【解説】初の新型コロナ禍開催の「瀬戸芸」 それぞれの評価、次回への課題は?

今回は、瀬戸内国際芸術祭についてお伝えします。初めてコロナ禍での開催となった2022年の瀬戸芸を、関係者はどう評価しているのでしょうか。

2022年4月14日に開会した「瀬戸内国際芸術祭2022」。5回目となる今回は春・夏・秋の3会期、合わせて105日間にわたって行われました。初めて新型コロナ禍での開催となった今回の瀬戸芸で焦点となったのが感染症対策です。会場となる島からは開会前、不安の声も上がりました。

コロナ禍の瀬戸芸 島の懸念とにぎわい

(豊島自治連合会/木村益雄 会長)
「自治会としても住民さんの安全が一番ですから。新型コロナがなかったらなぁ」

豊島自治連合会は事前に土庄町などと協議、消防職員OBを配置するなどの体制を取りました。

島全体が国立ハンセン病療養所となっている高松市の大島は、一度に船に乗れる観光客を50人までに制限したほか、夏会期にはスタートを10日遅らせました。

(大島青松園自治会/野村宏 副会長)
「高齢者ばかりですからね、みんな持病を持っているものですから、新型コロナが来たらひとたまりもないということで」

また、当初、春会期からの展示を想定していた小豆島の作品は、作家の来日が遅れたために夏会期からの展示となりました。

(台湾の作家/王文志さん)
「新型コロナの影響で焦りもありましたが、遅れながらでも参加できたことはうれしく感じています」

感染症対策として港や会場には検温スポットが設けられ、港には看護師が常駐。観光客は健康であることを示すリストバンドを着用して会場を巡りました。

春・夏・秋会期を合わせた来場者数は延べ72万人ほどで、前回の6割ほどにとどまりました。それでも、水際対策の緩和を受けて秋会期には外国人観光客の姿が見られるようになるなど、街や島には新型コロナ禍で失われていたにぎわいが少し戻ったようでした。

(瀬戸芸 総合プロデューサー/福武總一郎さん)
「自然と近くに住むことによる本当の豊かさというものは、特に都会の人には深い印象を与えたのではないかなと」

実行委員会によると、瀬戸芸に関連した新型コロナの感染者は会期中25人。多くがスタッフで、来場者は1人だけでした。クラスターの発生はありませんでした。

(瀬戸芸実行委員会 会長/池田豊人 香川県知事)
「大規模イベントのときの新しいスタイル、モデルを示していけたのではないかなと。総じて今回の開催については成功であったというふうに評価をしているところです」

今回の瀬戸芸を島の人たちはどう感じたのでしょうか。

(野口真菜リポート)
「期間中は多くの観光客でにぎわっていましたが、今はほとんどが地元の方で島はとても静かです」

(男木地区コミュニティ協議会/福井大和 会長)
「一番あっという間に過ぎた瀬戸芸だったかもしれないですね。実際大きな何かトラブルがあったというわけではないんですが、気持ち的にあっという間に終わっちゃったなみたいな。緊張していたのかもしれないですね」

福井大和さんは瀬戸芸をきっかけに2014年に男木島にUターンしました。

前回2019年の瀬戸芸では、過去最多の延べ7万人以上が男木島を訪れた結果、島内の移動に支障が出たり、島民が騒音に悩まされたりする「オーバーツーリズム」が問題となりました。

一方、コロナ禍の開催となった今回の来場者は延べ4万人ほど。島民からの苦情も大幅に減ったそうです。

(男木地区コミュニティ協議会/福井大和 会長)
「それぞれ一番上(2019年)と一番下(2022年)のラインがこういうことなのかなとわかったので、次回2025年があるとすれば、その中間地点で島側の人たちにも負担がないような、とはいえある程度イベントとして成立するような人数であったり体制であったりを考える、非常にいいきっかけになるのではないか」

大阪・関西万博との「相乗効果」… 2025年開催へ集客への期待と課題

次回の瀬戸内国際芸術祭について香川県の池田知事は、2025年に開催する意向を示しています。年度内に開かれる次の総会で正式に決まる予定です。この2025年で期待されているのが大阪・関西万博との「相乗効果」です。

瀬戸芸実行委員会によると、過去最多の延べ118万人近くが来場した前回の瀬戸芸は、経済波及効果が180億円と推計されています。

大阪・関西万博の基本計画では来場者が2820万人と想定されています。池田知事は受け入れ体制を整えながら、屋外作品を観光商品として活用するなどして国内外にPRしたいとしています。

一方、会場の島は「集客」だけではない効果を求めています。

島が望む瀬戸芸のあり方「本来のミッションを」

(男木地区コミュニティ協議会/福井大和 会長)
「もっと具体的に島への効果という部分。『来島者が何万人にいきました』とかではなくて、『小中学校を再開しました』というものももういいでしょう。その次にどうしていくかということを具体的なビジョンは実は出てないんですよね。『2019年はオーバーツーリズムでした』『2022年は新型コロナでした』じゃなくて、その瀬戸芸の本来の持っている本質的なミッションというのが、いよいよはっきりと出さないといけないタイミングなんじゃないかなと」

瀬戸内国際芸術祭が2010年の初回からテーマに掲げているのが「海の復権」です。福井さんは、瀬戸芸が瀬戸内の島々に活力を取り戻して未来につなげていくきっかけになることを望んでいます。

(男木地区コミュニティ協議会/福井大和 会長)
「『瀬戸芸があってよかったな』というようなキーワードが島の人から出てくるようになったら、本当の瀬戸芸の成功のタイミングだと思う」

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