「生涯、創造性を大事に」 97歳の山下勉さん 相模原・緑区で絵画40点展示 戦時下生き抜き、芸術発展に尽力

作品展に展示されている水彩画を前に「いまも絵を描くのに夢中になる」と語る山下さん=相模原市緑区

 相模原市緑区に住む元教員・山下勉さん(97)の作品展が同区吉野の吉野宿ふじやで開かれている。戦時下を生き抜き、戦後は同区の藤野地域で小学校教諭を務めながら、絵画の指導に当たった。著名な芸術家たちとも交流を重ねた山下さんは「生涯、創造性を大事にしたい」と今も精力的に創作活動を続けている。

 芸術との出合いは小学1年生の時だった。担任の教諭に「絵を描いてきなさい」と言われ「兵隊さんと鳥の絵」の2枚を描いて持っていったところ、後日、展覧会でクラスメートの中で唯一、作品が飾られた。「うれしくて『僕は絵がうまいんだな』と得意になった」。絵を描く喜びを知った。

 だが、日本が軍国主義へと傾倒していく時代に「芸術家になる」という夢を持つことは許されなかった。模範的な軍国少年は、志願して陸軍工兵学校に入り「人殺しの訓練を受けた」。戦地に行くことなく終戦を迎えたが、軍人として死ぬことしか考えていなかったため、戦後しばらくは人生の目標を失ったという。

 生きる活力を取り戻したのは芸術との“再会”だった。藤野地域で小学校の教諭となった山下さんは、藤野に疎開していたオペラ歌手の佐藤美子と出会い、声楽のレッスンを受けることになった。

 「心の空白が一気に埋まるようだった」。歌うことにのめり込み、芸術家の集まる音楽会で歌を披露するまでになった。さらに藤野で同じように疎開生活を送っていた画家の中西利雄、猪熊弦一郎らとも出会い、中西からは直々に絵画の手ほどきを受けた。

 「人間にとって大事なのは創造性だと教わった」と山下さん。中学校の美術の教員免許を取得し、合唱サークルや絵画愛好会を立ち上げ、地域で芸術の発展に力を注いだ。教え子は100人を超える。山下さんが作品展に足を運んだ11月、会場は恩師を慕う教え子たちでいっぱいになった。

 展覧会では水彩画約40点が並ぶ。山下さんは「今でも絵を描くときはわくわくする。これからも元気である限り、描き続けていきたい」とほほ笑んだ。

 作品展は来年1月29日まで、吉野宿ふじやが開館する土・日曜・祝日(午前10時~午後4時、12月31日~1月2日は休館)に開かれている。入館無料。問い合わせは、同展を企画するNPO法人「ふじの里山くらぶ」電話042(686)6750。

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