別のお店を間借りして運営されているカレー店の形態を通称「ヤドカリカレー」といいます。
大阪で発祥したカレー店のスタイルですが、倉敷の地にも注目の店があるのです。
そのお店が「倉敷カレー」。
JR倉敷駅のすぐ南西にある雑居ビルの中にあるバーを、昼間だけ借りて運営されている間借り店舗のカレー店です。
しかも経営者は野菜ソムリエで、元はフランス料理が専門。
間借り店舗についてのことや店主についてのこと、提供されているカレーの特徴はどうなのかなど、いろいろ気になることがいっぱいですよね。
注目の倉敷カレーについて紹介します。
倉敷カレーはバーの間借り店なので店内はバーそのもの
倉敷カレーは、バーを間借りして営業しています。
そのため、店内はバーの雰囲気そのもの。
カウンター席は7席ありますが、イスの形状がバーを思わせます。
照明や飾りなどもバーらしいものでした。
カウンターの向こう側にある棚にはたくさんのアルコール類が並んでいます。
これは夜に営業するバーのもので、倉敷カレーでは注文することはできません。
カウンターのななめ後方にテーブル席があります。
テーブル席は1席ですが、ソファー席なのでゆっくりと座れます。
そのため、子連れでも安心です。
ベビーカーの持ち込みも問題ありません。
一番人気のメニューは「倉敷カレー」
倉敷カレーのメニューのなかで一番人気は、店名を冠した「倉敷カレー」(1,100円)です。
倉敷カレーとは「スパイスカレー」と、昔ながらの洋食風のカレー「日本のカレー」の2種類を”合がけ“にしたもの。
さらに豊富な野菜にゆで玉子、パリパリチキンまでついた豪華なカレーです。
なお倉敷カレーのルーは、1種類のみにもできます。
また以下のカレーも、スパイスカレーと日本のカレー、双方の合がけの3種のルーを選択可能です。
- パリパリチキン (1,000円)
- トンカツカレー (1,200円)
- 神辛(しんしん)カレー・チキンつき (1,100円)
- カレー単品 (900円)
「まかないカレー」(1,100円)と「お子様カレー」(300円)のルーは、日本のカレーのみです。
カレーのほかには、各種トッピングとごはんの増量、ドリンクなどがあります。
また、カレーを注文すると「ドリンク飲み放題」が付いてきます。
おもな飲み放題の種類は以下のとおり。
- ホットコーヒー
- アイスコーヒー
- 緑茶
- 麦茶
- りんごジュース
- オレンジジュース
なお、種類は変わることがあります。
ドリンク置き場はカウンター席の後ろ側にあり、セルフサービス方式です。
倉敷カレーのカレーは、いずれも辛さは控えめに作られています(神辛カレーを除く)。
また、ルーに使っているスパイスにはトウガラシ系のスパイスは一切使っていないとのこと。
辛さが足りない場合や、トウガラシ系のスパイスが欲しい場合は、卓上にある辛みスパイスを振りかけましょう。
辛みスパイスは、トウガラシ系のスパイスです。
好みに合わせて振りかける量を調整しましょう。
なお、ルーは辛さ控えめに作られていると説明しましたが、多少の辛さはありますので、辛いのが苦手なかたは、通常のルーでも辛めと感じるかもしれません。
野菜ソムリエが作るこだわりカレー。食器にもこだわる
店主の小田 眞奈美(おだ まなみ)さんは野菜ソムリエの資格をもっており、野菜を中心とした食材にこだわったカレーが倉敷カレーの特徴です。
また、ルーはいずれも辛さは控えめで作られています。
さらに、味や食材だけでなく見た目にもこだわっています。
運ばれてきたカレーは、思わず写真におさめてしまいそうな美しい盛り付けです。
そして、このカレーの味や盛り付けが生かされるように食器選びにこだわっていて、お皿は美濃焼(みのやき)のものでスプーンは木製。
小田店主いわく、この組み合わせが倉敷カレーのカレーと相性がいいそうです。
「倉敷カレー」は2種類のルーの合がけで、野菜もタップリ
一番人気で、お店おすすめの「倉敷カレー(1,100円)」。
