明治のSL、デラックスロマンスカー……往年の名車を東武博物館で見る【コラム】

東武鉄道の開業時にイギリスから輸入された5号蒸気機関車。東武のSLといえば、車軸配置から4ー4ー0(先輪、動輪、従輪の数)が共通タイプ。東武博物館の保存機は車輪が回転します

年末年始の乗り鉄・撮り鉄ガイドの2、3回目は東武鉄道と、その博物館を取り上げます。関東で最大路線長の私鉄(民鉄)・東武鉄道の魅力を探るツアーが人気を呼んでいます。2022年10月から2023年2月まで継続実施される、「東武グループ×台東区×クラブツーリズム特別企画・1日でTOBUの魅力に迫る!東武浅草駅裏側探検ツアー」。10~11月の4回は、すべて〝満員御礼〟になりました。

今回は台東区などのご厚意で、11月24日のツアーに同行取材。午前中は東武の名車が保存展示される東武博物館を貸切で見学。午後は日光や鬼怒川温泉への東京の玄関口・浅草駅の探索と、東武ざんまいの1日を過ごしました。今回は東武博物館、次回は浅草駅をご案内。東武の歴史や魅力を解き明かします。

東武博物館を独占見学

最初にツアーのアウトライン。近畿日本ツーリストと同系列のクラツーは、鉄道ツアーが得意分野です。本サイトでも2022年7~8月、東京メトロ日比谷線の車両基地と、鉄道学校として知られる上野の岩倉高校の見学ツアーを紹介させていただきました。

夏のツアーの際、台東区文化産業観光部観光課とご縁をいただき、次回の取材をリクエスト。今回、同行がかないました。

行程は次の通り。朝一番で東武スカイツリーライン東向島駅に集合、駅高架下の東武博物館を通常の営業時間前に独占見学します。

次いで東京スカイツリーに登り、都心の絶景を上空から眺望。午後は隅田川を渡って浅草に移動し、東武のターミナル・浅草駅の見学でツアーを締めくくります。

SLやELファンも楽しめる博物館

最初期の電車・デハ1形5号。ご覧のような木造車ですが、東武の特徴のパンタグラフ2基を備えています。営業運転を終えた後、1956年からは西新井工場の入換車に転用されました。本レポートで紹介した親子連れのお母さまは、この電車に乗車したことがあるそうです

東武博物館は会社設立記念事業の一環として、1989年にオープンしました。館内(一部屋外)には鉄道車両に限らず、バスやロープウェイのゴンドラも展示されています。

私鉄の博物館といえば電車を想像しがちですが、東武の初期は、SLが客車列車や貨物列車をけん引。戦後も21世紀の2003年まで、EL(電気機関車)が先頭に立つ貨物列車が運転されていました。その点、東武博物館は電車ファンばかりでなく、SLファンやELファンも楽しめる展示施設といえるでしょう。

初期の苦境を両毛地域、日光への延伸で脱す

博物館では、学芸員の方が東武の歴史や特徴を分かりやすく丁寧にレクチャーしてくれます。

東武の会社設立は明治年間の1897年で、2年後の1899年に北千住―久喜間で営業運転を始めました。東京と北関東の栃木や群馬を結ぶ目的の鉄道でしたが、東京側は浅草手前の隅田川東岸、北関東側は埼玉県の利根川南岸で建設がストップ。初期の経営は苦戦の連続でした。

苦境を救ったのが、攻めの経営を実践した根津嘉一郎。利根川を渡る鉄橋を建設して、繊維産業が盛んな両毛地域(栃木・群馬県)、観光地の日光に路線を延ばします(浅草駅や東京スカイツリータウンの歴史は後編で取り上げます)。

東武のもう一つの基幹路線は、池袋が起点の東上線。こちらは大正年間の1914年開業で、当初は東上鉄道という別会社でした。

ところでこの東上線、東京から北西に進むのになぜ〝東上〟なのか。実は群馬県渋川市まで鉄道を建設するプランがあり、上州の「上」を名乗ったそうです。

DRC、スペーシア、そしてスペーシアX

屋外展示されるDRC1720系と日光軌道線200形。日光軌道線は日光駅前と馬返を結んでいた東武の路面電車で1968年に廃止されました

1960年代までは旧形車の多かった東武の車両群、イメージを一新したのは1960年に運転を始めた「デラックスロマンスカー(DRC)」の1720系です。

6両編成で、先頭部はボンネットタイプ。座席は3段リクライニング、ジュークボックスのあるサロンルームも旅のムードを盛り上げました。東武博物館には、「けごん」のヘッドマークを付けた、先頭車のカットモデルが屋外展示されます。

DRCの後継車として1990年にデビューしたのが、100系「スペーシア」。グッドデザイン賞や、鉄道友の会のブルーリボン賞を受賞した東武のフラッグシップ車両で、2006年からはJR東日本との相互直通運転で、新宿駅に姿を見せます。

そして、2023年7月15日にデビューするのがN100系「スペーシアX」。開発コンセプトは、「Connect & Updatable~その時、その人と、つながり続けるスペーシア~」。2023年前半は、新型特急のニュースが鉄道ファンの注目を集めそうです。東武博物館では2022年10月からモックアップを展示しています。

ツアー客は鉄道ファンばかりじゃない

運転シミュレーターに挑戦するツアー参加者。一般の来館者に気がねなく博物館を楽しめるのも貸切ツアーならではといえるでしょう

話をクラツーのツアーに戻して、およそ20人の参加者から何人かに話を聞きました。7月のメトロ、岩倉高は夏休みのファミリーがほとんどでしたが、今回は平日開催とあって中心はシニアでした。

鉄道ツアーといえば、参加するのは鉄道ファンと反射的に思ってしまいますが、それは大きな誤解。実際は、「東京の下町をもっとよく知りたい」と考える旅のベテランが目立ち、女性グループも複数見かけました。

「駅の宿に泊まりたい」

話を聞かせてくれたのは、東武沿線に暮らす80歳代の母親と50歳代の息子さんの親子。お2人の仲の良さが分かります。

息子さんは根っからの鉄道ファン。東武博物館には何回も足を運んでいますが、一度説明を聞きたいと母親を誘いました。息子さんに「次はどんなツアーに参加したいですか」と質問すると、「比羅夫駅に宿泊するツアー」と即答。

函館線比羅夫駅は民宿「駅の宿ひらふ」のある駅として知られます。本サイトでも紹介させていただきましたが、函館線の通称・山線(長万部―小樽間)は北海道新幹線の開業時、バス転換される方針が2022年3月末に決まりました。まだ相当先ですが、どこかの旅行会社が夢をかなえてくれることを期待しましょう。

浅草駅探検ツアーの1回目、東武博物館貸切見学は以上。後編では、浅草駅や東京スカイツリータウンの歴史、そして鉄道ツアーでヒットを当てる台東区の観光振興策をまとめます。ぜひご覧ください。

東武博物館の開館時間は10時~16時30分で、休館日は毎週月曜日(月曜日が祝日や振替休日の場合は、その翌日)と年末年始の12月29日~1月3日です。2022年12月20日から2023年2月24日まで、「鉄道写真詩コンテスト2022」入賞・入選作品典が開かれます。

記事:上里夏生(写真は全て筆者撮影)

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