<レスリング>【2022年西日本学生秋季リーグ戦・特集】選手経験のない女性審判員(津曲紗里菜さん=南九州大)がリーグ戦デビュー! 男女平等へ突き進む西日本学連

 

 ジェンダー・イコーリティー(男女平等、男女共同参画)が急務となっているレスリング界。西日本学生連盟は今年度、学生委員16人のうち11人が女子学生という画期的な構成を実現。来年度も16人中12人が女子学生とのこと。

 「イコールになっていない」との声もあるようだが、女性を積極的に登用する姿勢は、敷居を低くすることになり、運営に参加する気持ちを促す効果がある。多くの部門や連盟でのジェンダー・イコーリティーにつながっていくはずだ。

 そんな西日本学連に、レスリングを経験していない女子学生の審判員が誕生。女性審判員育成の新たな道しるべとなった。今大会、学生審判員としてホイッスルを吹いたのは、南九州大2年の津曲紗里菜さん(つまがり・さりな)。同部は、男子6人、女子5人のほか、女子マネジャーが4人いて、その一人だ。

▲選手経験なしの津曲紗里菜さん(南九州大2年)がリーグ戦の審判デビュー

 高校時代まではバスケットボールをやっていて、レスリングとはまったくの無縁。「吉田沙保里さんとか、有名な人の名前を何人か知っているだけで、試合を見たこともなかったです」という状況だった。

「自分の思った判定を、自信を持って出す」

 その程度の“知識”であっても、まったく知らないのとでは行動も違う。大学に進み、別なスポーツをやってみようとして足を運んだのがレスリング部。竹田展大監督に誘われたのがきっかけで体験入部へ。最初はマットの上で汗を流したが、「きつくて、自分には無理だと思って、マネジャーとしてチームを支えてみようと思いました」と、方向を定め、そのうちに審判の声がかかった。

 今年春の高校生の九州大会で見習いとして参加。大学の大会としては、7月の西日本学生新人戦でデビュー。大学選手の試合は判断が難しいアクションも多く、「自信を持ってやりたいのですが、自信がなくなるときもありました」と言う。そこを救ってくれたのが、連盟の小池邦徳審判委員長(天理大監督=国際審判員)。「ほめていただいたことがあって、それでやる気が出ました」と振り返る。

▲試合後、先輩審判員からのアドバイスに耳を傾ける津曲さん

 リーグ戦のような団体戦では、熱が入ると、判定に対してかなり厳しい野次も飛ぶ。レフェリーが判定を出す前に「4点!」などと叫ばれることも日常茶飯事の世界。最初のうちは「正直、流されてしまったこともあります」と言う。今は「自分の思った判定を、自信を持って出すようにしています」と言う。

 レフェリーをやっていて選手に近づきすぎ、ぶつかられたこともあるので、距離は十分にとって見やすいポジションを心がけている。ジャッジをやるときに一番気をつけているのは、自分の位置から見えてのポイントを意識すること。「レフェリーが2点を挙げたから、自分も2点を挙げる、ではないです」と強調する。

部内の練習試合で審判の練習、チームが育成に協力

 南九州大のある宮崎・都城市では、関東在住と違って、参加できる大会が多くなく、試合間隔が空いてしまう難点がある。そこは竹田監督が練習試合を組み、審判の練習もさせてくれる。審判の育成には、チームの監督の協力も不可欠だ。

▲ジャッジでも、周囲やレフェリーに流されず自信を持ってポイントを判断

 審判の道を歩み始めたばかりで、目の前の大会をこなすことが精いっぱい。「将来、オリンピックの試合を吹く」といった夢は、「まったく持っていません」と笑う。しかし、底辺を広げなければ、頂点は高くならない。多くの女性レフェリーを誕生させることが、将来、オリンピックに女性審判を派遣することにつながる。

 審判員になる条件に、「選手経験があること」という項目も不文律(ふぶんりつ=明文化されていないが、規則となっていること)もない。あらゆる方面に門戸を広げることが、ジェンダー・イコーリティーの実現に必要なこと。審判だけではなく、多くの役員に対しても同じことが言える。

 レスリング界のジェンダー・イコーリティーは、少しずつでも前進している。

▲女性審判の育成にも情熱を注ぐ南九州大の竹田展大監督とともに

▲祖父のような年齢の南九州大レスリング部創設者・西村盛正部長とともに

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