サッカー日本代表の監督人事が注目を集めている。
カタールワールドカップで一定の成績を収めた森保一監督の留任が伝えられる一方、それに反対する声も少なくない。仮に退任となった場合は、外国人監督が招聘される可能性が高そうだ。
監督交代のメリットは色々なところでささやかれている。そこで今回は、日本代表監督に外国人を招聘するデメリットを5つ挙げてみたい。
今大会ベスト8以上はすべて自国監督
ワールドカップでは、自国以外の人間が指揮を執ったチームは優勝できないという歴史がある。
それを改めて明示するように、カタール大会ではベスト8に残った8チーム、すべて自国の監督が指揮を執っていた。
- アルゼンチン:リオネル・スカローニ
- フランス:ディディエ・デシャン
- クロアチア:ズラトコ・ダリッチ
- モロッコ:ワリド・レグラギ
- オランダ:ルイス・ファン・ハール
- イングランド:ギャレス・サウスゲイト
- ブラジル:チッチ
- ポルトガル:フェルナンド・サントス
日本代表においても過去にラウンド16進出を果たした4大会のうち、3大会は日本人監督。
逆にグループステージ敗退となった3大会のうち、ワールドカップ初出場となった1998年を除く2006年と2014年はいずれも外国人監督がチームを率いていた。両大会はタレントも揃っていただけに失望も大きかった。
やはり選手やスタッフ、関係者とのコミュニケーションやその国のサッカーへの理解などを考えると、自国監督には一定のアドバンテージがある。
“推し”を招聘することは簡単ではない
外国人に限らず、監督を招聘する場合は優先順位をつけたリストを作成し、上からオファーをしていく形となる。
ただこれまでの歴史を振り返っても、「引き受けてほしい」上位の人物が日本代表監督が引き受けてくれる例は少ないとみられる。
反町康治技術委員長が先日渡欧した際、セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督に接触したことが現地で報じられた。相手にもキャリアがあるため、断られることは一度や二度ではないだろう。
やはり東アジアの日本から4年(※今回は3年半)という長期のオファーを受け、二つ返事で来てくれる有力監督は少ない。とはいえ、代表チームを率いる大きな魅力の一つがワールドカップである以上そこまでを含めた契約でなければ選択肢はさらに狭くなる。
そうなった時に、リスト下位でもいいから何が何でも外国人監督にこだわるべきなのかは大いに議論の余地がある。
お金がかかる
『Finance Football』によると、日本代表を率いる森保監督の年俸は1億5000万円。これでもカタールワールドカップ出場監督の中では真ん中あたりとなるようだ。
日本代表が「ぜひに」と招聘する外国人監督となれば当然それを上回る金額が必要になってくるだろう。
また、外国人監督であればコーチングスタッフも気心の知れた外国人スタッフが入る可能性が非常に高い。
たとえば、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のもとではジャッキー・ボヌベー(コーチ)、シリル・モアンヌ(フィジカルコーチ)、エンヴェル・ルグシッチ(GKコーチ)という3名が働いていた。契約によっては給与のほかに住居なども用意することになり、もちろん通訳も必要になる。
すべてを合わせると、一時ほどではないとはいえ円安下の日本において大きな支出になることは間違いない。
コロナ禍で育成年代の強化が停滞
「お金がかかる」に付随するが、2020年に世界を襲った新型コロナウィルスの影響は現在も続いている。日本サッカーにおいては特に、育成年代が大きなダメージを受けた。
というのも、東アジアという地理的な事情から、日本の世代別代表やクラブチームは欧州や南米のサッカーを10代の頃から体感するため、これまで積極的に海外遠征を実施してきた。
それがコロナによって、2020年から2022年かけての約2年間、ほぼゼロとなった影響は計り知れない。
日本サッカー協会(JFA)の危機感は強く、2022年春以降は育成年代で可能な限り海外遠征を実施。11月だけでも下記のように、6つのチームがスペインやポルトガル、クロアチアへの遠征を実施した。
- U-18代表(冨樫剛一監督)11/3~11/13@スペイン
- U-19代表(冨樫剛一監督)11/13~11/23@スペイン
- U-21代表(大岩剛監督)11/13~11/24@スペイン、ポルトガル
- U-17代表(城和憲監督)11/12~11/23@クロアチア
- フットサル女子代表(須賀雄大監督)11/13~11/25@スペイン
- U-15代表(廣山望監督)11/18~11/29@スペイン
当然のことながら監督スタッフを含め、1チーム25~30名が円安や燃料価格高騰の中で10日間程度海外に滞在するためには相当な費用がかかる。
JFAの予算に限りがある以上優先順位をつけなければならないとなった時に、未来の日本代表選手たちよりもA代表の監督に、今お金を使うべきなのだろうか?
五輪代表チームとの連携
日本は世界的にも少ない、男子サッカーで五輪に力を入れている国の一つ。A代表と五輪代表の一体的な強化を図るうえで、A代表の監督が五輪代表チームに理解を持っていることの意味は大きい。
カタールワールドカップでは、東京五輪に出場した選手たちからオーバーエイジを含め13名がメンバー入り。中山雄太が怪我で外れたものの代わりに入ったのも東京世代の町野修斗だった。
これまでの最多は2000年シドニー五輪→2002年日韓ワールドカップの9名。この時も両チームをフィリップ・トルシエ監督が率いており、やはり五輪代表との兼任はA代表の強化につなげるうえで強いと言える。
A代表が外国人監督の場合、どうしても自ら率いるチームの結果が優先になってしまいがちだ。A代表と五輪代表の活動期間が被ることが多々ある中で、パリ世代の選手たちをどちらのチームに呼び、全体的な強化を図っていくかは重要なテーマになるだろう。
そう考えると、少なくともパリ五輪までは日本人監督のほうが五輪代表の大岩剛監督とコミュニケーションが取りながらうまくやっていける可能性が高い。
まとめ
森保監督に限らず、「パーフェクトな監督」が存在しない以上あらゆるチームにおいて後任人事は常に付きまとう話。しかし、ピッチ内のことを解決すればすべてがうまくいくことなどありえない。
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お金で解決するのであれば収入自体を増やす手もあるが、当然簡単ではない。現実的にはメリットとデメリットをしっかりと洗いだし、選択肢を持ったうえでその時の最善策を取っていくことになる。今回もそれは変わらないはずだ。