「日本のカレー」と「スパイスカレー」の2種類のルーの合がけで、タップリの野菜やパリパリチキン、ゆで玉子がつくお得なカレーです。
なお希望すれば、カレーの種類を1種のみにもできます。
盛り付けは、中央にターメリックライスがドーム状に盛られていて、それを囲むようにカレールーが盛り付けられています。
副菜は一箇所にまとめて盛り付けられていました。
野菜は時季ごとの旬のものを中心に数種類が盛りつけられています。
野菜が豊富なのは、野菜ソムリエらしい特徴です。
またパリパリチキンや、パパド(インド式せんべい)、半熟のゆで玉子(半玉)も載っています。
盛り付けは、まるで芸術品のような美しさ。
食欲もそそられます。
スパイスカレーのルーは、日本のカレーのルーと比べると、やや黄色がかっていました。
上には、焦がしチーズや香草のカスメリティーが載っています。
スパイスカレーを食べると、複雑なスパイスの風味が広がって心地よい味わいです。
そして、ほのかなピリ辛さがやってきます。
日本のカレーは、やや赤みがかった茶色をしていました。
こちらにも焦がしチーズとカスメリティーが載っています。
日本のカレーはとろみがあって、コクのある奥深い味わい。
やや甘みがある甘辛味で、食べやすいカレーです。
パリパリチキンカレーはパリパリ食感のフライドチキンが魅力
「パリパリチキンカレー (1,000円)」を紹介します。
名前のとおり、トッピングとしてパリパリチキンが載っているのがポイントです。
パリパリチキンカレーは、「日本のカレー」「スパイスカレー」「日本・スパイスカレーの合がけ(+100円)」の3種のルーから選べます。
取材時のルーは、日本のカレーです。
トッピングされたパリパリチキンは、チキンは倉敷カレーのオリジナルです。
コーンスターチの衣を鶏肉に付けて焼いたものだそう。
食べると、衣はまさにパリパリッとした食感で、非常に香ばしいです。
そして中の肉はプニプニとしていてジューシーな味わいで、とてもおいしいチキンでした。
カレーのライスはターメリックライスで、倉敷産のお米を使用
ライスはどのカレーも同じです。
お皿の中央にドーム状に盛られています。
ライスはターメリックライスのため、黄色です。
豊富な副菜がお得!
豊富な副菜も倉敷カレーのポイントです。
使っている野菜は、基本的に地元産。
また、野菜の種類は日や時季によって変わります。
とある日に食べたときは、枝豆・ニンジン・ダイコンなどがたっぷり入っていました。
さらにナガイモ・サツマイモ・ナンキンも。
これだけ豊富や野菜がてんこ盛りってお得じゃないでしょうか?
ゆで玉子(半玉)は、黄身がほどよい半熟具合です。
すべてのカレーはサラダ付き
すべてのカレーには、ミニサラダが付いています。
カレーを注文すると、はじめにサラダが出てくるので、サラダを食べながらカレーを待ちます。
なお、サラダに使っている野菜は地元産が中心です。
サラダの具材は、日や時季によって異なります。
お子様カレーは量も食器も小さな子にピッタリ
倉敷カレーには、幼児向けに「お子様カレー(300円)」もあります。
お皿は小さめで、やや深めの樹脂製。
お子様カレーのルーは日本のカレーがベースとなっています。
甘さと程よい塩味で、とろみも適度にありました。
お子様カレーのルーに入っている具は、コーン・ニンジン・枝豆・チキンなど。
ちなみにスプーンはほかのカレーと同じく木製のものですが、使いやすい小さなサイズです。
倉敷カレーは、間借り形式というユニークな店舗運営、そしてこだわりのあるカレーが印象的ではないでしょうか。
倉敷カレーの小田眞奈美 店主にインタビューをしました。
店主の小田眞奈美さんにインタビュー
間借り形式というユニークな店舗運営、そしてこだわりのあるカレーが印象的な倉敷カレー。
倉敷カレーの小田 眞奈美(おだ まなみ)店主に、話しを聞きました。
インタビューは2018年11月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
倉敷でカレー店を開業した経緯
──どうして倉敷でカレーの店を開業した?
