ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた「南のリング星雲」 形成プロセスに迫った研究成果も発表

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した惑星状星雲「NGC 3132」。左右ともに近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で取得したデータをもとに作成された画像で、異なる波長のデータを組み合わせているために左右で違う姿に見えている(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Orsola De Marco (Macquarie University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

こちらの2つの天体は、どちらも「ほ座」の方向約2000光年先にある惑星状星雲「NGC 3132」です。その姿から、NGC 3132は「南のリング星雲(Southern Ring Nebula)」「8の字星雲(Eight-Burst Nebula)」とも呼ばれています。

惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が進化する過程で形成されると考えられている天体です。太陽のような恒星が主系列星から赤色巨星に進化すると、外層から周囲へとガスや塵が放出されるようになります。やがてガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが中心星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになります。

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線装置(MIRI)」を使って取得した画像をもとに作成されています。同じ星雲なのに左右で違う姿に見えるのは、画像の作成時に組み合わされたデータが異なるから(※)。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、左の画像ではNGC 3132の中心にある連星を取り囲む高温のガスが、右の画像では星から放出された物質の流れが際立つように、それぞれデータを選んで作成されています。

※左画像…1.87μmと4.05μm(NIRCamで取得)に青と緑、18μm(MIRIで取得)に赤を割り当て。右画像…2.12μmと4.7μm(NIRCamで取得)に青と緑、7.7μm(MIRIで取得)に赤を割り当て。

ちなみに、ウェッブ宇宙望遠鏡の科学観測によって取得された高解像度画像は2022年7月に初めて公開されましたが、その時に画像が公開された4つの天体の1つがNGC 3132でした。今回公開された冒頭の画像とは違い、初公開時の画像ではNIRCamとMIRIの画像が別々に組み合わされており、観測装置によって見え方が異なる星雲の姿が強調されていました。

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【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた惑星状星雲「NGC 3132」。左は近赤外線カメラ(NIRCam)、右は中間赤外線装置(MIRI)を使って取得した画像をもとに作成。2022年7月公開(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI )】

マッコーリー大学のOrsola De Marcoさんを筆頭とする研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡などの観測データを分析した結果、複雑な構造をしたNGC 3132の形成には中心星の他に少なくとも2つ、おそらく3つの伴星が関わっていたとする研究成果を発表しました。

次の画像は、研究チームが提案したNGC 3132の形成プロセスを段階的に示した図です(A~Fの順)。Aは星雲が形成される前の様子で、Fは現在観測されているNGC 3132を示しており、星雲の中央では塵に囲まれた中心星の星1(赤)と、明るい伴星の星2(青)が輝いています。星1と星2はウェッブ宇宙望遠鏡の画像にも写っていますが、他の伴星は小さくて暗いためにウェッブ宇宙望遠鏡の画像には写っていないか、あるいは恒星として死につつある中心星と融合しているとみられています。

【▲ NGC 3132の形成過程を示した図(A~Fの順、アルファベットは筆者が追加)(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Elizabeth Wheatley (STScI))】

星1とその伴星である星2は比較的離れつつゆっくりと公転しあっていましたが、星1のすぐ近くでは別の伴星も公転していました(A)。やがて星1は膨張を始め、すぐ近くを周回していた伴星の星3を飲み込みます(B)。さらに膨張した星1は、別の伴星である星4とも相互作用するようになりました(C)。星3や星4からは双極方向にジェットとして物質が放出されたとみられています。

外層からガスや塵が放出されたことで星1の熱いコア(核)が露出すると、周囲に放出され広がったガスや塵のなかに星1からの紫外線や星風によって泡状の空洞が生じるようになります(D)。その後、星3や星4よりも外側を公転していた伴星の星5との相互作用によって星雲の大きなリング状の構造が形成され(E)、現在観測されている姿(F)になったと研究チームは考えています。

NASAによると、研究チームは欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」とウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを組み合わせることで、かつての星1は質量が太陽の約3倍の星だったことを突き止めました(現在観測されている星1の質量は太陽の約60パーセント)。星のもともとの質量を知ることは、惑星状星雲がどのようにして形成されたのかを知る上で重要だといいます。

研究チームは今回の成果について、ウェッブ宇宙望遠鏡による将来の惑星状星雲観測に向けた先駆的な事例と位置付けており、星風の衝突や連星の相互作用といった基本的な天体物理学的プロセスについて独自の知見をもたらすものだとしています。冒頭の画像は、NASA、ESA、ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から2022年12月8日に公開されています。

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Orsola De Marco (Macquarie University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI), Illustration: NASA, ESA, CSA, STScI, Elizabeth Wheatley (STScI)
  • NASA \- NASA’s Webb Indicates Several Stars ‘Stirred Up’ Southern Ring Nebula
  • STScI \- NASA’s Webb Indicates Several Stars ‘Stirred Up’ Southern Ring Nebula
  • De Marco et al. \- The messy death of a multiple star system and the resulting planetary nebula as observed by JWST (Nature)

文/松村武宏

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