いつまで続く?電気料金の値上げ 抜本改定で「最大45%」の引き上げも

 記者の自宅にあるエアコン。この冬はなるべく使わないようにした

 寒波の襲来で厳しい冷え込みが続くこの冬、電気代の利用明細を見て「こんなに高いの?」と驚いた人も多いのではないだろうか。石炭、液化天然ガス(LNG)、石油など、火力発電に使われる燃料価格の高騰を受けて値上がりが続く電気料金。暖房器具が活躍する真冬は使用量も増えるため、家計への影響は一層大きくなる。
 今月からは政府による電気料金の負担軽減策が始まるが、大手電力会社はさらなる値上げを予定しているという。家計負担の上昇はいつまで続くのか。自身も節電に取り組み始めた記者が調べてみた。(共同通信=小林ひな乃、吉田啓生、山本大樹)

 ▽1年間で料金倍増!暖房をつけない「節電の冬」に

 記者(小林)が住んでいるのは瀬戸内海に面した香川県の高松市。冬場も雪がほとんど積もらない比較的温暖な地域だ。単身者向けのマンションで1Kの部屋に住み始めて1年8カ月。1年目は電気代を気にしたことはなかったが、2年目に入った頃からじりじりと値上がりを実感するようになってきた。
 直近の利用明細を確認してみると、昨年11月検針分の使用量は124キロワット時で、料金は4450円。1年前と比べ使用量は4割ほど増え、金額は2倍になっていた。使用量が増えたのはテレワークが増え、家で仕事をする時間が多くなった影響だろう。使った分の料金がかかるのは仕方ないが、まさか倍増するとは思わなかった。
 このままだと真冬の時期はさらに出費がかさんでしまう。そうなる前に少しでも節電できればと考え、この冬はなるべく暖房をつけないことにした。部屋の中では保温効果のある肌着を重ね着し、それでも寒い時は薄手のダウンを羽織る。足元からの冷えはスリッパと小さなホットカーペットで防ぎ、部屋の照明は小まめに消すようにした。今のところは問題なく暮らせているものの、昨年12月中旬、高松市内に初雪が降った日は、思わず暖房のスイッチを入れてしまった。

 記者が自宅で節電のために使っている衣類やダウン、スリッパなど

 首都圏で暮らす家族や友人に聞いても、電気代の値上がりは悩みの種になっているようだ。横浜市に住む祖父母の家では、半年前と比べて使用量が減ったのに料金は千円ほど増えたという。東京都内で1人暮らしをしている友人の女性はこの半年で電気料金が2千円ほど値上がりしたため、暖房の使用を控え、部屋のライトを節電効果がある充電式のものに取り換えた。彼女自身も電力会社で働いており、燃料価格の高騰が電気料金の値上げにつながる事情はよく理解している。それでも1人の消費者としては不満があるようで「使用量が変わらないのに、こんなに高くなるなんて…」とこぼしていた。

 ▽電気料金に含まれる「燃料費調整額」のカラクリ

 そもそも、一般家庭の電気料金はどのようにして決まるのだろうか。利用明細に記された内容をよく見てみると、月々の電気料金は(1)契約のアンペア数で決まる「基本料金」(2)使用量によって変動する「電力量料金」(3)「再生可能エネルギー賦課金」の合計額になっていることが分かる。さらに、電力量料金の中には「燃料費調整額」という項目があり、ここで燃料価格の変動が反映される仕組みだ。
 燃料費調整額は、燃料の輸入価格に応じて変動する「調整単価」と「電気使用量」のかけ算で決まる。つまり「使用量が増えていないのに、電気料金が値上がりした」という場合は、調整単価の上昇が大きな要因だ。

 東京電力が公表している一般家庭向けの調整単価を見てみると、昨年11月時点で2年前よりも1キロワット時当たり10円近く上昇していた。東電が一般家庭における月間使用量の目安とする260キロワット時をかけると、燃料価格の影響だけで月に2500円以上、料金が増える計算だ。
 ちなみに調整単価は、各電力会社が燃料として使用する石炭やLNGなどの割合などによっても変わってくるため、電力会社によって値上げ幅は大きな差がある。関西電力の調整単価を基に計算すると、昨年11月までの2年間の値上げ幅は千円程度。電気料金の値上げは地域差も大きい。

