「子どもは親に新しい扉を開かせてくれる存在」。子育てには親自身のアップデートも大切【アーティスト草野絵美】

長男は2021年、小学3年生で動物のゾンビを題材にしたドット絵のNFTアートを販売。世界中のアートコレクターたちの目にとまり、数百万円で取引されるほどの人気に。

小学生NFTアーティスト Zombie Zoo Keeper(ゾンビ飼育員)のママで、起業家・アーティストとして活躍する草野絵美さん。10才と1才のきょうだいの子育てでは、子どもの知的好奇心を伸ばし、親自身も成長することを大事にしているそうです。デジタルネイティブ世代であり10年の子育て経験がある草野さんに、親も自分をアップデートする子育てのヒントを聞きました。

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良好な親子関係を築くこと、親も学び続けること

――草野さんの子育ての考え方の軸になっているのはどんなことか教えてください。

草野さん(以下敬称略) 私は大学のときに21才で出産し、1年間の休学後に研究室に戻り、「パターン・ランゲージで理想の子育てを探る」という研究をしていました。パターン・ランゲージを簡単に説明すると、ある「状況」で生じる「問題」をどのように「解決」すればいいのかを言語化する学問です。生まれたばかりの長男を育てながら、たくさんの親子にインタビューをして、育児のゴールを見つけたいと思っていました。

その研究を進める中で、育児にとって第1に大事なことは長い目で見て親子関係が良好であることだ、と強く感じました。そして、将来的に子どもに困りごとがあったときに気軽に話せる存在になることが、親としてのゴールの1つなのではないかと考えました。もちろん、生活力をつけてお金を稼いで自立してほしいとか、人に優しくしてほしい、といった希望もあります。でも親子関係も人間関係の1種ですし、子どもとの良好な関係を築くことを子育ての1つの軸にしています。

あとは、子育てを通して自分自身をアップデートし続けたいとも思っています。自分より20才も30才も年が離れている若者が家に一緒に暮らしていると、価値観のぶつかり合いもあるので、ぶつかりながら吸収して自分も成長したいと思っています。

――親自身が常にアップデートするために草野さんが日常的に取り組んでいることはありますか?

草野 現在2人を育児中の状況では本を読む時間がほとんど取れないので、家事や育児をしながらオーディオブックやポッドキャストを聞いて情報を得るようにしています。1才の二男を寝かしつけるのに抱っこしてゆらゆら動きながら、洗い物をしながら、洗濯物を干しながら、話題の人文学書、好きな作家の小説、海外の新しいビジネスの情報を取り入れるようにしています。そうしていると、あっという間に家事の作業も終わるし、自分の好奇心が外に向くし、本当に健全な時間だなと思っています。

あとは、もともと気になることや話題になっていることをネット検索して調べるのが好きなので、日ごろからいろいろと検索しています。話題の本や人気のYou Tuberや、どんなSTEAM教育の番組があるかな、とか。また、子どもが調べたいことがあるときには一緒にインターネット検索をしています。

――どんなことを検索しているのでしょうか?

草野 長男が漢字を覚えるのが苦手とか、算数のこの内容がわかりにくい、歴史の流れを理解したい、というときなどに、ゲーム感覚で学べるアプリや、解説のYouTube動画やアニメなどを検索します。
一緒に検索することで、検索した結果をファクトチェックして、正しい情報かどうかを精査するくせが長男にも自然に身についていると感じています。

――インターネット情報の取捨選択や正しいかどうかを見極める力を、親子のかかわりの中でも自然と学んでいるんですね。

草野 そうですね。あとは夫が研究者なので、情報が正しいのか、論文があるのか、というのを調べるくせがあって、調べ方もすごく上手なので、長男も夫にかなり影響されている部分はあると思います。どういうキーワードで検索すれば必要な情報を得られるか、を知っていることは重要な能力だと思っています。

人生を謳歌している親の背中を見せたい

「PPAP」で世界的に人気となったピコ太郎とコラボレーションした楽曲「Zombie Zoo to Pikotaro Desu」のMV撮影のワンシーン。

――草野さんは21才で長男を出産し、育児をしながら大学を卒業、就職し、アーティスト活動、現在は起業もして多方面で活躍しています。草野さんが手がけるNFTアート『新星ギャルバース』も大ヒットし、とっても多忙に自身の人生も充実している印象です。親が自分の人生を楽しむことも、子育てにとって重要でしょうか?

