クリスマスを盛り上げたドラマ主題歌「サイレント・イヴ」に辛島美登里が込めた希望  切ない曲なのに勇気が湧いてくる “不思議”

バブルの世相てんこ盛り? ドラマ「クリスマス・イヴ」

DCブランドで身を固めた男どもは、『POPEYE』特集号を片手に街を奔走していた。とにかく格好つけたかったのだから仕方ない。クリスマスディナーを予約して、シティホテルを押さえ、ティファニーのオープンハートリングなどプレゼントの選定も余念なく… そうやって男どもはクリスマスを前にして、ことごとく散財していった。

そんな1990年の12月… TBS系で放送されたドラマ『クリスマス・イヴ』が、最終回を前にして、いよいよ佳境を迎えていた。主演は吉田栄作と仙道敦子、脇を固めていたのは、清水美沙、松下由樹、宅麻伸、ヒロミである。当時の女優さんとしては珍しく、耳をクリっとだしたショートカットの仙道さんが可愛くて印象的だったよね。このドラマ、エンドロールのクレジットに「ブレイン・スタッフ秋元康」と名前があったけど、ドラマの中にさり気なく当時の世相が反映されていたのは、そのせいかもしれない。

それはさておき、今回はドラマ『クリスマス・イヴ』の主題歌「サイレント・イヴ」が本題である。どうして僕らはこんなにも哀しく切ない曲に心奪われてしまうのだろう…。

希代のメロディメーカー、職業作曲家としての辛島美登里

「サイレント・イヴ」を聴くと、とても切ない曲なのに不思議と勇気が湧いてくる。それは、マイナーな曲調から展開させるサビの旋律が素晴らしいからだ。その美しいメロディは、どこか聴く人に力強ささえも感じさせてくれる。きっと自分自身の武器であるベルベット・ボイスの魅力を十分に引き出しているからだろう。

メロディメーカーとしての辛島美登里は、自分も含め歌手の力量や特性をちゃんと客観視できるのだと思う。歌い手を活かすことが出来るから、作曲家としても人気があるのだ。楽曲提供の多さがその証明だ。それに加えて、辛島が綴る物語性の強い歌詞が魅力的なのだからたまらない。

 真白な粉雪
 人は立ち止まり
 心が求める――    ―― 引きよせても
 なぜ大事な夜に
 あなたはいないの

「サイレント・イヴ」は、ひとりでイヴを過ごしながら悲しみを回想するモノローグが主体だ。基本は「今日だけは泣いてもいいよ」と自分自身を慰める歌だけど、最後、その悲しさを跳ね返して幸せを勝ち取ろうという意志と希望を添えたところに、辛島のやさしさが感じられてならない。

辛島美登里のメッセージ、「恋することを怖がらないで」

 さよならを
 決めたことは
 けっしてあなたのせいじゃない
 飾った花もカードもみんな
 Merry Christmas for me
 “ともだち”って
 微笑むより
 今は一人で泣かせてね
 もう一度 私の夢を
 つかむまで Silent Night

さよならするのは自分のため。それに、「今日から私たちは友だちね」なんて笑えるほどお人好しでもないわ。でもね、あなたは悪くないの。それは本当よ。人の心は移り変わるものだし、好きな気持ちを抑えるなんてそんなこと誰にもできっこないの。だから気にしないで… 私は私で、きっと幸せになってみせるから――。

辛島の描いた物語を噛み砕いた言葉で補足するとこんな感じじゃないだろうか。

僕は、この曲の歌詞をこう考察する。

「あなたのためじゃない」と「あなたのせいじゃない」という韻を踏んだ二つのフレーズは、どちらも理解ある女性を演じただけのこと。それは、彼に対して一矢報いたい彼女自身の強がりに他ならない。本当は、悲しくてやりきれないという気持ちの裏返しなのだ。これは、この曲に自分を重ね合わせた多くの人が共感するだろう。

そして、歌詞の最後に綴られた「もう一度私の夢をつかむまで」とは、失恋でクヨクヨしている人たちに向けた強いメッセージ。この曲を聴いて、なんて切ない曲なんだろうと思いながらも勇気が湧いてくるのは、辛島がこの曲に忍ばせた「恋することを怖がらないで」という思いを自然と感じ取っているからだ。

 Merry Christmas for me

もしも、今年のイヴをひとりで過ごすのであれば、この曲でひとしきり泣いたあとに勇気をもらってほしい。幸せをつかむために明日があるのだから。

カタリベ: ミチュルル©︎たかはしみさお

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