小田──
もともと私は倉敷市の出身で、高校卒業後は調理師の専門学校でフランス料理を学んでいたんです。
専門学校卒業後には、大阪などの岡山県外や海外でフランス料理を中心に修業を続けていました。
その頃から「いつか生まれ育った地元・倉敷市で店を出したい」という思いはずっとあったんです。
でも、地元で店を出したいけど人脈もなく、すぐに開業することは難しい状態でした。
そこで、帰郷して地元・岡山県の飲食店で修業し、料理の腕を磨きながら人脈を広げるために働くことにしたんです。
──専門のフランス料理からカレーになったのは、なぜ?
小田──
フランス料理だと年齢や資金面から、開業は難しいと思っていました。
そんなとき、修業のために働いていたバルで、カレーの店を出すことになったんです。
その話を聞いて、カレーもいいなと思い始めました。
もともとカレーは私の好きな料理だったからです。
それに、私は野菜ソムリエの資格を持っているのですが、カレーだと自分の野菜ソムリエとしての知識が生かせる料理だというのもありますね。
あと、そのころに間借り店舗という形態を知り、興味を持ちました。
開業しやすい間借り店舗という業態と、カレーという料理の相性がよかったというのが、カレー店を開業した一番大きい理由ですね。
間借り店舗という形態について
──なぜ「間借り店舗」という、倉敷市界隈では珍しい経営形態を選択した?
小田──
大阪で、通称「ヤドカリカレー」という間借り店舗で運営しているカレー店が人気だということを知りました。
試しにヤドカリカレーへ行ってみたら、間借り店舗という形態は良いなと思ったんです。
低資金から出店できるのが魅力的だと思いました。
厨房の大きさなども、カレーと相性がいいと思います。
バーの厨房を使って提供できる料理は限られますから。
間借り形態でカレー店を出店すると決意してからは、カレーを食べ歩いて研究を続けてきました。
そんなときに、行きつけの美容院のオーナーの紹介で現在のバーを借りられることになって、倉敷カレーをオープンするに至りました。
今では、バーがカレールーを買い取ってくれて、夜にバーでカレーパーティーが開催されることもあったりします。
──間借り店舗ならではの大変なことは?
小田──
食器などは店に置かせてもらえていますが、厨房は昼しか使えないので、家でカレーを仕込んでから店に運んで、最終仕上げを店で行なって提供するスタイルにしています。
食材の運搬のとき、ルーは液体なので重いのが大変です。
全部で40〜50キログラムぐらいあるんです。
──1日の仕事の流れは?
小田──
現在は、昼に店を閉めた後、夕方に帰宅して早めに就寝しています。
深夜に起きて市場で仕入を行い、自宅で仕込をしてお店へ運んで開店、というライフスタイルです。
お店や料理のこだわりについて
──お店を経営していくうえで、こだわっていることを教えてほしい。
小田──
倉敷では、昔ながらの洋食風カレーを出す店が多いんです。
スパイスをたくさん使ったカレーは少数派。
そこで、スパイスをたくさん使うカレーを出せば、ほかと差別化できると思いつきました。
しかし、洋食系のカレーになれている倉敷の人には、あまりスパイスがききすぎていると合わないんじゃないかなと。
ですから、洋食風とスパイシーなカレーの中間的なカレーの店を目指しました。
──料理について、カレーのルーでこだわっていることは。
小田────
ルーですが、朝からじっくりと時間をかけて煮込んでいます。
それに、時間が経つとスパイスの香りがなくなるんです。
だからルーはその日のうちにしか使いません。
現在、ルーは2種類にくわえ、お子様用が1種類の計3種類を用意しています。
いまの経営スタイルだと、3種類+1種類のスタイルが一番提供しやすいラインナップです。
──人員が少ないなか、あえてお子様カレーを用意しているのは、なぜ?
