「撮影罪」「グルーミング罪」新設検討 子どもの“性被害”を抑制する効果はある?

子どもを持つ親にとって“恐ろしすぎる”調査結果が、今年6月、内閣府より発表された。

オンラインアンケートによって、全国の16~24歳の男女約6000人のうち、4人に1人が「何らかの性暴力の被害」経験があることが明らかになった。より若年の未成年者を対象にした統計に限っても、近年、性被害の件数は高止まりしている。

12月13日に発表された「犯罪白書」からも、道路交通法や軽犯罪など特別法犯の検察庁新規受理人員が軒並み減少している中、児童買春・児童ポルノ禁止法違反は増加していることがわかった。

さらに、警察庁の調査により、昨年「児童ポルノ事犯」の検挙によって「被害者であることが特定された」男児が157人いたこともわかっている。女児と比べれば10分の1程度の被害児童数ではあるものの、男児でも被害に遭わないとは言い切れない。

若年層の性被害が後を絶たない状況の中、性犯罪をめぐる刑法の見直しを議論している法制審議会は、「グルーミング罪」と「撮影罪」の新設を盛り込んだ試案を、10月24日に公表した(https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi06100001_00067.html)。

規制されていなかった子どもを“手なずける”行為

一般的に“グルーミング”といえば、猫やサルなどがお互いの毛づくろいをする行動をさすことが多い。しかし、性犯罪においては、わいせつ目的で子どもに近づき、“手なずける”行為を意味する。

たとえば、SNSで子どもと知り合い、信頼を得た上でわいせつな画像・動画を送らせるよう指示する「オンライン・グルーミング」。また、子どもと近しい関係にある家族や親せきなどが“肩をもむ”といった行為から、徐々に体に触れるようになるといった例なども挙げられる。

「信頼関係」をもとに、わいせつ行為へと発展していくため、被害者である子どもが被害に遭っていることを認識できないケースも多い。

このような“グルーミング”には、行為そのものに対して現行の刑法で取り締まる術がなく、これまで児童ポルノ禁止法、青少年保護育成条例などによって対処されてきた。

今回の試案は「行為そのもの」に罰則を設けることが盛り込まれたもの。16歳未満にわいせつ目的で面会を要求すれば、『1年以下の拘禁か50万円の罰金』、実際に面会すれば『2年以下の拘禁か100万円以下の罰金』と示されている。

また、悪意なく子どもと接した人が処罰されないよう、面会を要求する際に、「うそをつく」、「金銭を渡す」といった行為があることを罪の構成要件に含めた。さらに、性的な映像を送るよう求める行為も処罰対象となる予定だ。

グルーミング罪の“課題”とは?

一方「盗撮」も、これまで行為そのものは法律で禁止されておらず、軽犯罪法や各地の条例で撮影するシチュエーションが規制されていた。航空機内での盗撮などは、どの自治体の条例を適用するのか判然としなかったが、「撮影罪」が制定されれば全国どこにいても統一の規制が適用されることになる。

試案では、性的な部位や下着、わいせつ行為の盗撮のほか、わいせつなものではないと誤信させて性的部位を撮影するなどの行為を対象とし、『3年以下の拘禁か300万円以下の罰金』。映像を不特定多数に提供すると、『5年以下の拘禁か500万円以下の罰金』などと示された。

被害者支援委員会に所属し、性犯罪事件にも対応している中野佳奈弁護士はこれら試案について、「性犯罪の重大さについて社会にメッセージを示すものであると言える」と評価する一方で、被害者の支援につながりにくい“課題”についても話す。

「グルーミング罪は、わいせつ目的の立証が難しく、犯罪の成否の線引きが不明確となってしまう危険性が懸念されます。

また撮影罪についても、『被害者が拒絶の意思を表明することが困難だった』、『わいせつなものではないと誤信させられた』など事後的な立証が難しく、犯罪の証明が困難になる可能性があります」(中野弁護士)

法務省は試案について、議論がまとまれば刑法改正案を国会に提出する予定としているが、性被害者の支援の観点からは、まだまだ審議の余地があるといえそうだ。

子どもを守るために親がすべきこと

現在発表されている試案や、議論が深まりまったく新しい試案ができるにしても、刑法改正案が国会で成立するまで、性犯罪は現行の刑法にもとづく対処が続く。

まだ罰則規定のない“グルーミング”行為などから子どもを守るために、親や周囲の大人たちはどのような心がけが必要なのか、中野弁護士に話を聞いた。

子どもを持つ親が、“グルーミング”行為などの性被害を防ぐために、普段から子どもに伝えておくと良いこと(子どもが理解すべきこと)などがあれば教えてください。

中野弁護士:子どもの発達段階に応じて、「見せたり、触ったりすべきでない体の部位があること」を低年齢のうちから親子で話し合っておくことが重要だと思います。

また、近年はSNSなどの発達により、親から見えないところでの交流が増えているため、親がSNSを経由した犯罪の危険性を正しく理解し、子どもに伝えておくことも必要です。

特に子どもに対する“性犯罪”に対し、大人たちが持っておくべき共通認識はありますか?

中野弁護士:性犯罪は「女児に関わる問題」のように捉えられることがありますが、男児が被害者になることもあるということを社会全体で認識し、注意深く見守っていくことも必要だと思います。

性犯罪の被害について、まず“知っておいてほしい”という情報などがあれば教えてください。

中野弁護士:各地の弁護士会で、性犯罪の被害に遭われた方を対象とする無料法律相談を実施していますので、覚えておいていただきたいです。分からないことやご不安なことがあれば、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。もちろん未成年者でも利用できます。

各弁護士会の犯罪被害者法律相談窓口一覧(日弁連):https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/victim/whole_country.html

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