景気後退に備えて覚えておきたい「連続増配ETF」を金融アナリストが解説

2022年12月14日(水)のFOMCでは、予想通り利上げ幅は前月までの0.75%から0.5%に縮小したものの、政策金利見通しでは2023年末の予想が5.00~5.25%に引き上げられました。パウエル議長会見では、継続的に利上げすることが適切であることが引き続き示されています。

バランスシートを見てみると、コロナ禍での異次元の金融緩和で「カネ余り」という言葉もメジャーになりましたが、これまで市場にお金が増えていっている状況が継続してきたのが、量的引き締め(QT)が始まって市場からお金が減っていく状況になっています。つまり、投資を取り巻く環境がかわってきているということです。これまでうまくいっていた投資法では上手くいかなくなってくる可能性が高いと考えます。

画像:Federal Reserve Board「Recent balance sheet trends」より引用

リセッション(景気後退期)が迫り来ると考え、「投資をしない方がいいんじゃないか?」という方もいるかもしれませんが、年金2,000万円問題やインフレもあり、預貯金だけで金銭的に安心して老後を迎えるのが難しいという方も多いのではないでしょうか。政府が「貯蓄から投資へ」と掲げるように、自分だけでなくお金にも働いてもらわなければいけない、投資はやらなければいけない時代といえます。

リセッションで値上がり益を狙うのが難しいのであれば、リセッションにも強いと考えられる銘柄やETFに投資をして、配当など安定したインカムゲインを確保するのを考えるのは一つの選択肢かもしれません。


VIG:バンガード米国増配株式ETFとは

私が注目しているのは、米国株の中でも過去10年間連続増配した銘柄に分散投資できるVIG:バンガード米国増配株式ETFです。

VIGは1銘柄で10年以上連続増配の企業に分散投資できるETFです。米国で10年以上の増配(配当を増やし続けている)実績がある、中・大型株が組み入れられており、増配できる企業ということは企業業績が良くて、株主還元に積極的で、しっかり株主に還元できる企業ということです。

コロナ禍でも増配できるくらいの定性面の強みがあり、高収益であろう企業に分散投資できるETFといえます。そのため、リセッションや〇〇ショックなど下げ局面にも割と強いと考えられます。加えて米国株は日本株に比べて株主還元が高いですし、日本よりも世界的な大企業が多いことや円安リスクを考えても、アメリカのETFに投資をする優位性を感じています。

VIGの経費率は0.06%とコスト面で有利なところもポイントです。Bloombergによると直近配当利回り(税込)は1.82%となっています。組入れ銘柄も定性面の強みのある銘柄やブランド力の強い銘柄、技術力で他の追随を許さなかったり、スケールメリットが考えられるような各セクターのトップ級やトップシェアの銘柄がそろっていたり、配当貴族や配当チャンピオンと呼ばれる長年増配を続ける銘柄も多いのが特徴です。

VIGの上位3銘柄は?

VIGの組み入れ上位3銘柄を見てみましょう。

(1)【UNH】ユナイテッドヘルス・グループ

医療保険やヘルスケアサービスなどを提供するユナイテッド・ヘルスケア(UnitedHealthcare)社と、医療データの情報サービスなどを提供するオプタム(Optum)社がビジネスの柱となっている、グローバルに展開する米国最大級のヘルスケア企業です。ダウ30種平均株価の構成銘柄でもあります。

米国は日本とは保険制度が異なり、医療費を民間の医療保険で備えることが基本になっています。そのため個人負担が高額になることもあるので、多くの方が勤務する企業や団体を通じて医療保険プランの団体保険にはいるか、団体保険に入れない人は各自で保険のプランに入ることとなります。

リセッションでも需要が減ると考えにくいですし、長期的にみても人口の増加と、高齢化を背景に保険や医療ニーズの高まりで、この企業のビジネスに対する需要は底堅いと考えます。

(2) 【JNJ】ジョンソン・エンド・ジョンソン

世界最大級のヘルスケアカンパニーで、医薬品の研究開発から製造、販売を中心に医療機器や日用品まで幅広い事業ポートフォリオを有しています。日本では「バンドエイド」や「ジョンソン」ベビー製品などの消費者向け製品、使い捨てコンタクトレンズ「アキュビュー」などで有名ですね。

