忘年会、参加したい?

 世の中には分からないことが多いもんだ。「徒然草」の第百七十五段は〈世には、心得ぬ事の多きなり〉で始まり、こう続く。〈まづ酒をすすめて強(し)ひ飲ませたるを興とする事、いかなる故とも心得ず〉▲無理やり酒を飲ませて面白がるとは、どんな理由だろうが理解できない。兼好法師は眉をひそめる。逃げる人を引き留め、飲ませようとして…と、たちが悪い人の描写が続く▲600年以上も前の“実例”は現代にも通じている。今では「飲酒の強要」はパワハラで、若い人を職場の懇親の場から遠ざける理由の一つとされる▲ほかにも「上司の話が退屈」「気を使う」と親交を避ける向きが強まり、日本生命保険の昨年の調査では、お酒で職場の仲を深める「飲みニケーション」を「不要」としたのは6割に上る▲コロナ禍で「飲みニケーション」の場が減って、若い人には幸いだろう…と思っていたが、違うらしい。別の企業の調査では、今年の忘年会に「参加したい」という割合は20代が最も高いという▲社会人になって職場の人と親睦を深めたことがない。そんな人にとって忘年会は「渋々(しぶしぶ)」ではなく「いそいそ」と参加する場に思えるのかどうか。新型コロナの第8波が襲う師走だが、兼好法師の心持ちとは正反対の交わりを、いくらか経験できればいい。(徹)


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