「調達コスト増加」84.8%、企業の44.2%が価格転嫁できず ~ 原材料・資材の「調達難・コスト上昇に関するアンケート」調査 ~

  コロナ禍や円安に加え、原油・原材料価格の高騰が企業業績に影響を広げている。
  東京商工リサーチが12月初旬に実施したアンケート調査で、調達コストが増加した企業は84.8%にのぼった。前回調査(10月3日~12日)から4.2ポイント上昇した。
  一方、コスト増加分を販売価格に「転嫁できていない」企業は44.2%にのぼり、増加分をすべて転嫁できた企業はわずか4.4%にとどまった。

 世界的な原材料不足やサプライチェーンの混乱で、生産や販売など事業活動に必要な原材料、部品調達に遅れが生じている企業は70.9%だった。
 コロナ禍やウクライナ情勢、円安の影響が企業活動に大きな影響を及ぼしていることが改めて浮き彫りとなった。

  • ※本調査は、2022年12月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,889社を集計・分析した。
    前回調査は、2022年10月20日公表(アンケート期間:10月3日~12日)。
    資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q1.世界的な原油・原材料価格の高騰によって、貴社は調達コスト増加の影響を受けていますか?(択一回答)

すでに「調達コストが増加」は84.8% 

 最多は「影響を受けている」の84.8%(4,889社中、4,147社)だった。また、「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」が7.3%(359社)で、合計92.1%の企業が調達コストの増加に言及した。前回調査では91.5%(「影響を受けている」80.6%、「今後影響が見込まれる」10.9%)だった。
 「受けている」、「見込まれている」と回答した企業を業種別(中分類、母数20以上)で分析すると、楽器や花卉の販売を含む「その他の卸売業」や「金属製品製造業」など19業種で100%だった。

調達難アンケート

Q2.Q1で「影響を受けている」と回答された方に伺います。原油・原材料の高騰に伴うコスト増のうち、何割を価格転嫁できていますか? 

4割超が「転嫁できていない」

 「転嫁できていない」は44.2%(3,291社中、1,456社)と4割超に達した。一方、「10割」(全額転嫁)は4.4%(148社)にとどまった。前回調査では、それぞれ46.0%、5.8%だった。
 規模別では、「転嫁できていない」は大企業が45.5%(400社中、182社)に対し、中小企業は44.0%(2,891社中、1,274社)だった。
 「転嫁できていない」と回答した企業は、業種別(中分類、母数20以上)では「宿泊業」の87.5%(24社中、21社)が最も高く、次いで「不動産賃貸業・管理業」80.0%(30社中、24社)だった。

調達難アンケート

Q3.世界的な原材料不足に伴い、貴社の商品・サービスの生産・販売に関して、必要となる原材料や部品の調達遅れは生じていますか?(択一回答)

「調達遅れが生じている」が 70.9%

 最も多かったのは、調達遅れが「昨年と変わらず生じている」の29.5%(4,704社中、1,389社)。また、「昨年より悪化している」は22.6%(1,063社)、「昨年に比べて正常化しつつある」は18.7%(884社)だった。これらを合計した「調達遅れが生じている」は70.9%にのぼる。
 前回調査では、それぞれ26.8%、31.3%、16.2%で、「調達遅れが生じている」は合計74.5%だった。

調達難アンケート

Q4.Q3で「生じており、昨年より悪化している」、「昨年と変わらず生じている」、「生じてはいるが、昨年に比べて正常化しつつある」と回答した方に伺います。原材料や部品の円滑な調達に向けて、現在どのような対応策を取っている(取る予定)ですか?(複数回答) 

「国内回帰」は3.2%

 Q3で、調達遅れが「生じている」と答えた企業のうち、3,120社から回答を得た。
 最も多かったのは、「調達先の分散」の48.9%(1,526社、前回49.6%)だった。以下、「在庫の積み増し」の44.9%(1,403社、同41.2%)、「代替的な原材料、部品への切り替え」の35.4%(1,105社、同36.6%)と続く。
 また、「生産拠点の変更」の回答も目立ち、「国内回帰」は3.2%(101社、同2.8%)、「国内回帰以外」4.1%(128社、同3.6%)だった。
 そうしたなか、「生産、販売活動の一時停止、縮小」は、7.9%(248社、同8.0%)にのぼり、影響は深刻だ。
 一方で、「対策は取っていない」と回答した企業は16.2%(508社、同16.3%)にのぼった。このうち、大企業は12.9%(424社中、55社、同12.0%)、中小企業は16.8%(2,696社中、453社、同17.0%)で約4ポイントの開きがあった。

調達難アンケート

 原油・原材料価格の高騰によって調達コストが増加している企業は84.8%にのぼった。見込みも加味すると92.1%に達し、国内企業は激変する外部環境に翻弄されている。
 19業種では、今回のアンケートに回答した全ての企業が調達コストの増加に言及している。この中には、「繊維・衣服等卸売業」や「繊維工業」、「宿泊業」、「飲食店」などコロナ禍の影響を大きく受けた業種も含まれている。長引くコロナ禍に加え、ウクライナ情勢や円安、エネルギー価格の高騰など「複合危機」が企業を襲っているようだ。
 こうした状況下で、コスト増加分を「転嫁できていない」と回答した企業は44.2%にのぼる。大企業が45.5%、中小企業が44.0%と企業規模で大きな差はなく、多くの企業が利益水準の維持に苦慮している。
 転嫁できていない企業は、「宿泊業」や「不動産賃貸業・管理業」、「廃棄物処理業」など、製造業以外のエンド(川下)に近い業種が目立つ。こうした業種は、取引先に対して原価の積算を提示しにくい状況も想定され、価格転嫁にはさらに時間がかかる可能性がある。11月の企業物価指数が前年同月比9.3%上昇し、8カ月連続で値上がりが続くなか、サプライチェーンのどこに位置しているかが企業収益の明暗を分けかねない状況だ。
 また、必要な原材料・部材の「調達遅れが生じている」と回答した企業は70.9%だった。前回調査(10月)の74.5%より約4ポイント改善したが、依然として生産活動に大きく影響していることがわかった。円安や新興国を中心とした人件費の上昇が経営課題として注目を集めているが、調達遅れの対応策として「国内回帰」をあげる企業は3.2%にとどまる。前回調査(10月)は2.8%で、その後の急速な円安を経験した後でもこの比率に大きな変化はない。国内での操業をためらう理由を再度見つめ直す必要もありそうだ。

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