定期運行を終了した最後の「キハ28」 栄光の歴史をたどります いすみ鉄道は名車を3Dデータで保存【年末年始の乗り鉄・撮り鉄ガイド①】

キハ28は季節にあわせたヘッドマークを付けて運行。鉄道ファンに格好の被写体となりました(写真:いすみ鉄道)

2022年も残すところ2週間ほど。年末年始には、乗り鉄や撮り鉄を計画中の方もいらっしゃるでしょう。そんな皆さんのヒントになればと、今秋にイベントなどで訪れた鉄道や関係する話題を4回連載でご紹介させていただきます。初回取り上げるのは、千葉県の第三セクター・いすみ鉄道。

高度成長期の1960年代にデビュー、北海道から九州まで全国で活躍した国鉄のキハ58系気動車(DC)で、現役車両として最後まで残った「キハ28-2346」が2022年11月27日、定期運行を終了しました。

初の急行形気動車

いすみ鉄道のご協力をいただきいた本コラムは、ラストラン2日前の2022年11月25日に大多喜駅の車両基地で、キハ28の細部を取材。あわせてキハ58系のトリビア、そして2012年秋にいすみ鉄道に入線してからの歩みをまとめます。

国鉄の気動車史を大まかにたどれば、エンジンや動力伝達方式の進化を受け、初期の機械式から電気式を経て、1950年代後半に液体式が実用化され一応の完成をみました。液体式気動車は一般形(キハ17系、キハ20系)、準急形(キハ55系)、特急形(キハ81系)と用途に応じてバラエティーを増やし、1961年に登場したのが初めての急行形気動車のキハ58系です。

キハ58系は、北海道向けキハ56系(キハ56、キハ27、キロ26)、アプト区間対応(ディスクブレーキ方式)のキハ57系(キハ57、キロ27)、本州、四国、九州向けキハ58系(キハ58、キハ28、キロ28。ほかに少数のキロ58、郵便車のキユ25、郵便荷物合造車〈改造車〉のキユニ28も)の3系統に大別できます。

鉄道に詳しい方には説明不要でしょうが、2で始まるのは1エンジン、5は2エンジン。少ない両数でも編成が組めるよう、グリーン車以外には運転室が設けられました。

ハ28の運転席。機器類も今の鉄道車両に比べると非常にシンプルです(筆者撮影)

1800両以上が全国で活躍

キハ58系は全部で1823両も製造。外装は側面、運転室の窓回りと裾部分が赤のライン、窓上と窓下がクリーム色で、少数の修学旅行車を除けば北海道から九州まで同一の塗り分けが採用されたため、鉄道ファンばかりでなく一般利用客にも、最もなじみ深い国鉄車両の一つでした。

1990年代までは全国の地方線区どこでも見られましたが、2000年代に入ると急速に廃車が進み、2012年にいすみ鉄道にキハ28-2346に入線した時点で、既に「キハ58系最後の原形車両」(ジョイフルトレインなどへの改造車や留置車を除く)の形容詞がついていました。

「都会のお客さまはローカル線に新しいものを求めない」

いすみ鉄道のキハ28は1964年製で、鳥取県の米子機関区に新製配置。山陰線の急行「だいせん」、「伯耆」などに使用されました。

1972年に冷房改造。1985年には石川県の七尾機関区に転籍し、七尾線電化後はJR西日本の富山鉄道部道部、北陸地域鉄道部などを経て、2012年7月に廃車になった後、いすみ鉄道に譲渡されました。

それでは、いすみ鉄道は国鉄・JRの中古車をなぜ購入したのか。キーワードは「観光鉄道化」です。

「鉄道の歴史はスピードアップの歴史、そして近代化の歴史でした。車両も設備も新しくすることで、安全で快適な輸送が実現できます。でもローカル線は、近代化してダメになっているのかも。都会のお客さまは、ローカル線に新しいものを求めていない。だからあえて古いものということで、昭和の国鉄形気動車を採用しました」。

キハ28導入を決断した、鳥塚亮いすみ鉄道前社長(現えちごトキめき鉄道社長)は、こう回顧します(交通環境整備ネットワークの会報「地域交通を考える」第10号への寄稿から)。

ランチクルーズ・トレイン、ウエディングプラン

今は多くの鉄道会社が運転するレストラン列車。いすみ鉄道は先行集団を走りました(画像:いすみ鉄道)

いすみ鉄道のキハ28は、鉄道ファンや旅行ファン、ファミリー客などにたちまち評判を呼びました。2013年3月から観光列車として営業運転に入りましたが、それに先だって大多喜駅でお披露目イベントを開催。地元千葉県はもちろん、関東一円から約500人のファンが訪れました。

キハ28を活用した観光列車が「レストラン・キハで楽しむイタリアン・ランチクルーズ・トレイン」で、走行中の車内でイタリア料理を提供。羽田空港発着のバスツアーも組まれました。

もう一つの企画が、列車内で結婚式を挙げる「いすみ鉄道ウエディングプラン」。名称的に縁起のいい大多喜駅を出発、終点の上総中野からJR外房線と接続する大原までの全線を走行します。

ケーキカットに代わるのは、新郎新婦が招待客のきっぷにはさみを入れる鉄道ならではのセレモニー。地元のウエディングプロデュース会社が、アイディアを出しました。

3次元データで名車を後世に

こうして鉄道の利用促進や地域振興に貢献してきたキハ28ですが、やはり半世紀以上前の鉄道車両とあって老朽化には勝てません。

特に、問題なのが2023年2月に迫る全般検査。自動車の車検に当たる全検では機器の交換や修繕が必要で、概算費用は1億円以上。いすみ鉄道は「運行を続けたいのは当然ですが、資金面を考えると難しい」とします。

ここからは本サイトでも紹介された、キハ28の保存プロジェクト。現車のほか車両を詳細な3Dデータで記録します。一部費用は、クラウドファンディングで調達します。

3Dデータは、ミリ単位で正確なサイズを計測できるレーザースキャンで、まるごと3次元データとして記録します。建築物ではいくつかの事例があるようですが、鉄道車両ではファンによる個人レベルを除けば初めてとされます。

興味ある方は、本サイトの紹介記事、そしてクラファンサイト「うぶごえ」をぜひチェックしてみてください。終了は2023年1月15日23時59分。「いすみ鉄道『キハ28ー2346号車』保存プロジェクト」は目標280万円のところ本コラム執筆時点で181万5653円の支援が寄せられています。

定期運行最終日は、大多喜駅や国吉駅でお別れイベント。2023年1月ごろまでイベントや特別列車で運行された後、完全引退する予定です。

いすみ鉄道へのアクセスは、JR外房線大原または小湊鐵道上総中野から。〝裏技〟では、JR東京駅と大多喜を結ぶ高速バスも運行されています。

記事:上里夏生

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