「基本給16万~25万円」と記載されていました。

「インディードに書いてたことと全然違うやん」と当惑したことでしょう。

しかし、工場長から「月給は35万円」と口頭で説明を受けたので、男性は契約書に署名しました。その後、試用期間として月額25万円からスタートしました。

試用期間の終了後、突如、給料が17万円に減らされました。

男性は会社に対して説明を求めましたが、減額した理由について何ら説明をしてもらえず、退職を決意。今年の春に退職しました。

労働審判の申し立て

その後、男性は、今年8月、大阪地裁に労働審判を申し立てました。未払い賃金約200万円を求めるという趣旨の請求です。

請求の根拠としては、おそらく「応募した後の面談時および雇用契約書に署名する時に、月給は35万円との説明を受けたので35万円での合意が成立している」というものだと考えられます。

労働審判において、会社は「インディードの広告は雇用契約の労働条件にあたらない」と反論しました。しかし、裁判所は会社の反論を受け入れず、90万円の支払いを命じました。

たしかに、会社が主張するとおり、求人広告の内容で雇用契約が成立したとは言えないのですが、その後の経緯を見て、口頭での合意の成立を認定したと考えられます。

認定した給与額については、報道からは明らかではないのですが、35万円とはいかないまでも、25万円近くの金額を認定したと推測できます。なぜなら、労働審判で、雇用契約上の賃金が月額25万円だったことを相互に確認する内容も含まれていたからです。

過去の裁判例

過去には、中途入社した社員が「言うてた給料と全然違うがな!」と会社に対して慰謝料請求した裁判があります。その裁判では慰謝料100万円が認められています(日新火災海上保険事件:東京高裁 H12.4.19)。

この事件も、今回のニュースと同様、就職情報誌でウソッぱちをこいていたんです。

中途入社の方に対してこの企業は、「同期入社の方と同額の給与をお約束します」と記載していました。しかしふたを開けてみると、最下限の給与額でした。

当該社員が人事部長に抗議したところ、人事部長は「採用時には下限にすることが決まっている。しかし努力すれば上がっていく」旨のフザけた説明をしました。

そこで、男性が会社を訴えたところ、裁判所は会社に対して精神的苦痛として慰謝料100万円の支払いを命じました。

今回のニュースでは、男性は職場に復帰したようなので、未払い賃金の請求と今後の賃金月額の確認を求めたようですが、もし会社とオサラバするのであれば、この裁判のように慰謝料請求も十分に認められるケースだと思います。

裁判では「物証」が最強

最後に録音の重要性をお伝えします。

今回の事件で裁判所は、特段の物証なしに男性の主張を認めてくれているようです。

「応募後の面談のときに月額35万円だと説明を受けた」
「雇用契約書に署名するときも同じ説明を受けた」
という主張です。

これはレアケースだと思います。裁判では物証が最強なので、今回のケースで言えば、基本給が安く記載された雇用契約書(基本給16万~25万円)どおり認定されることが多いです。会社が「35万ですって? そんな説明はしていないですよ」とシラを切れば雇用契約書どおりに認定されてしまうことがほとんどなんです・・・。

なので、録音をオススメします。

説明とは違う内容の文書に署名するときなどは、録音しましょう。ただ、いきなり録音できないと思うので「一度考えて後日署名します」などと言ってうまくその場は切り抜け、次回、スマホなどをRECモードにして説明を求めながら署名しましょう。

今回の事件は氷山の一角だと思います。

なぜなら、報道によると、会社は労働審判で「インディードでは閲覧者を増やすため給与額を高く表示した」と認めているからです。釣りの求人広告が世の中にはあふれかえっていると思います。ご注意ください。そして、そのような事態に遭遇したときは、ぜひ録音をしてください。

何度も言いますが、録音は最強です。

【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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