<社説>安保関連文書の改定 国民合意得られていない

 政府の「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定について自民、公明両党は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を記載する内容で合意した。16日にも閣議決定する。憲法が定めた専守防衛の理念を逸脱するものだ。 敵基地攻撃能力の運用について日米で調整を進める方針も盛り込む方向だ。日本の戦後の安保政策を大転換させるにもかかわらず、国会での議論を経ずして決定することは認められない。国是の変質に国民の合意は得られていない。これを閣議決定で押し通すことは民主主義の理念からも受け入れることはできない。

 中期防衛力整備計画を改称する「防衛力整備計画」には米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得を明記。自衛隊の輸送機や潜水艦に長射程ミサイルを搭載し、発射可能にする方針も盛り込まれるという。

 次々と明るみに出る改定内容は米軍を「矛」、自衛隊を「盾」としてきた従来の分担を完全に転換しようとしていることを如実に示している。

 集団的自衛権行使を可能とする安全保障法制は、憲法学者ら専門家から憲法違反との指摘があった。

 これに耳を傾けず、関連法制を可決、成立させた。立憲主義や法治主義の理念を否定し続けてきたその成立過程は今につながる。

 集団的自衛権の行使容認は専守防衛を逸脱すると指摘されてきた。岸田文雄首相は専守防衛の定義は変更しないというが、敵基地攻撃能力の保持とどう合致するのか。

 元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は、政府の言う憲法9条が認める必要最小限の防衛力について「あくまで攻撃を受けた際に排除するのに必要十分かどうかであって、攻撃されないように十分な軍事力を持つというのは専守防衛の質的転換だ」と指摘する。

 加えて「9条の規範性、縛りが失われてしまうのではないか」と懸念するのは、政府与党の姿勢を見るに当然の感覚である。

 与党内では、中国の軍事動向をどう捉えるかが議論となっていた。公明など対中関係を重視する立場から強い文言に難色が示されていたというが、論点がずれている。

 調整の結果、中国からのミサイル発射の脅威の対象から「わが国」を削除し「地域住民」とすることで折り合った。まやかしでしかない。対中関係を重視するのであれば、必要なのは敵基地攻撃能力ではなく、緊張を高めないよう外交努力に尽くすことだ。

 政府、与党の議論から欠落しているのは広い国土のそれぞれの地域に生きる生活者の感覚だ。敵基地攻撃能力を持った場合、機能が配備される基地や部隊が標的となるリスクが高まることは容易に想像できる。

 米軍を含め、基地機能が集中する沖縄にとってその懸念はより強いものだ。国民の不安や懸念に向き合い、いま一度議論を喚起するべきだ。

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