児童養護施設で相次ぐ職員の離職 背景に「ホワイトじゃない」職場環境 改革を目指す副施設長と、入所していた大学生のアイデアとは

児童養護施設「星美ホーム」で過ごす子どもたち

 保護者による虐待や家族の離別など、さまざまな事情を抱えた子どもを受け入れる児童養護施設。施設が抱える長年の悩みの一つに、職員の離職がある。トラブルがあれば時間を問わずに対応を求められることも少なくない。このため、やりがいを持って入ってきても、やがて疲弊していく職員は多い。さらに、職員の妊娠や出産、子育てといったライフイベントに応じてサポートする制度も不十分で、続けたくても辞めざるを得ないケースも目立つ。
 入所している子どもにとって、親しい職員が辞めていくのはショックが大きい。子どもたちの成長のためにも、できれば長く付き合える職員が望ましいのは当然だ。離職を防ぐにはどうすればいいのか。この難題に正面から取り組んだ東京都北区の副施設長を取材した。(共同通信=大森瑚子)

児童養護施設「星美ホーム」の職員ら

 ▽1人が辞め、負担が増えてまた辞めていく「負のスパイラル」
 児童養護施設「星美ホーム」(東京都北区)副施設長の立入聡さん(54)は、離職への対応に頭を悩ませてきた。職員が1人が去るだけで、その影響は計り知れない。「慕っていた職員が去ることで精神的に不安定になり、生活が乱れる子もいる。残った職員が対応に疲弊して辞めていく、負のスパイラルに陥る」
 厚生労働省によると、全国の児童養護施設は2021年3月末時点で612カ所。職員数は、20年10月1日時点で合計2万1人。東京都社会福祉協議会の児童部会によると、20年度の職員の退職理由は、転職の他で多かったのは「子どもの支援全般に悩み疲れた」だった。子どもの力になろうと働き始めた人が、子どもとの関係に疲れて現場を去っていた。

 ▽職場に定着しない理由は。働き方に無理があった
 星美ホームの立入さんが施設を存続させるために重視したのは、職員が長く働ける職場にすること。制度の変化によって児童数に対する職員の配置基準は年々手厚くなってはいたが、職員を新たに確保するのは簡単ではないからだ。
 本格的な対策に取り組み始めたのは5年ほど前。大きな課題の一つは、子どもとのコミュニケーションで精神的に疲弊し、職員が体調を崩すことだった。そこで、子どもとの相性を考慮し、人間関係に悩んだ職員は入れ替えるなど、柔軟に対応することにした。職員同士のつながりも強化し、相談しやすい雰囲気づくりに力を入れた。
 次は働き方。以前は、男女問わず平等に泊まり勤務が割り当てられていた。このため、女性は出産を機に退職するのが当たり前だった。
 対策として時短勤務を導入し、出産後も女性が働き続けられる環境を確保した。産休・育休の取得人数がそれまでは0人だったが、現在は8人が利用している。立入さんは「ライフステージが変わっても職場に残り、経験を仕事に生かしてもらえば施設の強みになる。職員の安定が、子どもの安定にもつながる」と語る。

 

「ALLHOME」を運営する吉住海斗さん

 ▽子どもにとっても離職はショック。「つらい経験が塗り重ねられた」
 児童養護施設出身者のある若者も、職員の離職対策に乗り出した。取り組んでいるのは、就職希望者と仕事のマッチングだ。都内の大学に通う吉住海斗さん(23)は、中学、高校時代を施設で過ごした。吉住さんが入所していた施設は他と比べても離職者が多く、数年間で10人以上の職員が辞めていった。「退職を突然知らされることもあり、つらかった」
 高校生でアルバイトを始めた吉住さん。ただ、施設には厳格なルールがあり、次第に窮屈に感じるようになった。あるとき、友人とカラオケに行くために制限を超えた小遣いを使ったことを責められた。すると、慕っていた職員がかばってくれた。
 しかし、その職員も「施設の厳しい教育方針になじめない」と退職。泣きながら見送ることしかできず、強烈な無力感を味わった。両親からの虐待をきっかけに入所したこともあり「つらい経験が塗り重ねられた」と振り返る。

 ▽「理念」に共感でミスマッチ防止
 吉住さんは2022年5月、児童福祉施設の働き口を探す人に向けた職員募集サイト「ALLHOME」を立ち上げた。施設とのミスマッチで離職する職員を減らすことが目的だ。
 サイトでは求人情報を紹介しているほか、各施設で聞き取りをし、その施設が子どもたちに対してどんな考え方を持っているかも詳しく記述している。「労働環境も大切だが、施設と職員の理念が合致することも重要。自分らしく働けそうな施設を選び、じっくりと子どもに接してほしい」

© 一般社団法人共同通信社