工藤静香【中島みゆきを歌う】2枚のカバーアルバムを聴くとわかる “みゆき愛” の深化  ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVEで披露される「糸」に注目!

国民的スタンダード「糸」をMステでパフォーマンス

2022年12月23日、テレビ番組『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE』にて、工藤静香が中島みゆきの「糸」をカバーする。

工藤静香は、これまでの活動でも中島みゆきを敬愛していることを公言しており、2008年8月に『MY PRECIOUS -Shizuka sings of Miyuki-』、そして2021年3月に『青い炎』と2枚の中島みゆきカバーアルバムを発表している。「糸」は、『青い炎』に収録され、発売当時から話題だった本作のカバーを今回テレビの大型番組で披露するのだ。

そこで、今回は、この2枚のカバーアルバムの聴きどころをあらためて紐解いてみたい。なお、カバー作品を聴く際は、オリジナルと比べてケチをつけるのではなく(自分が慣れ親しんだものならば尚更のこと)、その違いを楽しんでみることをおススメしたい。そうすることで、カバー歌手の新たな魅力や、オリジナル楽曲の新たな解釈が見えてくることだろう。

自分流に寄せて歌ったアルバム「MY PRECIOUS -Shizuka sings of Miyuki-」

まず、2008年の『MY PRECIOUS -Shizuka sings of Miyuki-』の方を聴いてみたい(今回は、カバーの11曲のみを対象とする)。

01. 空と君のあいだに 02. 銀の龍の背に乗って 03. 見返り美人 04. やまねこ 05. 涙 -Made in tears- 06. カム・フラージュ 07. 浅い眠り 08. 土用波 09. 命の別名 10. 宙船(そらふね) 11. すずめ

こちらは、ミリオンヒットとなった「空と君のあいだに」や「浅い眠り」を収録しつつも、「やまねこ」やアルバム『中島みゆき』収録の「土用波」など、大ヒットではなくとも本人が大好きだと言っていた楽曲が多めとなっている。また、「空と君のあいだに」や「銀の龍の背に乗って」あたりは、譜割りも自由気ままだし、大半の楽曲で中島の原曲よりも+2〜+3程度高めのキーで歌われている。つまり、この時の工藤静香は、大好きな中島みゆきの楽曲を、自分のカラーに染めるために、選曲も歌い方も徹底的に自分流に寄せて歌ってみた、という感じだ。演奏に打ち込みが多いのも、この時期の静香サウンドらしい。

だからこそ、「やまねこ」は、静香自身が高校時代の放送室で何度も聴いていたというだけあって、この中で最もパンチの利いた歌声になっているし、「浅い眠り」は、2000年代の工藤静香作品に多く見られる朝の爽やかな雰囲気をまとっている。また、「命の別名」は、中島による2つのバージョン(シングル、アルバム)は、現実の悲惨な部分やそれに対する怒りが強く映し出されているのに対し、静香バージョンは、丁寧に歌い上げることで、聴き手にその言葉の意味を素直に問いかけているようだ。

意外な発見があったのは、「涙 -Made in tears-」や「すずめ」だろうか。静香が優しく歌うことで、登場する女性のいじらしさが新鮮に伝わってくるのだ。近年、壮大なメッセージソングの評価が著しく高い中島だが、80年代まではこうした等身大のラブソング(とりわけ失恋ソング)にも定評があり、静香の歌声によってその女性らしさが浮き彫りになっている。

肝が据わったアルバム『青い炎』、名曲「糸」「時代」「誕生」の三連打

次に、2021年の『青い炎』を聴いてみたい。

01. 世情 02. アザミ嬢のララバイ 03. 旅人のうた 04. 糸 05. 時代 06. 誕生 07. ホームにて 08. あした 09. 化粧 10. 地上の星 11. ファイト! 12. ヘッドライト・テールライト 13. 眠らないで

こちらの方は、教科書に掲載されるレベルにスタンダード化している「糸」や「時代」、ミリオンヒットとなった「旅人のうた」や「地上の星 /ヘッドライト・テールライト」(両A面シングル)、さらに比較的熱烈なファンの間で名曲と言われる「世情」「誕生」「ファイト!」など、選曲自体が聴き手に向かっていて、それを引き受けるという覚悟が感じられる。

また、多くの楽曲でストリングスが施されており、ギターやドラムなど力強い演奏音も際立っている。そして、静香も大半を中島の原曲キーで歌うことで、いつも以上に肝が据わっている印象がある。とにかく、一見冷静に見えつつも、とても熱いものを感じる。それゆえ、穏やかに見えつつも、実は “赤い炎” よりも高温の『青い炎』をタイトルとしたことにも、通常ならクライマックスに配置するであろう重厚な「世情」を1曲目としたことにも納得がいく。

本作のリード曲をあえて選ぶとすれば、「糸」「時代」「誕生」の名曲三連打となるだろうか。それぞれが、スケール感のあるラブソング、エールソング、ライフソングで、中島以外の誰がどう歌っても、どこかしかから “物言い” が入りそうだが(苦笑)、静香は自己キャリアにおけるベストな答えを導いているように感じた。具体的には、「糸」は、Cocomiのフルートも相まって、めぐり逢えた奇跡が優美なものとして伝わるし、「時代」からは、喜びも悲しみもありのままに受け入れて進もうとする決意が感じられる。さらに、「誕生」での、序盤の慰めるような優しい歌声から、終盤の “私いつでも あなたに言う 生まれてくれてWelcome” というメッセージを乗せた力強い歌声までのドラマティックな歌唱は、自身のオリジナル曲の「声を聴かせて」や「そのあとは雨の中」などのロッカバラードを経由した完成形のように聴こえる。

他方、「化粧」や「ファイト!」あたりは、中島みゆきの原曲にも、工藤静香のいつもの作品にも見られない不思議な魅力が伝わってくる。「化粧」は、後半に向けて泣き崩れるように変化していく中島に対し、静香は、その泣き崩れる前のこらえる感じで微妙にテンポを変えて歌っている。また、「ファイト!」では、総じて、社会の泥海の中から這い上がろうとしているファイター自身を演じつつ、ラストで「♪ファイト~!」と連呼するなど、こちらも演劇色が強い。静香ならではの解釈がありつつも、決して自己流に閉じこもっていない点が見事だ。

中島みゆき作品の原曲と、工藤静香によるカバー曲を聴き比べ

こんな風に、『MY PRECIOUS〜』の方は、好きという気持ちで突き進んでいくという勢いがあるし、『青い炎』の方は、好きだからこそ受け入れるというたおやかさが備わっている。この2作を聴くだけでも工藤静香の成長ぶりが感じられるし、こうした作品の深化は、やはり “みゆきさんが好き!” という愛あってのことだろう。

今回、中島みゆき作品の原曲と、工藤静香によるカバー曲を聴き比べられるプレイリスト『聴き比べ!工藤静香 中島みゆきカバー集』を主要サブスク音楽配信サービスで作成してみた。これを聴けば「自分ならこう歌いたい」「このメッセージが好き」「この演奏部分にシビれる」といった自分の感性を再発見するのではないだろうか。そして、何より、人や作品に対して、実はとっても愛情深い自分自身に気づかされることだろう。

カタリベ: 臼井孝

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