灯台もと暗し

 身近なことはかえって気づきにくい。〈灯台もと暗し〉のたとえは、井原西鶴の「世間胸算用」が出どころと知って驚いた、と作家の半藤一利さんはエッセー集「歴史のくずかご」(文春文庫)に書き留めている▲「灯台」とは岬に立つ塔ではなくて、ろうそくで室内を照らす燭台(しょくだい)をいう。周りを明るく照らすけれど、その真下は影になっていて暗い▲足元で閣僚が続々と去る今の政権のさまを見て、〈灯台もと暗し〉のたとえが浮かぶ。岸田文雄首相にとって、閣僚は身近であるはずだが、その不届きにまるで気づかず、不届きが明るみに出てもしばらくは放ってきた▲この2カ月余りで4人目になる。政治とカネの問題で秋葉賢也復興相が交代させられた。臨時国会であれほど野党にたたかれた人物だというのに、今になっての途中辞任は遅きに失するというほかない▲過去、被災地を訪ねて「知恵を出さないやつは助けない」と言い放った復興相がいる。震災被害を「まだ東北でよかった」と発言した復興相もいる。またか、の辞任劇に被災地の「うんざり」もここに極まるだろう▲政権とは国民の生活を、日本のこれからを照らす燭台のはずだが、放つ明かりはますます弱く、真下の影はますます暗い。もう一つ、〈風前のともしび〉というたとえも浮かぶ。(徹)


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