アフリカ難民がワインのテイスティング選手権に挑戦――映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』

©2020 Third Man Films Pty Ltd

政情不安で南アフリカに移住したジンバブエ人が、世界ブラインドワイン・テイスティング選手権に挑戦した。彼らはもともとソムリエだったわけではない。知らない土地でそれぞれが「家族にいい暮らしをさせたい」一心で職を得て、ワインに魅せられていった。『チーム・ジンバブエのソムリエたち』は難民である彼らが、欧州文化そのものといえるワインの世界に飛び込み、権威ある世界選手権に挑戦した姿を追ったドキュメンタリーだ。(松島香織)

ジンバブエ共和国は2000年代以降、政治家の汚職と経済政策の失敗により、インフレ、失業、貧困等が続いていた。2008年には極度に経済情勢が悪化した影響で食糧不足が発生し、700万人が飢饉に陥る事態となった。

チームリーダーのジョゼフは、斡旋業者に頼んで南アフリカ行きの貨物列車に乗り込み、妻と一緒に国境を越えた。夏の暑い中で、列車は同じように国境を越えようとする人々が身動きできない状態で乗り込んでおり、失神する人が続出、彼も死を覚悟した。

たどり着いたヨハネスブルグでジョゼフは難民を受け入れている教会に身を寄せた。まるで並べられた死体のように、建物のいたるところに難民が横たわっている姿はとてもショッキングだ。主教は来た人全員を受け入れる覚悟だが、一方で押し寄せる難民を快く思わない現地住民がいる。ジョゼフは「難民は害虫でもなく侵略者でもない」と無念そうだ。

彼は教会を拠点にしてレストランのオーナーシェフが所有する畑を耕すようになった。シェフはジョゼフの真面目な働きぶりや誠実な人柄に好意を持ち、誕生日にスパークリングワインを開けた。そこでジョゼフはワインに興味を持ち、勉強を始める。

チーム・ジンバブエのメンバーであるティナシェ、パードン、マールヴィンも単身、あるいは家族とともに南アフリカにやって来た。それまでの経験を生かした職業にはつけず、飲食業界で職を得て、やがてワインに魅せられていった。ジョゼフと同じく全員がワインについての知識はまったく無く、パードンは初めてワインを飲んで2日間寝込んだことがあるという。

南アフリカのトップソムリエになった彼らは、南アフリカチームとしてではなく、「チーム・ジンバブエ」としてフランスで開催されるテイスティング選手権に出場することに決めた。自分たちは死ぬまでジンバブエ人であるという誇りがあるからだ。

世界で最も影響力のあるワイン・ジャーナリストのジャンシス・ロビンソンは、彼らの情熱に心を動かされた。彼女の支援を受けて、参加費の6500ポンド(約100万円)はクラウドファンディングで見事達成する。「ワインの世界は体質が古い。白人ばかりで多様性が乏しく、何かが失われていることが彼らの参加で明らかになるかもしれない」と彼女は期待を膨らませる。

選手権は、4人の選手とコーチ1人が、白ワインと赤ワインの計12本について、「主要品種」「生産国」「生産者」「ヴィンテージ(収穫年)」を特定し、総合点を競い合う。各国チームのプライドがぶつかり合い、グラスを持ってワインをくゆらせ、目を凝らし、議論している場面は緊張感が張り詰めており、見る側も思わず息を止めてしまうほどだ。

自分たちを難民という立場に追い込んだ故郷を忘れることなく「社会を変えるのは政治家ではなく自分たちだ」と志を持ち努力し続ける。多くの困難を抱えながらそれでも明るく周囲に感謝し、「We are change!(自分たちこそが変化だ)」と挑戦し続ける彼らの姿に勇気と元気をもらった。

12月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町(東京)、新宿シネマカリテ(東京)他全国順次ロードショー。

『チーム・ジンバブエのソムリエたち』https://team-sommelier.com/

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