草野 親が楽しそうに仕事をしていたり、自分の人生を謳歌(おうか)している姿を見せたりすることは、子育てにおいてとても重要だと思っています。
私自身も、父親がいきいきと仕事に取り組んでいる姿を見て育ち、尊敬するとともに、自分も好きなことを仕事にしたいと思いました。今は作家をしている母は、私が大学生になるまではずっと専業主婦でした。趣味のグループに入って楽しんだり、地域の活動に熱心に取り組む母の姿を見るのはすごく好きでした。そんな両親の背中を見て育ったので、親になったから何かをあきらめたりしなくていいと思っています。

子育て中って、生活の中の一つ一つの小さなことで自尊心がなくなってしまう要素が多いと思うんです。「また保育園に忘れ物をしちゃった」とか「トイレトレーニングが全然進まない」とか「習い事をさせたいけどお金がない」とか・・・。完璧にやろうとすると落ち込んでしまいますよね。だから子育て中は、自分に甘いくらいでいいと思います。親が自分の人生を犠牲にしないこと、自分で自分の機嫌を取れるようにしておくことを心がけています。

子どもは新しい扉を開いてくれる存在

11月中旬、Airbnbの別荘を借りて家族で箱根旅行へ行ったときに撮影。

――子育て中はつい自分を後回しにしてしまう人も多いと思います。草野さんは自分を大切にするために具体的にどんな工夫をしていますか?

草野 1人で子育てしようと頑張りすぎないことでしょうか。いろんなところに少しずつ分散して頼るようにしています。私たち夫婦は同じくらい仕事が忙しいので、家事・育児は分担しています。母親もサポートに来てくれるので、恵まれているとも思います。

今の夫とは再婚なのですが、長男を産んだときはワンオペ育児でした。その中でも、内閣府が発行しているベビーシッターの割引券(企業主導型内閣府ベビーシッター利用支援事業)のことを事前に調べて頼れるベビーシッターを探しておくとか、食事が作れないときのために安くて健康的なお総菜が買えるお店を何軒か目星をつけておく、といった工夫をしていました。子育てに悩んだときは、教育のプロである保育園の先生に積極的に相談するなどして、できるだけ自分1人にかかる子育ての負担を軽くする工夫をしていました。

もう1つは、子どもと一緒に過ごす時間を、自分自身を高める機会にしよう、と意識していることです。
たとえば、子どもが歴史に興味を持ったら私も歴史を学び直せるチャンスだし、子どもが好きなアニメや漫画から、私の知らない分野の知識を得ることもできます。子どもの興味に親も知的好奇心を持って飛び込んでみると、一緒に勉強できて子どもも楽しんでくれると思うんです。子どもは、新しい扉を開いてくれる存在だなと思っています。

お話・写真提供/草野絵美さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

草野さんのお母さんはイラストレーター・エッセイストの草野かおるさん。「母は知的好奇心が旺盛で、私に興味を持つ種をたくさんまいてくれました。いつも私の話をしっかり聞いてくれ、でも詮索しないし、『あなたはこういう子だから』と決めつけたりしないし、私にとっていちばんの理解者です。『なんでもチャレンジしてみたら』というスタンスで接してくれた母の子育てに、すごく影響されています」と草野さんは言います。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

草野絵美さん(くさのえみ)

PROFILE

1990年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。株式会社Fictionera代表取締役。アーティスト、東京藝術大学非常勤講師、Satellite Youngボーカルなど多彩に活動する。10才と1才のきょうだいのママ。長男はZombie Zoo Keeperの名前でNFTアーティストとして話題となった。NFTプロジェクト『新星ギャルバース』ではクリエイティブディレクションを担当。

草野絵美公式サイト

草野絵美ツイッター
Twitter:@neokosodate

『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』

デジタルネイティブ世代の著者がまとめた、不確実性の高い現代の「新しい子育て論」。子どもが集中している「フロー状態」を見極め、好き・得意を伸ばす方法や、YouTubeやiPadアプリを使った勉強方法などを解説。親自身が子育てを楽しみながら、アップデートするためのヒントも。草野絵美著/1540円(CCCメディアハウス)

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