ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVの大賞で時代は変わるかもしれない【世良耕太が2022-23日本カー・オブ・ザ・イヤーを振り返る】

 『2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー』がニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVに決定した。ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVは『K CARオブ・ザ・イヤー』も受賞しており、ダブル受賞となった。日産自動車は2021-2022のノート・シリーズに続き2年連続の受賞。軽自動車がいわゆる“本賞”を受賞するのは、43回を数える日本カー・オブ・ザ・イヤーの歴史のなかで初めてである。

 日本カー・オブ・ザ・イヤーは、筆者を含む60名の選考委員による投票の結果、まず“10ベストカー”が選出される。今期、48台のノミネート車のなかから選ばれたのは次の11台だ(ノミネート順。10位が同点だったため11台となった)。本賞は10ベストカーのなかから、各部門賞はノミネートされた48台のなかから選出される。

■2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー“10ベストカー”

スズキ・アルトトヨタ・クラウンニッサン・エクストレイルニッサン/ミツビシ サクラ/eKクロスEVニッサン・フェアレディZホンダ・シビックe:HEV/シビック・タイプRマツダCX-60 e-SKYACTIV DBMW iXヒョンデ IONIQ 5ランドローバー・レンジローバールノー・アルカナ

■2022年は“BEV元年”。サクラ/eKクロスEV登場のインパクトの高さ

 11台のうち3台をニッサンが占めているのが目を惹く。新車の投入が集中したのもあるが、数の多さと評価の高さは比例するとは限らないので、それぞれ評価に値する価値を備えていたということだ。また、11台のうち電気自動車(BEV)が3台(ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEV、BMW iX、ヒョンデ IONIQ 5)を占めたのも、この1年のトレンドを反映していたと言える。

2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー大賞:ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEV

 ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVの受賞理由(部分)に、「現実的な車両価格でバッテリーEVを所有するハードルを下げ、日本でのバッテリーEV普及の可能性を高めた」とあるが、全面的に同意する。

 ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVは、軽自動車の使われ方に即して開発されたBEVだ。つまり、ロングドライブに軸足を置いてはおらず、買い物や通勤など、近距離を中心とした日常の足としての使われ方を想定している。

 日常の足としてクルマが欠かせない地方のユーザーに目を向けているのがニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVの特徴だ。地方であれば都市に比べて自宅に駐車スペースがあるケースが多く、充電器の設置に困らない。また地方では、ガソリンスタンドに行くのに往復何十キロも走らなければならない状況も生じているが、BEVなら、そうした不便が解消できる。

 エンジン車の場合、近距離の移動では触媒を暖機するだけで終わってしまい、そのぶん余計な燃料を消費するし、CO2排出量も増える。近距離移動に限定すれば、CO2排出の観点でもBEVは理に適った選択だ。

 モーターが提供する静粛性と応答性の高さが、快適性の高さと走りの楽しさにつながるのもポイント。何年か後に2022年を振り返ったとき、「ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVの登場をきっかけに時代は変わったね」と言われるかもしれない。それだけのインパクトがあるクルマだ。

■ホンダ・シビックe:HEV/シビック・タイプRを評価した理由

 と記しつつ、筆者が最高点を投じたのはホンダ・シビックe:HEV/シビック・タイプRだった。ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVの受賞は順当だと思うし、その価値と日本の自動車社会に対する影響力の大きさを評価していないわけではない。筆者があえてシビックに最高点を投じたのは、「ものすごくいいクルマなので、その存在を知ってほしい」という願いを込める意味合いからだ。

パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー:ホンダ・シビックe:HEV/シビック・タイプR

 選考委員による選考理由は、日本カー・オブ・ザ・イヤーの公式ホームページで確認できる。筆者のホンダ・シビックe:HEV/シビック・タイプRの選考理由(部分)は、「安心して運転でき、気持ち良く走り、乗り心地が良く、疲れない。e:HEVとタイプRで性格は異なるが、意のままに走る点は共通。今後登場するホンダ車の完成度の高さまで予感させる仕上がりを含め評価した」というものだ。

 e:HEVは史上最高のハイブリッド車だと思うし、日常走行の快適性を損なわずにサーキット走行までこなすタイプRのダイナミックレンジの広さは瞠目に値する。感心と感動の大きさから、シビックを推すことにした。

■IONIQ5、iXの輸入電気自動車が魅せた、EVにプラスする“特別感”

