<社説>'22回顧・文化 平和発信、先人の志を礎に

 日本への復帰50年で、沖縄の歴史や未来について多角的、重層的な議論が行われたことは意義深かった。世界のウチナーンチュ大会では、地球規模に広がるネットワークに基づくアイデンティティーを確認できた。その一方で、南西諸島の軍事要塞(ようさい)化が進み、沖縄戦の再来が危惧される状況がある。沖縄戦の教訓を土台にした戦後沖縄の文化の力が改めて問われる。 復帰50年の節目は、琉球王国時代にさかのぼり世界の中の琉球・沖縄を再認識する機会だった。半面、特に若い世代の歴史認識の不十分さが大きな課題として浮上している。歴史教育に関わる教員の研究会による高校生の調査で、復帰の日の日付・5月15日の正答率が22%にとどまった。慰霊の日・6月23日も、正答は半数以下だった。

 しまくとぅばの継承・普及も困難さが増している。本紙の5年ごとの県民意識調査で、話せない人が全世代合わせて72%に達した。

 これら問題の解決には、琉球・沖縄史としまくとぅばを学校教育の正規カリキュラムに組み入れることが求められる。さらに、日本の歴史教育と国語教育に、琉球・沖縄史と琉球古典文学を位置付けることも必要だ。

 そんな中、名桜大学が「琉球文学大系」の刊行を開始した。2030年までに35巻を刊行するという歴史的大事業だ。県教育委員会の「歴代宝案」の訳注本全15巻も今年完結した。琉球の文化遺産を人類共通の財産にするこうした息の長い努力が、沖縄の文化力を高めることにつながる。

 首里城の再建は、11月に正殿の起工式が行われた。大龍柱の向きについて論争が続いている。県民が納得できるよう、開かれた場で結論が導かれることを望みたい。

 首里城地下の日本軍第32軍司令部壕の保存・公開を目指す県の詳細調査が始まった。なぜ沖縄戦が起き、なぜ県民の4人に1人が命を落としたのかを考える上で、司令部壕は第一級の戦跡だ。負の遺産として、首里城と一体として未来に引き継ぐべきである。

 今年の墓碑銘には人間国宝の宮平初子さん、照喜名朝一さん、平良敏子さんのほか、作曲家の普久原恒勇さん、強制集団死(「集団自決」)の生き残りとして証言を続けた金城重明さんがいる。

 人間国宝の3人は、沖縄戦で途絶えかけた染織、芸能を復興させ、新たな高みに到達させながら、その継承に力を尽くした。沖縄に根差した新たな音楽を創造し続けた普久原さん、「命どぅ宝」の本質を説く重い存在だった金城さん。平和を希求し、沖縄アイデンティティーを大切にして功績を残したことが共通する。

 世界のウチナーンチュの絆を、世界に向けた平和と文化発信の基礎として、先人から受け継いだ戦争を拒否する文化の力をさらに発展させていくことが、次の世代の使命だと確認したい。

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