クリスマスにペットを買わないで…私たちが訴え続ける理由 大量流通の裏に動物たちの犠牲【杉本彩のEva通信】

クリスマスにペットを買わないで
角川つばさ文庫「どうぶつと暮らすということ ペットの声を聴いてみよう」

ペットの無責任な購入を防ぐため、当協会Evaは「クリスマスにペットを買わないで」というキャンペーンを、この時期に毎年行っている。もちろんクリスマスでなくとも、ペットの無責任な購入は当然すべきではない。だが、この時期にあえてキャンペーンをするのは、街はクリスマスセールなどで、人の購買欲を刺激する宣伝に溢れているからだ。それは、ファッションアイテムや雑貨、食料などの品物に限ったことではない。ペットショップに並ぶ仔犬や仔猫なども同じように、クリスマス商戦に参戦する商品として扱われる。クリスマスムードに乗って一気に売りさばきたい、それがビジネスをする事業者というものだ。商品がペットでなければ何の問題もないだろう。けれど命あるペットは、ムードに流されて安易に買うものではない。そうでなくとも、仔犬・仔猫をショーケースに展示して販売するやり方は、衝動買いを促すに十分な条件が揃っている。ペットショップは、縫いぐるみのように小さくて可愛い仔犬や仔猫をお客に抱っこさせ、瞬間的に温もりと幸福感を与え、金銭的負担を感じないようローンにも対応する。だから、どんな人も簡単に手に入れることができる。可愛い仔犬や仔猫の魅力を目の前に、一時の感情に流されず、冷静になれる人はどれだけいるのだろうか。

■直接被害が及ばないと…

数年前のことだ。大した準備も覚悟もなく、ペットショップで仔犬を購入した知人を叱ったことがある。彼女は、娘がその仔犬と運命的な出会いを感じた、と衝動買いを肯定したいがための、運命という空想的な理由を並べた。私は呆れながらも、電話口でこんこんとペット流通の問題を伝えた。さらには生体展示販売に利益を与えることは、悪気がなくても間接的に動物を苦しめることに加担しているのと同じことになると伝えたが、それでも言い訳に終始した。しかし、それがトーンダウンしたのは、無責任な繁殖に伴うリスク、先天性疾患など健康上の問題について説明した後だった。乱繁殖させた仔犬や仔猫の購入には、多大な看病の労力と医療費の負担を抱える可能性がある。それを理解し、やっと自分の問題として耳を傾けてくれた。 残念だが、自分に直接被害が及ぶ可能性がないと、問題意識を持ってくれない人も多い。クリスマスシーズンはますます無責任な販売が加速し、それに伴い無責任な飼い主を増やしてしまう、そんな懸念の大きい時期なのだ。

ある動物保護団体さんからこんな話しを聞いたことがある。ペット流通の問題を街頭に立って啓発活動している時、孫へのプレゼントにペットを購入しようとしている女性と、偶然にも話すことができたそうだ。女性は、今まさにペットショップへ行くところだったという。大量生産・大量流通に支えられているペットの展示販売は、動物の犠牲無しに成り立つものではない。それを知った女性は、購入を踏み止まり、知ることができて本当によかったと言ってくれたそうだ。背景にある問題を知れば、聡明な消費者の皆様は賢明な判断をしてくださるはず。消費者が倫理的な購入に努めないかぎり、事業者の倫理観も向上しないだろう。不幸な動物を無くしたいと本気で思う皆様には、諸悪の根源とも言える大量生産ありきの展示販売について理解いただき、身近な方々にも是非お伝えいただきたい。

■育みたい動物を思う心

さて、動物の幸せと健康について考えてほしいと思うのは、未来を担う子どもたちに対しても同じである。当協会は「いのち輝く子どもMIRAIプロジェクト」と題して、ご応募いただいた小中学へ訪問し、無償で授業を行っている。動物の命と、動物を取り巻く問題を通じて、思いやりの心を育むというのが目的だ。無責任に動物を迎えることで招く不幸を無くしたいのはもちろん、将来子どもたちが大人になったとき、消費者として優しい選択をしてほしい。

そんな子どもたちに向けた取り組みが、また一つ形になった。当協会が監修を務める児童書が、角川つばさ文庫から今月出版された。本のタイトルは「どうぶつと暮らすということ ペットの声を聴いてみよう」。動物が大好きで、クリスマスプレゼントに仔犬が欲しいと親にお願いする小学5年生の女の子、みくちゃんが主人公の物語だ。しかし、お母さんに反対される。納得がいかないみくちゃんは、知り合いのあやさんに相談する。みくちゃんは、たくさんのかわいい犬や猫たちと暮らしているあやさんに憧れている。けれど、あやさんは「飼う前に、どうぶつの本当のきもちを知ってほしいな」と、ペットたちとの出会いを語り始める。飼い主に捨てられてしまった犬のモモ、暗闇の繁殖場で生まれ育った犬の小梅、被災して飼い主とはぐれた猫の月子……。切ない涙と笑顔に、心あたたまる5つの感動ストーリーで構成されている。

ペットたちの背景にある物語を知ったみくちゃんの、心の変化とその成長を描いた作品だ。お気づきの方もおられると思いますが、登場人物のあやさんは、私がモデルとなっている。そして、物語に登場する犬や猫たちも、里親になった私の経験がモチーフとなったものもあり、児童書向けにアレンジされている。私たちがこの本で子どもたちに伝えたいことは、動物の気持ちを想像することの大切さだ。お子さんはもちろんのこと、大人の方にも読んでほしい良作だ。

お子さんにプレゼントでペットをおねだりされている方、これから動物を迎えることを検討されている方、すでに動物と暮らしている方にも、動物と暮らすということがどういうことなのか、この本が理解を深めるための一助となることを願っている。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

 出典:YouTubeの「公益財団法人動物環境・福祉協会 Eva」チャンネルから

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