 ▽「年度通期で500億円」電力会社にも累積する負担

 負担が増しているのは消費者だけではない。電力会社側にも苦しい財政事情がある。2016年の電力小売りの全面自由化以前から販売している従量電灯などのプランは「規制料金」と呼ばれ、それ以降に導入された「自由料金」と区別されている。規制料金の調整単価には、国が定めた上限が設定されており、電力会社は国の許可なく上限を変更したり撤廃したりすることができない。これは消費者の負担が重くなりすぎないようにするのが目的だ。
 昨年10月以降は、大手電力10社全てで調整単価の上限に到達してしまい、電気料金に上乗せできない燃料費を電力会社が負担している。昨年4月に上限に達した四国電は、この負担額が2022年度通期で計500億円に上ると予想する。他の電力会社からも「このままでは電力の安定供給に支障を来しかねない」(東北電力の樋口康二郎社長)との声が上がるなど、各社の受け止めは深刻だ。

 ▽最大45%増、大手電力に広がる抜本値上げ

 こうした状況を受け、料金体系の大幅変更を検討する動きが広がり始めている。昨年のうちに東北、北陸、中国、四国、沖縄の5電力が国に規制料金の抜本的な値上げを申請。北海道電力や東京電力も申請を検討すると表明した。
 既に申請した5社は4月から3~4割程度の値上げを見込む。認められると、北陸電、中国電、沖縄電は第2次オイルショックの影響を受けた1980年以来、ほかの2社は2013年以来となる。北陸電では規制料金全体で平均45%も値上げする計画だという。家計を直撃する大きな負担増になるのは間違いなさそうだ。

 記者会見する四国電力の長井啓介社長=2022年11月

 記者が取材している四国電も昨年11月に記者会見し、規制料金を平均28%値上げする方針を発表した。長井啓介社長は神妙な面持ちで「もはや私どもの企業努力ではいかんともしがたく、この厳しさから脱する見込みはない。大変心苦しいが、電力の安定供給のためご理解いただきたい」と切り出し、頭を下げた。
 現在は経済産業省の専門会合で申請内容が審査されており、その結果によっては値上げ幅が圧縮される可能性もある。ただ審査に当たる委員からは「ある程度は引き上げざるを得ない」との意見も出ており、一定の値上げは避けられない見通しだ。

 ▽国費で一時的に負担軽減も、4月以降は再び値上げ?

 燃料価格の高騰にはさまざまな要因が絡み合っている。世界経済がコロナ禍から回復しつつあることに伴う需要の急増。LNGや原油を産出するロシアのウクライナ侵攻で資源の調達環境が不安定化したこと。為替の急激な変動に伴う輸入価格の乱高下。状況は複雑化する一方で、今のところ価格が落ち着く気配はない。
 国は足元の物価高対策として、1月使用分(2月検針分)から9カ月間、電気料金の負担軽減策を実施する。これは国が電力会社に補助金を出すことで、消費者の負担額を2割程度下げるという仕組みだ。だが前述した規制料金の大幅値上げが正式に決まれば、負担軽減策による値下げ幅を上回り、4月以降は再び値上がりする恐れがある。かといって、値上げの度に国が補助金を出して消費者の負担を肩代わりするのは現実的ではないだろう。
 電力自由化後に参入した「新電力」と呼ばれる事業者は、国の認可を受けず料金を変更できるが、最近は経営難で事業継続を断念する企業が急増している。大手で抜本的な値上げが相次げば、新電力でも同様の動きが広がる可能性がある。消費者にとっても電力会社にとっても、当面は厳しい状況が続きそうだ。

 電気料金の負担軽減策を含む「総合経済対策」を発表する岸田文雄首相=2022年10月

© 一般社団法人共同通信社