男性も知ってほしい「フェムテック」、基礎知識から現在地まで 企業幹部が指摘する「ニーズとのズレ」、吸水ショーツで世界初の試みも

展示会ブースで開発中のショーツを説明するBe-Aのスタッフ=Be-A提供

 フェムテックは、女性の生理や妊娠・出産、更年期など、体に関するさまざまな課題をテクノロジーで解決する製品やサービスだ。「female」(女性)と「technology」(技術)を掛け合わせた造語で、ドイツ発の生理管理アプリ「Clue」を2012年に創業した女性起業家が、資金調達のために生み出した。
 最も一般に知られているのが生理用の「吸水ショーツ」。紙ナプキンが不要で、洗って繰り返し使えるため環境にも配慮した商品と言える。
 こう書くと女性だけの問題と捉えられがちだが、決して男性も無関係ではない。潜在的に大きな可能性を秘める市場として各国の企業も参入している。フェムテックについて知ってもらうべく、改めてまとめてみた。(共同通信=山口恵)

フェムテック関連の商品が並ぶ売り場=東京・六本木の日用品店「New Stand Tokyo」

 ▽世界で5兆円規模の市場。新語・流行語にもノミネート
 世界では10年ほど前からフェムテック関連の企業が増え、近く5兆円規模の市場になる、との予測もある。特にアメリカなどでは、卵子凍結や不妊治療のサービスなどを、女性の離職を防ぎたい大手企業が福利厚生として導入する事例があり、日本企業でも追随する動きが出てきている。
 日本での市場規模はどのくらいだろうか。「矢野経済研究所」によると、2020年のフェムテック関連の市場規模は約600億円。前年比約104%の伸びだった。
 政治も動き始めている。2020年秋には自民党が、野田聖子衆院議員を会長にフェムテック振興議員連盟を発足。さらに、翌2021年の政府の「骨太の方針」にはフェムテック推進が明記された。これは国の重要な政策課題として位置付けられたことを意味している。
 さらに、2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、徐々に認知も広がっていった。

「フェムテック」の専門店「フェミニティアーチ」に並ぶ関連商品=長野市

 フェムテックの意義は、単に女性の生活の質を向上させるだけではない。経済や日本の生産性とも直結している。経済産業省の調査では、2025年時点のフェムテックの経済効果を年間2兆円と推計している。これは、生理や更年期の症状、不妊治療などで離職や勤務形態の変更を余儀なくされていた人が、フェムテックを通じて仕事と生活を両立できる場合の給与相当額を合計した値だ。裏を返せば、多くの女性が苦しんでいることを意味している。
 では、日本で展開されているサービス・商品にはどのようなものがあるのだろうか。女性のライフステージなどに応じてジャンル分けすると(1)生理・月経前症候群(PMS)(2)妊娠・出産(3)更年期(4)デリケートゾーンケア(5)セクシャルウェルネス(6)メンタルケア―などがある。
 サービス・商品の内容も幅広く、医師らによるオンラインの診断や相談、自宅で試せる妊活関連キットのほか、体の状況をモニターする小型デバイスなどがある。

 

生理用ショーツ=東京・六本木の日用品店「New Stand Tokyo」

 ▽ブームに一役買った「吸水ショーツ」。世界初、健康管理機能が付いた商品も
 日本のフェムテックの代名詞として知られるのが吸水ショーツだ。ここ数年で大手をはじめ多くのメーカーが参入。生地や縫製に工夫を凝らし、経血をショーツ内に閉じ込めることができる。
 もしかしたら「ショーツのどこがテック(テクノロジー)なの?」と疑問に思う人もいるかもしれない。だが、蒸れや経血の漏れを防ぎ、快適に使うためには特殊な生地や高い縫製技術が必要。最新テクノロジーが使われた商品も多いという。
 日本ブランドの吸水ショーツは数年前にクラウドファンディングなどから火が付き、2021年にはGUやユニクロも相次いで販売を開始した。各社が競う中で、生地を複数重ねているにもかかわらず、通常のショーツとほぼ変わらない履き心地の商品も増えてきた。
 利用者も20~40代だけでなく、尿漏れに悩む高齢者や、小中学生にも広がっている。知的障害のある娘の保護者が買い求めるケースもあるという。生理用ナプキンだと「いつもと違う」と、はがしてしまうことがあるためだ。
 さらに、吸水ショーツを使って、病気の早期発見や健康管理ができないかという「世界初」の試みも始まった。
 取り組んでいるのは、ショーツ開発の「Be―A(ベア)」と、ウエアラブルデバイスを手がける「ミツフジ」。両社は連携し、履いたまま経血量を測定できるショーツの開発を進めている。

