全20戦中12勝の強勢ドゥカティとアプリリアの躍進/2022年MotoGP振り返り

 フランセスコ・バニャイアがチャンピオンに輝き、ドゥカティがコンストラクターズタイトル、ドゥカティ・レノボ・チームがチームタイトルを獲得して、3冠を達成したドゥカティ。2022年のMotoGPは、ドゥカティが席巻したシーズンだった。

■ドゥカティの勢いをデータで振り返る

 2022年シーズンのドゥカティについて、データから見ていくことにしよう。2022年シーズンは全20戦で、7人のウイナーが生まれた。以下、開幕戦から優勝を飾った順にエネア・バスティアニーニ、ミゲール・オリベイラ、アレイシ・エスパルガロ、ファビオ・クアルタラロ、フランセスコ・バニャイア、ジャック・ミラー、アレックス・リンス。このうちドゥカティのライダーとしてはバニャイアが2022年シーズン最多の7勝、バスティアニーニが4勝、ミラーが1勝という内訳だ。全20戦中、半分以上の12戦でドゥカティライダーが勝利したことになる。

 これをパーセンテージにすると、ドゥカティの勝率は60パーセント。2021年シーズンを確認してみると、ドゥカティライダーはバニャイア(4勝)、ミラー(2勝)、ホルヘ・マルティン(1勝)が優勝し、合計7勝。2021年シーズンは全18戦だったので、約39パーセントの勝率だった。

 さらに表彰台の獲得率では、2021年シーズンは約44パーセントだったのに対し、2022年シーズンは約53パーセント。全20戦、すべてのレースでドゥカティマシンを走らせる誰かが表彰台に立っていた。確かに2022年シーズンからドゥカティはサテライトチームが1チーム増え、4チーム8台体制とはなったが、勝率も表彰台の獲得率も、ともに上がっている。

フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)/2022MotoGP第20戦バレンシアGP

 この背景としては、2022年シーズンのチャンピオンに輝いたバニャイアの活躍が挙げられるだろう。バニャイアは、今季のターニング・ポイントとして挙げたドイツGPでの転倒を機に、オランダGPから4連勝を飾ってシーズンの後半戦で他を圧倒した。シーズンとしての成績は、7勝を含む表彰台10度。

 ドイツGPでの転倒というのは、転倒リタイアに終わったことでそのときチャンピオンシップをリードしていたクアルタラロと91ポイントの差が開いたレースだ。

「ル・マンのようにコンペティティブで優勝の可能性があったのに、転倒してしまった。僕はアップダウンの激しいライダーで、速さはあるけど安定していなかった。そのとき、それが弱点だとわかったんだ。そのときから問題を認識し、自分を変えようと努めたんだ」

 バニャイアは、チャンピオン会見の中でそう振り返っている。

 また、バスティアニーニの成長も要因にある。今季はグレシーニ・レーシングMotoGPにチームを移籍。2021年型デスモセディチGP21を駆りながら、4勝を含む6度の表彰台を獲得し、3位2度の2021年シーズンから躍進を果たした。2023年シーズンのファクトリーチーム昇格も納得の結果だ。

ホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)

 当然ながら、チャンピオンになれるライダーはシーズンにつきひとりだけ。だが、少なくとも、今のドゥカティは総合力がよい相乗効果を生んでいるように見える。同じマシンを駆るライダーには負けたくないのがライダー心理だというが、マルティンが、バレンシアGPの決勝レース後、バニャイアのチャンピオン獲得を祝うコメントの中で、こんなことを語っていた。

「ペッコ(フランセスコ・バニャイア)はこの2年、MotoGPのドゥカティライダーのお手本となる存在だった。僕は常に彼から学び、改善してきたんだ。そして、彼との差を埋めてきた。彼はいつも速いからね。ペッコのチャンピオン獲得はとてもうれしく思っているよ。来シーズンはそこまで僕もバイクもレベルを上げることができればと思っている。新しいエンジンを試して選ぶのが待ちきれないし、来年彼とチャンピオンシップを争えたらと思っているよ!」

■強さを増し、勢力を広げるアプリリア

 初優勝を飾ったアプリリアについても触れたい。第3戦アルゼンチンGPで、アプリリアはMotoGPクラスでの初優勝を果たした。アプリリアに勝利をプレゼントしたアレイシ・エスパルガロにとっても、クラス初優勝だった。

 2022年はアプリリアにとって、転機となったシーズンだった。2021年シーズンをもってそれまでチームを運営していたグレシーニ・レーシングと袂を分かち、完全なファクトリー体制となったからだ。

 2015年にMotoGPクラスに復帰したアプリリアは、2019年にはF1のミナルディ、トロロッソ、フェラーリを経てフェラーリ・ドライバー・アカデミーの代表を務めたマッシモ・リボラ氏をアプリリア・レーシングCEOに起用した。エスパルガロは、ここがアプリリアにとってひとつの転換期であったと述べている。

アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)/2022MotoGP第3戦アルゼンチンGP

 リボラ氏は元々バイクに情熱を抱いており、以前からMotoGPのパドックには足を運んでいたという。リボラ氏はまず、MotoGPのパドック内だけではなくF1からもエンジニアを集めた。F1とMotoGP、どちらの人材とも交流があったリボラ氏だからできたことだろう。リボラ氏がスタッフのマネジメントを仕事の一部とし、それまで全てを担っていたロマーノ・アルベッシアーノ氏はマシン開発に集中できるようになった。

 2022年シーズンは、2017年からアプリリアに加入し、マシンを走らせてきたエスパルガロが1勝を含む5度の3位表彰台を獲得してチャンピオン争いに加わり、ランキング4位で終えたばかりではなく、2021年シーズン中盤に加入したマーベリック・ビニャーレスが2位を1度、3位を2度獲得している。

 アプリリアのコンストラクターズランキング、チームランキングはともに3位。コンストラクターズランキング6位、チームランキング9位だった2021年シーズンと比べれば、その勢いは間違いない。2023年シーズンはRNFレーシングがサテライトチームとなる。着実に前進しているアプリリアは、チャンピオンシップの中で存在感を増している。

第3戦アルゼンチンGPでアレイシ・エスパルガロが初優勝を飾った

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