インポート・カー・オブ・ザ・イヤー:ヒョンデ IONIQ5

 最も得点の高かった輸入車に与えられる『2022-2023 インポート・カー・オブ・ザ・イヤー』は、BEVのヒョンデ IONIQ 5が受賞した。筆者はデザイン部門で投票したのだが、イヤーカーでの選出は順当だと感じている。授賞理由に「革新的なエクステリア/インテリアデザイン」が挙げられているが、IONIQ 5の最大の特徴は、BEVである以前に、目を奪わずにはいられない特徴的なデザインにあると感じている。

 何度か試乗する機会を得たが、道行く人や後続車からスマホ(のレンズ)を向けられた経験は度々。室内を覗き込んだ人から感嘆の声を浴びたこともあった。そんなクルマ、なかなかない(のだが、筆者がデザイン部門で投票したトヨタ・クラウンでも同様の体験をした)。

デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー:BMW iX

 『2022-2023 デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー』はBMW iXが受賞した。iXもBEVで、本賞を受賞したニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVとは対極のポジションにある。ニッサン・サクラ/ミツビシeKクロスEVが生活に密着したBEVなら、iXは新世代のラグジュアリーカー像を提示するBEVだ。

 ラグジュアリーであることを評価する尺度のひとつに静粛性の高さを挙げることができる。BEVの圧倒的な静粛性の高さは、エンジンを搭載したクルマでは実現しえない。iXはBEVならではの静粛性の高さに輪を掛けて、デザインと技術で先進的、かつ未来を感じる新しいラグジュアリー像を提示している。授賞理由に「優雅なインテリアについても従来の自動車の概念を覆す」とあるが、まさにそのとおりだ。

『2022-2023 テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー』は、シリーズハイブリッドシステムのe-POWERを搭載するニッサン・エクストレイルが受賞した。本賞を含めてすべての部門に言えることだが、筆者は悩みに悩んで選択し、配点した。筆者はこの部門にマツダCX-60 e-SKYACTIV Dを選んだ。理想の燃焼にさらに近づき、力強い走りと驚異的な燃費を実現する、新開発の3.3リッター直列6気筒ディーゼルエンジンの“技術“を評価しての投票である。

マツダCX-60 e-SKYACTIV D

 技術好きを自認する筆者が、エクストレイルが搭載する可変圧縮比エンジンを評価しないワケがない。むしろ、大好物である。圧縮比を連続可変で制御する独自の機構を採用し、燃費と出力の両立を図ったこのエンジンを発電専用に用いるなんて、贅沢の極みだ(北米にはエンジン車の設定がある)。

 フロントに加えてリヤに搭載する高出力モーターを制駆動時に制御することで車両姿勢を制御するe-4ORCE(イー・フォース)は、クルマの走りに新たな価値を生んでいると感じる。テクノロジー部門での受賞は順当だ。

テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー:ニッサン・エクストレイル

 本賞と各部門賞合わせて6部門のうち4部門をBEVが占めたのは、2022年という年をよく表していると思う。後から振り返ったときに2022年は“BEV元年”と言われる年になるかもしれない。

 2023年以降も、ノミネート車のうち一定の割合をBEVが占めることになるだろう。本年度の受賞車が示すように、賞を受賞するにはただ電気で走るだけではなく、何か突出した特徴が必要だ。それが何なのか、自動車メーカーの回答を楽しみに待ちたい。

 いっぽうで、エンジンに関する技術が目立ってもいる。BEV以外で受賞したホンダ・シビックe:HEVとニッサン・エクストレイルは、いずれもハイブリッドシステムを搭載しており、技術的に特徴のあるエンジンを搭載している。

 惜しくも受賞を逃したが、マツダCX-60 e-SKYACTIV Dもエンジンの技術が評価されて、筆者以外からも票を集めた。また、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーでは僅差でヒョンデ IONIQ5に破れた格好となったが、ルノー・アルカナは、楽しい走りと良好な燃費を実現する独創的なハイブリッド技術をセールスポイントとしている(筆者は本賞部門で配点した)。

 世の中BEV一辺倒ではなく、エンジン単独の技術、あるいはエンジンと電動化技術を組み合わせたハイブリッド技術にも進化の余地があることを上記のモデルは示した。2023年もエンジンとハイブリッド技術の進化に期待したい。

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