なべやかん遺産|「価値のない物」 芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「価値のない物」!

ゴミのような物からでも情報が

スペースジョッキー周辺の一部。パイプを粘土で固定。現場での作業風景が頭に浮かぶ。

我が家には様々なコレクションが膨大にある。その中には、価値のある物もあれば、価値を付けにくい物もあったり様々だ。

価値が付けにくいというのはどういう意味か? わかりやすく言うと鑑定番組的に出した時、番組スタッフも鑑定士さんも「こ、これは凄い物なのでしょうけど、値段は付けにくいですよね……」と相手を困らせる物の事である。値段は付かなくても価値がある物。一体どういった物かを今回は語ろうと思う。

映画『エイリアン』で使われたプロップがあるとしよう。エイリアンの頭であったり、卵であったりすれば誰が見てもわかりやすい。誰が見てもわかる物は価値があり値段も高額になる。だが、我が家にある物はスペースジョッキー(宇宙船のコクピット)の床だか壁だかの一部。こんな事を自慢されても困っちゃうでしょ?(笑)

でも、凄いのだか凄くないのだかわからないゴミのような物から情報が得られる。
スペースジョッキー周辺が当時どういった素材で作られていたかがわかる貴重な資料となるのだ!

プロップの破片からわかる情報は、普通のパイプと粘土質の物が使われているって事。映画を見ているだけじゃわからないからね。このような情報はエイリアンに関する専門誌を書く時に役に立つだろう。

タイムマシンのデロリアンの一部。パーツが一部でも存在していれば、使用されたミニチュアの大きさが割り出せる。

2015年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の劇中内で登場した未来のアメリカだった。第一作を観た時、2015年ははるか未来の世界と思っていたのに、すでに過去になってしまっている。タイムマシンのデロリアンは、生ゴミなどが燃料になるSDGsな乗り物。この辺は先見の明が素晴らしかったね。

ゴミを入れる場所は、デロリアンの印象的なパーツと言える。撮影では実車とミニチュアモデルが使われていて、ミニチュアモデル用に作られたゴミを入れるパーツを持っている。

これは、撮影用プロップの型から抜かれた物。パーツだけど、印象深い部分なので「おおおお~」と唸ってくれる人もいるが、やはりこれも一般人とマニアでは温度差が違う。

コレクターの執念

モンスター作りの神、マーセル・デルガド氏彫刻のジョー・ヤング。映画博物館を作るとしたら、これは絶対に飾りたい。

象徴的な物と言えば“顔”である。映画で使われるモンスターや怪獣はラテックスやラバーで作られる事が多いので、時が経つと腐るし崩れる。なので、古い作品に登場したモンスターや怪獣は、劣化のためこの世に残っている物が少ない。崩れ行く物を何とか残したい、これもコレクターの執念だ。

そんな執念の籠った物がマーセル・デルガドが作った『猿人ジョー・ヤング』(1949)の顔を型取りした物だ。マーセル・デルガドは、『キングコング』(1933)を作った人だ。特殊造形界のレジェンド中のレジェンド。キングコングが無ければゴジラも生まれていないかもしれない。

なのでマーセル・デルガドは、モンスター作りの神と言えよう。その神が彫刻した物を何としても後世に残したい、そんな思いで劣化し崩れかけたジョー・ヤングの顔にシリコンをかけ型取りした人がいた。これこそ執念。テレビ番組で鑑定士さんに値段を聞いたら、おそらくビックリするくらい安値が付くだろう。ヤフオクでも同じ結果だと思う。

でもね、この顔の意味するものって物凄いのだよ。モンスターの歴史が残っているのだから。そこがわからないようだと、こっちとしては悲しくなってくる。

恐竜のDNAを保存していたカプセル。普通の売っているカプセルを使っている。
木の破片。ロケ地はハワイ。

『キングコング』『猿人ジョー・ヤング』からモンスター映画の歴史が始まり、映画は進化して行く。『ジュラシック・パーク』(1993)の登場は新たな時代の到来だった。恐竜の造形物も凄かったが、CGも素晴らしかった。本物の恐竜がいるのではと思うような映像。

『キングコング』から60年の時が経ち、映像進化が驚異的なものになった。それでも全てがCGではなく、ちゃんと小道具は使用されている。その一つに、恐竜のDNAを保存していたカプセルがある。TRとあるので、ティラノサウルス・レックスのことだろう。

劇中では、恐竜や琥珀が目立つが、DNAを盗むシーンもインパクトがあるので目立ったプロップと言えよう。そしてCG多様シーンでは、グラント博士と子供達が草原でダチョウ型恐竜のガリミムスの群れから身を隠した木があるのだが、その木の破片がある。

普通の木の破片だけど、映画を変えた作品の印象的な撮影現場の一つという事で、これもある意味価値があると言えるのではないだろうか?かといって、カプセルも木の破片も鑑定団してもらっても価値が付くものではない。

値段以上に大切なもの

『アビス』で使われたと思われるドラム缶のミニチュア。
バットマンのマスクの破片。フォームラバーの厚み、マスクの色がわかる。

その他では、『アバター』で映画の映像を変えたジェームズ・キャメロン監督作品『アビス』(1989)で使用されたドラム缶のミニチュア、ティム・バートン監督作品『バットマン・リターンズ』で使用されたバットマンのマスクの破片がある。

ドラム缶は、どのシーンかさっぱりわからないが、画面に映って無くてもそれように作っているので見事な出来栄え。バットマンのマスクの破片からは、使用された素材、マスクの厚みがわかるので、バットマンを語る上での資料になる。

平成ガメラの傷。スクリーンではかなり痛々しい傷に見える。
円盤型オルガの破片。FRPで作られた事がわかる。

ハリウッド物ばかり紹介したので、最後に日本映画から二つ。平成ガメラの傷なんてどうだろう?劇中で敵怪獣と戦い傷付いていくガメラ。メインの着ぐるみに傷パーツを張り付けダメージバージョンにしていく。

ゴジラ映画からは『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999)に登場した円盤型オルガの破片。円盤が爆発した時の一部。こういった破片から得られる物は何か?それは当時の色である。再現する時に色の情報は大切。こんな物でも役立つ事はあるのだ。ガメラの傷、オルガ円盤の破片、実使用品の価値はいかほどに?(笑)

このように、値段=価値、というなら価値が無いゴミのような映画プロップが沢山あるのだと思う。映画の歴史=価値、とするなら、これらの物は大変価値があり映画博物館入り出来る物だ。

コレクションには値段以上に大切なものがあるので、そこも集めていかないと厚みのあるコレクションになっていかないと思っている。映画の歴史を追っていきたいので、これからもそんな値段の付かない物(一般的にゴミ扱いされる物)を沢山集めて行こうと思う。

なべやかん

© 株式会社飛鳥新社