Be-Aが開発中の経血量を測定できる吸水ショーツ=Be-A提供

 計測の仕組みはこうだ。ショーツの素材は導電性を持つ特殊な糸。薄型のデバイスをショーツに付け、専用のスマホアプリにデータを送ることで、自分で経血量を継続的にモニターできる。
 Be―Aの医療アドバイザーを務める産婦人科医の宗田聡氏は期待を込める。「こうした情報がビッグデータとして蓄積されれば、医学的な新発見につながる可能性がある」。すでにモニター女性による実証実験中で、数年後の一般販売を目指したいという。

 

フェムテック企業を支援するスタートアップ企業「フェルマータ」の最高執行責任者(COO)近藤佳奈さん

 ▽成熟期迎えるも、生じるニーズとの「ズレ」
 「フェムテックは今、黎明期を過ぎて成熟期に入った印象です」。フェムテック企業の支援などを掲げ、2019年に設立されたスタートアップ企業「フェルマータ」の最高執行責任者(COO)、近藤佳奈さんは現状をこう説明する。
 近藤さんによると、技術力があり、数年前の「黎明期」にフェムテックに着目した大手企業の商品が徐々に市場に登場している。例えば「アテックス」が手がける充電式のおきゅうは、温活アイテムとしてすでに販売されている。また「アルプスアルパイン」は、尿漏れ改善を目指し「骨盤底筋群」のエクササイズができるようなデバイスの実証実験中だという。
 他に近藤さんが注目するのは、大学発のスタートアップだ。例えば、超音波を使った乳がん検査装置の開発に取り組む東京大学発の「Lily MedTech」など、「一般的にあまり知られていなくても、高い技術を持っている企業は数多くある」。
 一方で「ずれ」も生じ始めている。「『フェムテック』という言葉にとらわれすぎて、消費者のニーズとずれた商品も出てきている」。重視すべきなのは、当事者の悩みに寄り添い、解決したい課題を見極めることだと指摘する。「吸水ショーツひとつ取っても、消費者は生理時の不快感を解消したいから買う訳で、別にフェムテックがブームだから買う訳ではない。そこをはき違えて『うまくいかない…』と悩む企業も多い」
 近藤さんは、今後の成長が見込まれる分野もあるとみている。「困っている人が多いのに、世界的にも商品やサービスが少ない更年期の分野や、高齢者から若者までとターゲット年齢が広い尿漏れ対策の分野が今後もっと伸びていくのではないか」

大阪・心斎橋パルコの医療モール「ウェルパ」に入るフェムテックの専門店

 ▽制度面での課題も見えてきた
 難しいのは、法律など既存のルールとの兼ね合いだ。女性の体の課題解決を目指す商品のため、メーカー側はその安全性や効能をアピールして販売したいところだが、そのためには「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」による承認や審査を受ける必要がある。
 承認や審査は、国が公表している医療機器の分類に基づいて行われるが、そもそもフェムテック商品は既存の分類に当てはまらないことが多い。 このため、ノウハウを持たない小さい会社にとっては手続き面でのハードルが高い。日本の薬機法の規定は「世界一厳しい」と言われ、国際競争などの面で足かせになっているとの指摘もある。
 薬機法による規制の対象から外れ、雑貨として販売することは可能だ。しかし、そうなると商品の質や安全性を担保することができない。効果をアピールすると違法になる可能性もあり、広告表現も限定される。

 厚生労働省も対応を始めている。フェムテック事業者との「産官ワーキンググループ」を開催。今年、医療機器の分類として「骨盤底筋訓練器具」が新設された。
 ただ、近藤さんはまだ動きが遅いと感じている。「安全性担保の裏返しなのは理解しているが、行政の対応はあまりにも保守的と感じてしまう。人々の新しいニーズを受け止め、民間任せにしないような関わり方を期待したい」
 その上で、フェムテック市場の理想形をこう語った。「安全面に配慮しつつも、新しい商品が流通できる柔軟な仕組みが必要。消費者が安心して購入でき、その上で人気が出れば、他社が参入してマーケットが広がるかもしれない。そうなれば、より良い商品を、納得感のある価格で入手できる可能性も高まる。消費者の選択肢も増えていくはずです」

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