スーパーフォーミュラ・SF14のモノコックを活用したシミュレーター『ZR-SF14-Formula』の素性

 鈴鹿市とNPO法人鈴鹿モータースポーツ友の会が主催し、12月17〜18日に鈴鹿市庁舎1階市民ロビーで開催されている国内最大のeモータースポーツイベント『SUZUKA eMotorsports Experience 2022』では、総勢27台のさまざまなレーシングシミュレーターが展示、または試乗可能だ。

 その中には、2014年から2018年まで全日本スーパーフォーミュラ選手権で使用された『ダラーラSF14』のモノコックを活用したレーシングシミュレーター『ZR-SF14-Formula』の姿もあった。来場した多くのレースファンの視線を集めた『ZR-SF14-Formula』について、開発元であるゼンカイレーシングの林寛樹代表にその素性を聞いた。

『ZR-SF14-Formula』を手掛けたのは、スーパーFJやKYOJO CUPなどへ参戦し、リアルレースで得た知見やノウハウをもとに本格派レーシングシミュレーターを開発するゼンカイレーシングだ。

 同社の林代表はもともと、レーシングシミュレーターを開発するべく、スーパーFJ車両を購入して自らレースに臨んでいた。ただ、レースを経験したことで、「スーパーFJを速く走らせるためにはどのようなシミュレーターが必要なのか」と、当初の目論見とは真逆の思いを抱くようになった。

 スーパーFJ、そしてJAF-F4選手権への参戦を経験し、フォーミュラカー好きとなった林代表は、これらの経験を元に最適なレーシングシミュレーターを開発しようと計画。まずは、FIA-F4車両のモノコックをベースにしたシミュレーターを試作したが、その出来に満足はできなかったという。

 そんななか、ダラーラSF14のモノコックを調達できる機会が訪れ、調達したSF14モノコックをベースに新たなシミュレーター『ZR-SF14-Formula』を開発。その出来は林代表を驚かせるものだった。

スーパーフォーミュラ・SF14のモノコックをベースに開発されたゼンカイレーシングのシミュレーター『ZR-SF14-Formula』

「やはり日本のトップフォーミュラで使用されたドライカーボンのモノコックだけに、剛性が半端なかったです。一般的なレーシングシミュレーターは特にブレーキ操作をしている際にフレームが“しなる”のですけど、このモノコックだけはしなることがありませんでした」と林代表。

「一番驚いたのは、ステアリングモーターからの出力をシャフト経由でステアリングにフィードバックするなかで、トルクロスがなかったことです。それはおそらく、一般的なシミュレーターの場合、ステアリングモーターの固定の仕方や固定位置などの影響を受けて、トルクが逃げていることもあるためだと思います」

「でも、この『ZR-SF14-Formula』はベースとなったモノコックがすごくよくできているため、トルクロスが起きないのだと思います。いいモノコックを使用してシミュレーターを作るのは、ある意味正解なのだと思いましたね」

 SF14のモノコックに、フィンランドのシムデバイスメーカー『SIMUCUBE』のSIMUCUBE2ダイレクトドライブシステム、そしてゼンカイレーシングのオリジナルシャフトを組み合わせ、見た目にも新鮮なレーシングシミュレーターとして仕立てられた『ZR-SF14-Formula』。

 そんな『ZR-SF14-Formula』について、2022年シーズンの全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権に参戦した木村偉織は「SF14のカーボンモノコックがベースなので、他のシミュレーターのフレームでは感じられないような剛性をすごく感じたというのが第一印象ですね」とそのフィーリングを語った。

「あとは座ったときに見える景色がほぼ実車に近いと思います。画面上に映し出される映像のモニター上の見え方については、3画面ディスプレイなどを使えば工夫できます。ただ、ディスプレイに映らない部分、周辺視野に映るモノコックの肩の部分だったり、ステアリングの上にあるカーボンの縁だったり、そういう“視点として目に映る部分ではないところ”が実車らしいことから、より没入感を抱きました」

レーシングシミュレーター『ZR-SF14-Formula』のステアリングを握る木村偉織
『ZR-SF14-Formula』のコックピットから望むディスプレイ。画面に映るのは鈴鹿サーキット

 先述のとおり、ステアリングやペダル、ハーネス類は当然シミュレーター用にカスタマイズされているが、軽量かつ高剛性な上に、搭乗者の体をがっちりとホールドする点は、このモノコックがスーパーフォーミュラの現役マシンだった頃から変わりはない。実車と同じ視点から、バーチャルの世界を走ることができるという点は、フォーミュラカー好きにとってはたまらないポイントだろう。

『ZR-SF14-Formula』は、すでに4台が製造され、うち3台がユーザーの元に導入されている(1台はデモ機)。また、現在もゼンカイレーシングの墨田ファクトリーでは2台が建造中だ。『SUZUKA eMotorsports Experience 2022』で展示された構成で価格は700万円(消費税別)。なお、輸送・設置費用、トレーニング費用、保守費用は別途となる。

 そんな『ZR-SF14-Formula』を含む27台のレーシングシミュレーターが展示、その多くが試乗体験も可能な国内最大のeモータースポーツイベント『SUZUKA eMotorsports Experience 2022』は、12月18日まで鈴鹿市庁舎1階市民ロビーにて開催される。

 全国各地から集結したさまざまなメーカーの最新レーシングシミュレーターに触れる貴重な機会なだけに、逃さずに足を運んでおきたいところだ。

SF14のモノコックを活用した『ZR-SF14-Formula』のペダル類
モノコック後方には、エキゾーストやエンジンの熱からモノコックを守る黄金色のヒートバリアが貼られており、これが実戦で使用されたモノコックであることが見てとれる
『ZR-SF14-Formula』は鈴鹿市のバーガーカフェ『R-CAFE BURGER』にも設置されている
SUZUKA eMotorsports Experience 2022の会場となった鈴鹿市役所

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