昭和30年創業、量り売り菓子店が22年内で閉店 厚木「千石」 惜しむ客が続々

ずらりと並んだ番重からお菓子をすくって袋に入れる藤原ナミヨさん

 小田急線本厚木駅そばで1955年(昭和30年)から営業を続けてきた、今では珍しい量り売りの菓子店「お菓子の千石(せんごく)」(藤原総一郎社長、厚木市中町2丁目)が年内で閉店する。ノスタルジックな昭和の香り漂う店がなくなることを惜しみながら、今も多くの客が訪れている。

 一番人気のジャムサンド、芋けんぴ、豆菓子…。さまざまなお菓子が入った「番重(ばんじゅう)」と呼ばれる平積みの箱が約60個、店内にずらりと並ぶ。ふたのガラス越しに、いろいろなお菓子が見える店内は眺めているだけでも楽しい。

 注文を受けると、藤原社長の妻ナミヨさん(74)や従業員の男性が、番重のふたを開けて、小さなスコップでお菓子を袋に入れてはかりに載せる。「200グラムなら、ちょっと多めで204グラムぐらいになることも。決して少なめにしちゃいけない」とナミヨさん。

 スーパーのはかりのように重さに応じて金額が表示されるわけではなく、204グラムでも200グラムの値段で売る。仕入れ値が下がれば、売値も下げる。包装なしで仕入れて量り売りすることでコスト削減につながり、薄利多売の経営を続けてきた。

 だが、賃借している店の敷地に大型マンションが建設されることに。「新しいビルで高くなる賃貸料や管理費を払っては、これまでのようには売れなくなる」(ナミヨさん)と心ならずも閉店を決めた。

 藤原社長の父が戦後、子どもたちが大好きなかりんとうを奪い合うようにしていた様子を見て「これからの商売は菓子だ」とひらめき、菓子店を始めたという。バブル期には近隣のゴルフ場にもたくさんのお菓子を納入した。

 なじみ客も多い。今はハワイに住む女性客は閉店を聞きつけ、帰国していた11月下旬に店を訪れてくれた。平日でも昼休み時は、年配客や主婦らが次々と、のれんをくぐる人気ぶり。閉店セールなどはしない。「普段から特売みたいなものだから」とナミヨさん。大みそかまで普段通りの“特売”を続ける。

© 株式会社神奈川新聞社