医薬品、医療機器・診断、消費者の3部門で構成されていて、それぞれが分かれていることで効率的な経営がされている企業です。世界トップクラスの研究開発投資でそれが新製品の開発や販売が多いこと、M&Aや社内新規事業開発にも積極的で、同社の成長性につながっています。

BtoCではなく、BtoBの医療機器や医療品の売上高がと多くを占めていることで事業に安定性があるほか、利益率が高めであることも強みです。50年以上連続増配の配当王でもあります。

(3)【MSFT】マイクロソフト

1975年にビル・ゲイツ氏によって創業されたソフトウェアの巨大IT系企業です。ワードやエクセルなどの「Microsoft Office」シリーズやコンピューター用OS「Windows」、家庭用ゲーム機「Xbox」などで知名度が高い企業であり、1986年にNASDAQに上場していた老舗のハイテクといえる企業です。クラウドサービスの「Azure」やデバイス・プラットフォーム事業も展開しています。

シェアが大きく、私自身も「不景気でもWindowsは使うよ」「パワポもないと仕事できないよ」と感じているので、リセッションがきても需要は底堅いと言えるのではないでしょうか。

日本の連続増配ETFは?

日本のVIGと言えるETFは、One ETF 高配当日本株(1494)ではないでしょうか。

One ETF 高配当日本株は、TOPIXの構成銘柄のうち10年以上毎年増配しているか、安定した配当を維持している40〜50銘柄を対象とした株価指数である、S&P/JPX 配当貴族指数と連動する投資成果を目指すETFとなっています。配当利回り加重平均を用いて計算されており、定期入替は年1回行われています。One ETF 高配当日本株のコストに当たる信託報酬(税込)は0.308%、Bloombergによると直近配当利回り(税込)は3.32%です。

組入れ銘柄には、飲料缶やペットボトルなどの包装容器でトップシェアの東洋製罐グループホールディングス株式会社(5901)、創業以来330年木に関するビジネスを展開し、木材建材卸や注文住宅、海外住宅も手がける住友林業株式会社(1911)、1890年の創業以来専門知識やノウハウを武器に情報電子、化学品、生活産業、合成樹脂などを展開する化学専門商社の稲畑産業株式会社(8098)などが入っています。

皆さんの投資戦略の参考になれば幸いです。

12月12日週「相場の値動き」おさらい

12月13日(火)発表の11月の米消費者物価指数(CPI)は、総合指数は前月比が予想+0.3%に対して結果+0.1%(10月は+0.4%)、前年同月比で予想+7.3%に対して結果+7.1%(10月は+7.7%)、コア指数(食品とエネルギーを除く)は前月比予想+0.3%に対して結果+0.2%(10月は+0.3%)、前年同月比が予想+6.1%に対して結果+6.0%(10月は+6.3%)でした。

予想、前月を下回る結果だったことでインフレが鈍化してFRBの利上げの長期化懸念は後退した形といえそうですが、一転、12月14日(水)のFOMCでは予想通り利上げ幅は前月までの0.75%から0.5%に縮小したものの、政策金利見通しでは2023年末の予想が引き上げられ、パウエル議長会見では継続的に利上げすることが適切であり、インフレ率は長期目標の2%を大幅に上回っていることや金利上昇が企業投資を圧迫していると示されたことが市場の重しとなりました。

12月15日(木)に発表された11月の米小売売上高が前月比0.6%減と市場予想より悪化し、前日のFOMCの結果とも相まってより景気後退懸念が意識されているようです。S&P 500指数は200日線で跳ね返された形となり、下落のメガホンパターンでも下落方向に動いています。

TradingViewより

12月16日(金)の東京株式市場の日経平均株価は、日経平均株価は前日比524円58銭安の2万7,527円12銭と続落。12月9日(金)の日経平均株価は2万7,901円01銭でしたので、週間では373円89銭の下落となりました。

FOMCを通過してこのあとは薄商いとなることが予想されますので、ポジションにはご注意ください。

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