鶏肉、卵物流制限 感染拡大を警戒 現時点で県内流通に影響なし

埋却溝へ運ばれるニワトリを詰めた袋=江迎町(県提供)

 長崎県内初の養鶏場での鳥インフルエンザ発生に伴い、周辺ではニワトリや卵の搬出などが広域に制限されたが、現時点で県内流通への影響はないもようだ。ただ感染が拡大するようだと、供給不足や価格上昇の恐れもあるとして関係者は警戒感を強めている。
 県によると、県内の採卵鶏農家は56戸、肉用鶏(ブロイラー)農家は50戸(いずれも千羽以上)。今回感染した佐世保市江迎町の鶏卵農家の2万7千羽は平均的な飼育規模だ。2021年の県内出荷量は鶏肉が約1400万羽、卵は約2万5千トン。20年産出額はいずれも九州5位だった。
 県内の流通ルートは、鶏肉の場合、食鳥処理場でニワトリを解体処理し、卸・小売業者や加工業者を通じて消費者に届く。一方、卵は各地のGPセンターと呼ばれる施設で選別や包装をし、問屋や業者に渡る。
 食肉加工やGPセンター運営などを手がける県養鶏農業協同組合によると、今のところ流通量などに影響はない。ただ深沢晃組合長は「ほかの農家に感染が広がれば影響は必至」と警戒する。
 農林水産省によると、感染したニワトリの肉や卵を食べても人が感染する可能性はないが、怖いのは風評被害。深沢氏は「流通している鶏肉や卵は安全だと伝えたい」と言葉に力を込めた。
 感染が確認された養鶏場から半径3キロ圏内には別の養鶏場が1戸あり、ニワトリや卵の移動ができない。その外側で同10キロ圏内にある8戸は、圏外への搬出が当面制限される。移動制限は少なくとも21日間、搬出制限は少なくとも10日間続く。さらに、国は県内全域を対象に鶏肉、鶏卵の海外輸出を一時停止させた。
 移動制限などで売上額が減った農家には、交付金などの救済措置がある。だが搬出制限区域で肉用鶏を飼育する男性(65)は「初めてのことで、どう補償されるのか分からない」。近く新たにニワトリを仕入れる予定で「感染が不安でキャンセルしようとしたら(購入先に)断られた。対策をしっかりして、広がらないよう祈るだけ」と話した。
 制限区域内の養鶏場からの入荷を予定した食肉加工業の佐世保ブロイラーセンター(佐世保市)は急きょ仕入れ先を変更。林順子常務は「どこで発生するか分からないし、誰も悪くない。お客さんに迷惑をかけないように連携してやっていく」。
 ほかの産地や小売店もひとごとではない。島原市で採卵鶏を育てる男性(52)は石灰をまくなど消毒を徹底。鶏肉や卵の需要が増すクリスマスシーズンとあって「今は出荷が最盛期なので心配」と気をもむ。
 県産鶏肉を多く扱う地場スーパー「ジョイフルサン」の担当者は「今のところ流通に影響はない。ただ全体として供給不足になると、在庫の奪い合いになり値上がりするだろう」と懸念。佐世保市春日町の菓子店「さいかい堂」の永田則之社長(59)は「クリスマス分の卵は確保していた。今後感染が広がらなければいいが…」と先を案じた。


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