「大鉄は、まだまだちゃんと生きてるんだよ!」星空列車~静岡・大井川鉄道復活の灯 “名物広報”の思い

静岡県中部を大井川に沿って走る「大井川鉄道」。SLの運転で全国にその名を轟かせるローカル鉄道だが、2022年9月の台風15号の影響で「過去にない大きな被害」を受けた。金谷駅から千頭駅を結ぶ「大井川本線」は、12月16日にようやく金谷駅―家山駅の間で運行を一部再開した。一方、南アルプス観光の拠点・千頭駅から井川の間をつなぐ山岳列車「井川線」は全線で運行を再開した。

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この井川線で、11月5日から土日限定で「星空列車」が運行されている。生活の光の影響を受けない山の中で冬の星空を楽しもうという企画。2022年は台風被害から早く復活してほしいと、星空ファンだけではなく、静岡県内外から多くの利用客を集めている。いま、「星空列車」に寄せる思いと期待を、大井川鉄道経営企画室次長で鉄道ファンには“名物広報”として知られる山本豊福さんにうかがった。

大井川湖上駅に到着した星空列車。漆黒の山々 に碧い夜空。入線した列車が放つ光の帯とのコ ントラストが美しい(写真提供:大井川鉄道)

Q「星空列車」はいつ始まりましたか?

山本; 2017年からなので、もう6年目になります。最初は本当に試験的に始めたもので、「本当に乗ってくれる方がいるのかしら?」って感じで始めたんですが、毎回毎回コンスタントな人数を集めて運転していますので、みなさんには「井川線の冬の風物詩」として定着したんじゃないかと思います。

Q「試験的に始めた」、とは?

山本;この井川線の走る川根本町というのが「日本で2番目に星空の見える町」なんです。2番目って、もう単純に聞き流していると「あ~2番目か」で終わっちゃうんですけども、「いやいや2番でもいいじゃないか!それを逆にウリにしていこう、それで普段走っていない井川線の列車に乗って、奥大井湖上駅で満天の星空を楽しもう」というアイデアが出てきました。

地域住民をはじめ、観光関係者などの総意として、臨時ダイヤによる「星空列車」が実現したんです。奥大井湖上駅の周りには、人家もないもんですから、夜の空を見るには非常に最適なんです。日にもよるのですが、星空がものすごく見える。「空中星だらけ!」っていう感じになります。

寒ければ寒いほど、星が見える。ちょっと寒さは我慢しなければならないですが、我慢しただけの星空が、参加者の心を癒やしてくれるのかなぁ。そういう空ですよ。(*注;川根本町は2006年の環境省の全国星空継続観察で「澄んだ星空 全国2位」に選ばれた)

星空列車は、夕闇の午後4時53分に千頭駅を出発。樹林を縫って、いくつものトンネルを抜けて、列車はゆっくり進む。途中から室内灯も暗くなり、車窓から澄んだ夜空に星がはっきり見える。途中、長島ダムが暖色でライトアップされていて、古城のような佇まいにも目を奪われる。

列車は、およそ1時間かけて奥大井湖上駅に到着。標高およそ500m、真っ暗なホームに降り立ち、天を眺むれば…「すご~い」「きれ~い」。乗客から声が上がる。満天の星は、何より光度が強い。ダム湖の上の橋まで足を延ばせば、湖面に星々が映える景色も。1時間たっぷり星空を堪能できる。午後7時5分、列車は湖上駅を出発し、午後8時8分、千頭駅に戻ってくる。

Q今年、お客様のご利用状況は?

山本;例年に比べますと、今シーズンは運転日数が32日間、本数が多いんです。日によっては、1日で100人前後の方が乗られて、という具合になりますので、これは「好調」ではないかと思います。

客車を7両つなげるんですけども、だいたいそうすると、座席の定員は250人くらい。ただ、今は人と人との間隔を取ってもらいたいってことで、そこは若干抑えめにして、150人くらいが定員です。そこで100人以上というのは、いい乗車率だと思います。お客様は、少なくとも星空列車を運転しなければ、来なかったみなさんなので、それは素直にありがたいと思います。

Qお客様からはどのような反響が?

山本;「本当にここは星がきれいね」って声がまず一番多いんです。いま、例えば、スマートフォンとかで写真も簡単に撮れるんですけども、写真では表せないきれいさ、素敵さ、生で見なきゃ分からない素晴らしさって非常にあると思います。ご参加していただいて初めて分かる。「うわさに違わぬ星だったよ」「よかったよ」という声は多くの方からいただきます。

それと若干なんですけど、鉄道ファンの方からもお声をいただきます。この星空列車の運行は普段走らない時間なので、井川線の「夜行列車が楽しい」って方もいるんですね。「あっ、なるほど!そういう楽しみ方もあるんだ!」って。ちょっとこれは僕には意外でした。

台風15号の被害。井川線は26か所だったが、1か月で全線運行を再開できた。一方、SLが走る本線は20か所で大きなダメージを受けた。全線運休が続き、ようやく一部再開となったが、完全復旧には相当時間がかかる見込みという。そこで「乗って大鉄(大井川鉄道)を支援したい」「楽しみつつ応援になれば」と星空列車に乗った人たちも多い。

Q乗客の「熱」を感じることは?

山本;それはね…思います。我々のことを心配してくださっている方っていうのがね、非常に世の中には多いんだってことを改めて気づかされます。「列車に乗りに行って応援するんだ」っていう直接的なね、メッセージもいただきますし、これ非常に我々にとっては心強い、支えになる、みなさんの動きだと思うんです。ありがたいです!

Qやはり今年、大井川鉄道として「星空列車」に寄せる思いは例年と違いますか?

山本;まだまだ、大鉄としては、全線が開通していない状態なんですけども、井川線については本当にいち早く平常通りの状態に戻った。それで星空列車も例年通りに行えるってことで、やはり「大井川鉄道が大井川流域に、まだまだちゃんと生きてるんだよ!あるんだよ!」ってことの証明になっていると思うんですね。そういう意味では、この星空列車、象徴的なものなんじゃないかと思います。

「普段の姿」をみなさんにお伝えする第一歩、二歩だったのかなっていう気がします。日本で2番目に星空が…って話なんですけども、いやいや!これは、ひょっとしたら、日本一じゃないかなって僕は思っています。寒い中、我慢してふるえながらでも見に行く価値のある星空。そこに誘う星空列車は「大鉄復活の灯」と感じています。

Qやはり「列車が動いている」ということが大きいと?

山本;我々大井川鉄道、井川線もそうですし、SLも同じだと思うんですけども、この流域の1つの「観光資源」だと思うんです。それが動き出したっていうことはやはり、地域を支えるという役割を、段々果たしていけるようになるのかなっていう感じがします。少なくともこの井川線は平常通りに動いている。これが何よりもやはり「いいこと」、単純な話なんですけど「いいこと」だと思うんです。

それで本線についても、南側半分(金谷駅-家山駅)とは言えども、電車も走っている、SLも走っている、(きかんしゃ)トーマス(号)も走っているってことで、本来の姿を取り戻しつつある。我々は、「平常の姿」へ一歩一歩、ゆっくりではあるんだけれども、歩みを始めたところ、元気になりつつある段階ではないかと思います。

*星空列車の運転は2023年2月26日まで(年末年始は除く)

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