老舗アパレルが進める「脱固定観念」の戦略 廃棄減らし素材に廃プラ、古着販売も…若年世代に狙い

 「ステッピ・バイ・アンフィーロ」を手にするデザイナーの木下知都江さん=10月、東京都港区

 老舗のアパレルメーカーがこれまでの固定観念にとらわれない商品の生産や販売を進めている。廃棄されたプラスチックや海洋ごみをリサイクルした素材を活用し、古着の販売にも乗り出した。業界では、商品の大量生産と廃棄が問題となってきた。安価なファストファッションとの違いを生み出し、環境意識が高い若い世代にアピールする。(共同通信=徳光まり)

 ▽パンプスの軽さは卵2個分

 オンワード樫山は2022年、リサイクル素材の靴「ステッピ・バイ・アンフィーロ」の販売を始めた。使用済みのペットボトルやプラスチックを原材料にしたポリエステル製の糸を使い、ソールにもリサイクル素材を配合した。
 第1弾として売り出した女性向けのパンプスは、片足の重さが卵2個分の約120グラムしかない。靴を構成する部材を半減させて軽量に仕立てた。いい靴といえば皮革製と考えられがちだが、ステッピは、オンワードの洋服生産の技術を生かしたニットシューズ。デザインを担当した木下知都江さんは「機能的でおしゃれなアイテムをもっと心地よく楽しみたいというニーズが高まっている。軽さだけでなく、伸縮性や通気の良さも人気だ」と話した。
 素材だけでなく生産から流通に至る過程でもサステナブルであることを目指した。シンプルで流行に左右されないデザインにし、売れ行きに応じて追加で生産する体制を取る。過剰な包装を減らすため、靴箱を付けずに販売する。
 アパレル業界は流行のデザインを追い、春夏と秋冬シーズンで商品が切り替わる。事前の販売見通しに基づいて、シーズンの半年~1年前から生産するため、目算が外れると売れ残りが発生し、廃棄につながる。
 今後の展開について、木下さんは「捨てる時に回収してリサイクルできる仕組みをつくりたい」と話した。来春からは子ども靴の販売も始め、将来的にはブーツやサンダルへの応用も模索している。

 ▽店内には海洋ゴミ、環境問題に配慮

 三陽商会は2022年9月、東京・渋谷駅に直結する商業ビル「渋谷スクランブルスクエア」に、エコ衣料のブランド「エコアルフ」の主力店をオープンした。店内に入ると、ペットボトルなどの海洋ごみでつくられたオブジェが目を引く。エコアルフの全ての商品は、廃棄された漁網やタイヤなどをリサイクルした素材や、環境負荷の低い天然素材でつくられている。三陽商会の羽田野貴紹部長は「ファッション発信地の渋谷で、新しいエコシステムを確立したい」と話した。
 大手のアパレル企業は百貨店などを有力な取引先としてブランドを展開しており、顧客が中高年層に偏る傾向があった。だがエコアルフの渋谷店のお客には10代や20代の「Z世代」と呼ばれる若者も多い。環境問題への関心が高いとされる若年層に視覚でも訴えている。

 三陽商会の「エコアルフ」主力店=9月、東京都渋谷区

 ▽「ゼロからデザインに固執しない」

 神戸市に本社があるワールドは古着の販売に乗り出した。2018年、古着販売会社の「ティンパンアレイ」(東京)に出資し子会社化した。ティンパンアレイは、ブランド古着のセレクトショップ「ラグタグ」を東京や名古屋、福岡などで展開する。若者に人気が高く比較的高価格なブランド品を顧客から買い取り、定価より手頃な価格で販売する。
 ティンパンアレイの平野大輔社長は「若い世代の意識が変わって古着の利用が増えている。ワールドのリメーク技術や抗菌、防臭加工を活用したい」と今後の展開を語った。
 アパレル業界では、流行を取り入れた新しい服をつくることが王道とされ、古着の取り扱いには距離を置いてきた。だが、ワールドの広報担当者は「ゼロからデザインすることに固執せず、限りある資源を有効に使う視点が求められている」と狙いを説明した。

 2022年11月には東京・表参道にあるワールドのオフィスで、古着の販売イベントを開いた。会場には、社外の若手デザイナーやスタイリストら10人が厳選した古着が並んだ。参加したデザイナーの横澤琴葉さんは、雰囲気が異なるブランドの商品を組み合わせて展示し、「お客さんが新しいブランドに出会うきっかけになってほしい」と話した。

 選んだ古着を披露するデザイナーの横澤琴葉さん=11月、東京都港区

 日本総合研究所によると、2020年に国内に新たに供給された衣類の総量は82万トン。一方で、廃棄された衣類は51万トンに上る。そのうち、96%以上が家庭から廃棄されていた。日本総研の石田健太氏は「衣類の廃棄を減らすには、消費者の意識変化だけでなく、企業側がリサイクルやリペアに取り組み受け皿になることが必要だ」と話した。

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