原発回帰、業界の期待と唐突転換の危うさ エネルギー危機日本、岸田政権の姿勢は本物か

国内で唯一40年を超えて運転している関西電力美浜原発3号機。政府は原発の積極活用にかじを切った=11月21日、福井県美浜町丹生
全国の原発稼働状況

 「やっとこの時が来た」。従業員60人を抱える耕雲商事(福井県美浜町)の国川晃社長(40)の言葉に力がこもった。2022年8月、政府は原発を積極活用する方針にかじを切った。関西電力美浜、高浜、大飯原発の安全対策工事や廃炉作業、定期検査に携わる同社が待ち望んだ政策だ。

 岸田文雄首相は、次世代型原発の建設や既存原発の運転期間延長を検討するよう指示。経済産業省は11月末、指示に沿った計画案を明らかにし、11年3月の東京電力福島第1原発事故以来、世論の反発を恐れて棚上げしてきた議論を俎上に載せた。

 背景にあるのは「エネルギー危機克服と脱炭素の両立」(岸田首相)だ。期待した再生可能エネルギーの導入が頭打ちとなる中、再稼働した原発は33基のうち10基のみ。そこに燃料価格の高騰を招いたウクライナ危機が重なり、日本のエネルギー安全保障がいかに脆弱かが浮き彫りとなった。

 新たな政府方針は原子力業界に追い風となるのか。福島事故以降、耕雲商事では若手の離職者が増え、新卒者を2人以上採用できた年はない。「資格だけでなく、経験が必要になる作業もある」と語る国川社長は、人材確保と育成に危機感を感じている。

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 「原発の利用政策とセットになるべき厳格な審査や規制の方向性は書かれていない。政府一体として責任ある見解を示す必要がある」。11月28日に開かれた経済産業省総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会。福井県の杉本達治知事は原発の運転期間を延長する国の行動計画案に注文を付けた。

 行動計画案では「原則40年、最長60年」としてきた運転期間について、再稼働に向けた審査などで停止した期間を除外。60年を超える運転延長が可能となるだけでなく、最長で13カ月運転して数カ月の定期検査に入る現行制度を15カ月に延ばす方針も盛り込まれた。

 しかし、東京電力福島第1原発事故の教訓としてエネルギー基本計画に明記した「原発依存度の低減」からの政策転換にもかかわらず、十分な議論や説明はない。杉本知事の安全性に対する指摘は、原子力利用に前のめりな政府への不安の表れのようにも見える。

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 資源小国の日本は、準国産エネルギーとして原子力利用を推し進めてきた。輸入原油に頼りきっていた1970年代に起きた2度のオイルショック。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の前身である京都議定書の採択(97年)。これらを経て、経済成長に伴う電力需要の高まりもあり、原発の建設は進んだ。

 一変したのは福島事故が起きた2011年3月。国民の原発不信に押され、当時の民主党政権は脱原発に百八十度転換し、事故を教訓とした規制強化などで、その後も再稼働は進んでいない。再生可能エネルギーも大きくは伸びず、日本は再び化石燃料に頼らざるを得ない状況に陥っている。

 22年3月に発生した福島県沖地震では、東北と東京都内の火力発電所14基が停止。寒波が重なり、政府は初めて「電力需給逼迫警報」を出した。追い打ちをかけたのがウクライナ危機と円安。燃料価格高騰で卸電力市場での調達コストが販売価格を上回り、新電力は事業から相次ぎ撤退した。電気料金の引き上げが家計や企業を苦しめている。

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 電力自由化で大手電力は荒波にさらされ、9月中間連結決算は10社中9社が最終赤字となった。原発の積極活用を掲げる政府方針に対し、ある電力関係者は漏らした。「どれだけ新増設やリプレース(建て替え)に本気なのか。利益だけを考えれば一日でも長く今ある原発を動かす方がいい」

 安全性が高いとされる革新軽水炉の建設には1兆円かかるとも言われ、簡単に投資に踏み切れる額ではない。エネルギー産業に詳しい国際大学の橘川武郎副学長は「誰が、どこで、どんな炉を建設するか具体的に煮詰まっていない。古い炉の運転延長だけでお茶を濁される可能性がある」と政府の本気度に懐疑的だ。

 原発の定期検査などに携わる耕雲商事の国川社長は「太陽光や風力も必要だけれど、エネルギー安全保障を考えれば原子力も必要だ」と語り、政府の姿勢が“本物”であることを期待する。

 原子力政策に限らず、いったん決めた政策を簡単に変更するきらいのある岸田政権。政府の“心変わり”がないように「原発依存度を低減させる」と明記したエネルギー基本計画の見直しを求める声が福井県内では強まっている。

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