【追う!マイ・カナガワ】節電の冬、イルミは必要? 「一斉に消したら電力問題すぐ解消」

ライトアップされたみなとみらい(MM21)地区の夜景

 「今、政府は厚着をして暖房の温度を下げましょうと言っています。一方で、いろいろな施設がイルミネーション合戦をしています。何かちぐはぐさを感じませんか?」。冬の電力供給を巡って7年ぶりの節電要請を政府が呼びかける中、街のイルミネーションを疑問視する声が神奈川新聞の「追う! マイ・カナガワ」(マイカナ)に寄せられた。年末年始のにぎわいを彩るイルミネーションについて、節電事情や全体的な取り組みを探ってみた。

 政府によると、現状のままなら電力供給に問題はない見通しだ。一方、災害による発電所の停止など不測の事態に備える必要があるといい、不要な照明の消灯や、室内での重ね着などの取り組みも求めている。

 意見を寄せてくれた相模原市緑区の男性も、こうした取り組みを受け「一斉にイルミネーションを消したら、電力問題などすぐ解消すると思うのですが」と疑問を持ったようだ。こうした男性の疑問はもっともだ。

 ただ、街中を歩くと、イルミネーションで輝く夜の世界を、楽しそうに過ごす人々の姿も目に入る。そもそも、イルミネーションは“不要な照明”なのか…。新たな疑問が取材班に生まれた直後、地域で20年以上、クリスマスイルミネーションを実施している男性がいると知り、訪ねてみた。

◆6千個のLEDで自宅装飾

 東急東横線の妙蓮寺駅を出て、富士山を望む坂を上ると住宅街に突如、輝くイルミネーションに飾られた一軒家が見えてきた。

 石渡祥男さん(81)宅=横浜市神奈川区=だ。玄関先に飾られたサンタクロースやペガサス、雪だるま、ツリー、観覧車などのオブジェが色とりどりの電飾で彩られ、輝きを放っている。25日まではクリスマスの装飾、以降は別の装飾で来年1月3日まで点灯する。

 午後4時半、夕暮れ時から夜間までのイルミネーションは、石渡さんが初孫の3歳の誕生日を記念して始めたのがきっかけだった。飾り付けには3週間を要するが、今では23歳になった孫が「(屋根の上の作業などは)じいじには危ないよ」と気遣い、毎年手伝いに来てくれるとうれしそうに語る。

 始めた当初は白熱電球を使用し、「昔は炊飯器を使用するとブレーカーが落ちてしまい、夕飯の支度は午後4時までに終わらせてほしいと妻に頼んでいたこともあった」と石渡さん。

 10年前からは節電のため、消費電力が白熱電球の約20%とされる発光ダイオード(LED)に切り替えた。石渡さんのイルミネーションでは、約6千個のLEDを使用しているという。

◆「地域を少しでも元気に」

 「冬空の下イルミネーションの灯(あか)りが家路に向かう疲れたカラダと心を優しくむかえてくれます」。石渡さん宅のポストには、イルミネーションに感動した人たちからの感謝の手紙がたびたび届いている。

 近くの小学校に通う子どもたちからも「毎年楽しみです」と通学途中に声をかけられ、「イルミネーションが街灯の代わりになり、防犯にも役立っているとも聞いている」と石渡さん。地域の「風物詩」は、周囲の人々の声にも支えられている。

 新型コロナウイルス禍の2年間は装飾を自粛していたが、今年は再開を決めた。節電要請にも配慮し、通常よりも1時間短縮して午後10時までの点灯にしているという。

 「町内会の運動会やお祭りも全て中止になってしまったけれど、クリスマスイルミネーションで少しでも地域の人に元気を届けたい」と石渡さんは話す。

◆持続可能な取り組みに配慮

 石渡さん宅のイルミネーションで心が温まった後、横浜・みなとみらい21(MM21)地区に足を運ぶと、LEDライト約50万球がともる「ヨコハマミライト2022~みらいを照らす、光のまち~」が実施されていた。

 横浜駅東口からMM21地区まで全長約1.5キロのエリアを照らす横浜最大級のイルミネーションイベント(来年2月12日まで)。実行委員会事務局によると昨年度は700万人が来場したという。

 冬の夜の閑散期は人通りが減り、開発中の敷地内へのごみの投棄なども問題視されてきたという。「安心してみなとみらいを歩いてほしい」と同地区の各施設が協力し、2018年度から開催してきた。

 太陽光や風力などの自然エネルギーで発電された「グリーン電力」を使用するなど、持続可能な取り組みにも配慮した。商業施設だけでなく、企業、大学などもそれぞれの施設に飾り付け、暗い道がなくなるようにイルミネーションを配置。光の輪のまちづくりは広がっているという。

 同事務局は「商業的なにぎわいだけを目的にイルミネーション合戦をすることは避けています。冬場も歩きやすい環境になるなど、明かりを通して横浜のまちづくりに貢献していきたい」と話す。

 コロナ禍の冬、節電に工夫を凝らしたイルミネーション散策はいかがだろうか。

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