小田──
最初、お子様カレーはありませんでした。
でも、お店を始めてみると、意外とお子様連れのお客様が多かったんです。
ベビーカー持ち込みで来店されるかたとか、ママ友の集まりで来店されるかたとか。
だからお子様カレーを作ろうと思いました。
お子様カレーは、ほかの2種類のルーとはまったく別にルーを作っています。
お子様カレーに7大アレルゲンは一切使っていません。
現代のお子さんはアレルギーがあるお子さんが多いので、配慮しています。
また辛さは一切なく、甘さを強めにしています。
──ルーに使っているスパイスについてのこだわりを知りたい。
小田──
スパイスは健康にいいので、「元気になるスパイス」をコンセプトにしてスパイスの配合を考えています。
当店では、普通のカレー店では使わないようなスパイスも使っているのもポイントなんです。
私はもともとフランス料理が専門ですから、フランス料理時代に知ったスパイスも使っているんです。
あと、トウガラシ系のスパイスは使っていません。
当店のカレーが辛さ控えめなのはそのためです。
わずかにある辛さは、ガラムマサラというスパイスのもの。
トウガラシ系のスパイスを使っていない代わりに、卓上にある「辛味スパイス」を各自お好みで使ってもらうスタイルにしました。
──カレーの盛り付けがすごくきれいなのが印象的だ。
小田──
はい。見た目もこだわっています。
食べる人においしいそうだと思ってもらって、印象に残るようにこだわって盛り付けています。盛り付けだけでなく食器にもこだわりました。
カレーと見た目の相性がよい食器を選んでいます。いろいろと試した結果、皿は美濃焼にしました。スプーンはシルバーではなく、木製のものにしています。
──野菜ソムリエの資格をお持ちとのことですが、野菜ソムリエとしてのこだわりはありますか?
小田────
野菜を使うときに、野菜の栄養面は常に考えています。
野菜は野菜同士でお互いの栄養を邪魔することがあるんです。
たとえば、キュウリはほかの野菜のビタミンを壊します。だから野菜同士の相性・組み合わせは工夫していますね。
あとは、旬のものは積極的に使うようにしています。旬のものは、野菜にとって一番いい環境で育ったものだから、最高の状態なんです。
それに、旬のものをだせば、お客さんも季節感を得られて楽しいと思います。
ちなみに野菜は倉敷産のものを使っています。
じつは祖母が農家なんですけど、祖母の畑で獲れた野菜をもらったりすることもありますね。
お米も倉敷産の「にこまる」という品種です。
今後の展望について
──最後に、お店の今後について教えてほしい。
小田──
将来的には、間借りでなく、店舗として美観地区に出店したいと考えています。
岡山市内への出店にも挑戦してみたいですね。
それに、地域を盛り上げたいという思いもあります。
美観地区周辺に比べて倉敷駅前はさみしい印象です。ですので、店を盛り上げて倉敷駅前の活性化につなげたいですね。
あと、カレーを倉敷名物にしたいとも思っています。
カレーという食品は嫌いな人がほとんどいないのが強みなので、名物料理に最適です。
倉敷観光に来た人が気軽に食べられるような名物を目指して、倉敷カレーを育てていきたいですね。
野菜ソムリエならではのこだわりカレーが楽しめる倉敷カレー
バーを間借りしての店舗という、倉敷ではめずらしい形態で注目される倉敷カレー。
野菜ソムリエの知識を生かしながら、こだわりのあるカレーを作っているのが印象的です。
また、お子様カレーのように知識を生かした配慮がされたメニューも魅力的ではないでしょうか。
さらに、元々はフランス料理が専門だったという店主の小田さん。
フランス料理でつちかった知識や技術も、ほかのカレー店にはない、独自のこだわりカレーに生かされています。
倉敷カレーは、ルーの特徴をたとえるなら「通向けのチキンカレー」と「万人向けの日替わりカレー」といった印象でした。
カレーを地元の名物にしたいという強い思いをお持ちの小田さんと、倉敷カレーの今後が楽しみです。