【トマト銀行】一世を風靡した改称の“次の一手”は?| “ご当地銀行”の合従連衡史

大阪・南船場にある、一際目立つ看板のトマト銀行大阪支店

岡山市に本社を置くトマト銀行<8542>。行名を山陽相互銀行からトマト銀行に変更したのは1989年4月のこと。時代が昭和から平成へと変わり、“相互銀行業界”では相互銀行法の廃止が打ち出されるなどの金融規制の緩和により、国内の多くの相互銀行が普通銀行に転換したときだった。

「トマト」が示す決意

だが、当時は「なぜトマト? カタカナ銀行ってアリ? それに岡山ならモモじゃないの?」などと斬新な行名が話題を呼んだ。

ちなみに、2021年における県別のトマト収穫量ランキングは1位熊本県、2 位北海道、3位愛知県で、岡山県は30位。トマトの産地として、岡山県の影は薄い。だからこその「なぜ、その行名に?」なのだが、トマト銀行は同行ホームページ「社名の由来」のなかで、「トマトのもつみずみずしく、新鮮で、明るく健康的なイメージが、当社の目指すべき企業イメージとピッタリ合うということで発案されたもの」と述べている。

また、「円形の赤い実と放射状の緑のがくをあしらったトマトの絵とBANKの文字を合わせたユニークな絵文字シンボル」は「トマト・アイデンティファイア」の意気が込められ、「進歩的でクリエイティブな企業風土とユニークな活動を展開する決意」を表しているという。

確かに、この改称には「これまでの銀行イメージを一新し、何か新しいことをやってくれる」期待が高まった。改称当日の朝、本店には新行名とロゴの入った通帳やカードを求めて、多くのお客が並んだという。トマト銀行としても、瞬間風速的ではあったにせよ、新規客が増え、行員のモチベーションも上がったはずだ。

カタカナの行名がめずらしく、「お堅い銀行がふざけているんじゃないか」とさえいわれそうな面もあったが、この新行名は日本中で話題になり、その年の流行語大賞(新語部門・銅賞)にも選ばれた。

岡山駅前にある桃太郎像

昭和初期に倉敷無尽として創業

トマト銀行の源流をたどってみよう。トマト銀行は1931(昭和6)年11月、岡山県倉敷市で倉敷無尽として創業した。

その後、1941年3月には興国無尽、別所無尽という周辺無尽を吸収合併し、商号を三和無尽に変更した。1943年9月に中国無尽の営業のすべてを譲り受けている。そして1951年5月の相互銀行法の制定をきっかけに、三和無尽は同年10月に相互銀行に転換、行名を三和相互銀行とした。さらに1969年4月、山陽相互銀行に改称した。

トマト銀行に改称したのは前述の通り1989年4月。トマト銀行のM&Aとしては2002年、岡山県信用組合が破綻した際に、その救済銀行として事業譲渡を受けている。

1989年にトマト銀行に改称して以降は、同行グループ内再編に取り組んだ。1986年4月に山陽ファイナンスとして設立されたトマトファイナンスを2003年11月に合併し、1985年2月に山陽サービスとして設立されたトマトサービスを2004年5月には清算した。

また1995年10月に設立したクレジットカード業務のトマトカードを2015年3月に、1998年7月に設立した銀行事務受託のトマトビジネスを2019年1月にそれぞれ完全子会社化している。


圧倒的存在の中国銀行と手ごわい信金の狭間で…

岡山県の地域金融を概観すると、トップに君臨するのは1878(明治11)年に第八十六国立銀行として創立し、昭和初期の金融恐慌のなか岡山・広島・香川・兵庫各県の60数行に上る銀行が合併して誕生した中国銀行である。すると、「トマト銀行が2番手?」と考えてしまうが、実はそう単純ではない。2000年に岡山相互信用金庫、岡山信用金庫、玉野信用金庫の3信金が合併して発足したおかやま信用金庫があるからだ。

2015年当時、帝国データバンクの「岡山県メーンバンク調査」では、シェアトップは中国銀行(47.00%)だが、2位はおかやま信用金庫(10.38%)で、トマト銀行は3位(10.33%)。この順位は前年と同様であり、トマト銀行にとっておかやま信用金庫は、事業形態は異なるもののシェアが拮抗するライバル関係にあった。

同調査の推移を見ると、2016年にはトマト銀行はおかやま信用金庫を抜き、第2位になった。最近では、2021年のシェアトップは中国銀行(47.00%)で変わらず、2位はトマト銀行(11.21%)で、3位はおかやま信用金庫(10.50%)となっている。

岡山の金融界では圧倒的な首位がいて、2番手と3番手がせめぎ合う。そのトマト銀行に、かつての行名変更のような起死回生の一策は見えてこない。地銀再編が叫ばれるなかでも自主独立路線を堅持し、相互扶助の精神で地域経済を支え続ける方針をとっている。

だが、再編の荒波がそれを許すかどうか。昭和初期の金融大合同を果たした中国銀行か、瀬戸内を挟み徳島大正銀行・香川銀行を傘下に置くトモニホールディングスか、さらに隣県地銀大手の広島銀行か……。地元金融界では「誰が熟れたトマトをもぎ取るか」という話にもなっているようだ。

文・菱田秀則(ライター)

M&A Online編集部

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