<社説>日銀事実上の利上げ 政策変更遅きに失した

 日銀は20日の金融政策決定会合で、長期金利の変動容認範囲の上限を0.5%程度に引き上げた。金利を極めて低い水準に抑え込む大規模な金融緩和政策を修正し、事実上の利上げとなる。 日米の金利差拡大による円安が物価高を加速させ、国民を苦しめている。歴史的な水準の円安に有効な手だてを示さず、大規模金融緩和を続ける黒田東彦総裁に批判が集まっていた。政策変更は遅きに失したと言っていい。

 日銀は10年にわたり大規模金融緩和を実施しながら、目標とした物価上昇2%や賃金上昇を達成できずにきた。金利を元に戻す「出口」を見いだせず、大規模緩和が必要以上に長引いたことで、円安や国債市場の機能低下など副作用が強まっている。

 日銀は国債を無制限に買い込むことで、長期金利の利回りを人為的に抑え込んできた。大量に国債を買い入れた結果、国債の発行残高に占める日銀の保有割合は50.26%まで膨らんだ。政府の借金である国債の半分を日銀が保有する異例の状態だ。

 日銀が国債を大量に買い入れることで、政府が安易に国債発行に頼り、財政規律を緩めている。日本の長期債務残高は主要先進国で最悪の水準で、国民1人当たり1千万円を超える借金を負う。日銀のバランスシート上もリスクが増している。利上げ局面になった場合は国債価格の低下で評価損が生じ、資産を毀損(きそん)するジレンマを抱える。

 中央銀行は、危機的な経済状況が起きた際に金融緩和を行ってショックを吸収する機能を持つ。しかし、短期金利がマイナスとなる現在は、危機時に取り得る選択肢が失われている。リスクに備えるためにも、金利がプラス域で推移する通常の水準に戻す必要性が指摘されてきた。

 一方で、金利が上がれば企業や個人の返済負担が増え、景気を引き締めることにもなる。金利の急上昇で経済を冷やさないよう、政策変更を慎重に進める堅実さが必要だ。

 その点で市場との対話を軽んじ、市場の不確実性を高める黒田氏の手法は問題が多い。2016年に日銀がマイナス金利導入を決めた際は、直前まで導入を明確に否定し、市場の不意を突く形となった。今回も直前まで長期金利の上限見直しはしないと言っていた。

 黒田氏は「金利引き上げではない」と強調するが、市場は一貫性のない発言を額面通りに受け止めていない。さらなる利上げを見越して長期金利は急上昇し、円高にふれている。金融政策の意図が正しく伝わらなければ政策効果は弱まる。日銀への信用を低下させた黒田氏の責任は重い。

 任期が迫る黒田氏は、自身の金融政策や手法の破綻を直視することだ。大規模緩和を柱とした経済戦略「アベノミクス」の失敗を認め、新たな総裁の下で金融政策の立て直しを急ぐ必要がある。

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