令和のBLは“クソデカ感情”至上主義時代へ。2023年トレンド予測を専門家に聞いた

【後編】BLレビューサイト「ちるちる」が開催する「BLアワード」から見えてきた今年の流行とは? 昭和、平成から変化した令和のトレンドは“クソデカ感情”にあるのだそう。

前編に引き続き、BLサイト「ちるちる」を運営する株式会社サンディアスの井出洋さんによるBLセミナー「BLアワード2023直前対策 ユーザー投票分析から見えた意外な事実」に30代オタク女子ライターが参加。その気になる内容のレポートをお届けしていきます。

後編となる本記事ではこれまでの流行(トレンド)を踏まえ、2023年にくるであろうBL予測をお伝えします。

令和のBLは“クソデカ感情”がポイントになる?【前編】2022年のBL流行はジャンルレス?専門家が見たトレンド傾向とは。映像化も過去最多に

https://numan.tokyo/column/PMHbR

2019年から2021年までBLトレンドはどう変化した?

前編で紹介したコミック部門やシリーズ部門、それと次にくるBL部門の3つのランキングを見てきた結果、さまざまな興味深い傾向を知ることができました。

そして、本題となる“2023年に流行るBLは?”という疑問には、“次にくるBL部門”で見えてくるトレンドが重要だと井出さんは語ります。そこで、過去3年分の“次にくるBL部門”のトレンド傾向を見ていくと、そこから極端な違いを見ることができました。■2019年は“ほのぼの王道の流行年”

『嫌いでいさせて』ひじき(リブレ)

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【作品例】『嫌いでいさせて』著:ひじき/『狼への嫁入り ~異種婚姻譚~』著:犬居葉菜/『俺たちナマモノ?です』著:腰オラつばめ

「受けキャラが健気不憫、ファンタジーハートフルな雰囲気の作品がランキング上位に。ストーリーは王道路線の作品が多く、コミカル、シリアスになりすぎない作風が受けました。受けの健気不憫設定はBLの王道で、マンネリとも言われてしまうこともあるのですが、この設定は本当に安心して読めるということもあるのか読者受けがよかった。“The・BL”な作品が流行った年でした」(井出さん・以下同)

■2020年は“ダークおしゃれな年”

『跪いて愛を問う』山田ノノノ(新書館)

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【作品例】『跪いて愛を問う』著:山田ノノノ/『歌舞伎町 バッドトリップ』著:汀えいじ/『鬼上司・獄寺さんは暴かれたい。』著:あらた六花

「前年の清く正しいほのぼの傾向から一転、コロナ流行の初年度で社会不安を反映したのかダークでコメディ要素のあまりない作品が上位に。邪な感情、異様な執着のある作品が受けました」■2021年は“究極ほのぼのキュンな年”

『ショタおに 1巻』中山幸(スクウェア・エニックス)

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【作品例】『ショタおに (1)』著:中山幸/『高良くんと天城くん』著:はなげのまい/『息できないのは君のせい』著:澄谷ゼニコ

「2021年とはまた打って変わり“エッチなし”“鬱なし”の作品が上位を締めました。全体的にダークな作品も入りましたが、前年の揺り戻しか清い感情を発散する作品が受けました」

2022年から2023年は愛が全てではない。令和の推しはクソデカ感情

次にくるBLを探るため、最後は2022年に話題になっているBL界の3つのトレンド(=BLアワード2023に入賞しそうな作品のトレンド)について触れていきます。次にくるBL部門3年分のトレンド傾向からポイントとして押さえたいひとつの要素は、井出さん曰く “抑えきれないクソデカ感情”とのこと。

クソデカ感情とはざっくりいうと非常に重い感情のことで、この恋愛とは言い切れない“クソデカ感情”を描いた作品が2023年に流行っていくと予想されます。【1】共依存な男同士の作品(ダークエモ)の流行

『心中するまで、待っててね。 上巻』市梨きみ(リブレ)

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『光が死んだ夏』や『心中するまで待っててね。』『カラーレシピ』『ネガ』など2022年にTikTokで話題になったこれらの作品はダークな作風で男同士の共依存な関係が描かれた作品です。恋愛ではなく、ネガティブに見られがちな共依存的関係、精神的な闇に共感してくれる若い世代に広がりました。『光が死んだ夏』はBLレーベル外で出版された作品ですが、BL読者からはBLと捉えられています。BL的要素を含みながらもダークホラーテイストに包んだことで一般層に広がっていき、普段BLを読まない人たちにもTikTokで話題になったこともあって非常に流行ったと考えられています。

『光が死んだ夏 1巻』モクモクれん(KADOKAWA)

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「“お前じゃないとダメ、他に変わりは絶対いない”と、恋愛というより執着しあう共依存的関係が描かれていくわけですが、この関係性にあるキャラクターたちにとって相手がいなくなることは自分の命の危機と同じくらいに切実な問題で、この傾向の作品はクソデカ感情作品といえます」【2】韓国BL (WEBTOON)の流行日本のBLとはかなり毛色が違う韓国BL(WEBTOON)が定着した2022年。韓国BLは『キリングストーキング』や『夜画帳』など、暴力もいとわない絶対君主的な攻めとそれを受け入れる不憫健気受け、という関係の作品が人気を得ました。

『キリング・ストーキング』クギ(フロンティアワークス)

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「日本の倫理観だと描けないような精神的・肉体的に酷な表現が多いことが特徴です。受け攻め2人の私的な関係をクローズアップする日本BLに比べて、界隈の登場人物が多く、群像劇、テレビドラマ的なストーリー展開があり、男同士の恋愛に必ずしも焦点をおいていません。日本BLならこうなる、という展開予想が裏切られることが多いのです」【3】ピュアな恋愛を描く、少女漫画的BL作品2021年に実写ドラマ化された『消えた初恋』のように、男同士の恋愛を扱った内容ながら、BLだと認識されない作品があります。非常にピュアな恋愛模様が展開されていく、恋愛成就をゴールとするといった作品は恋愛少女的BLとして捉えられるようです。

『消えた初恋』キュンキュンくじ(KADOKAWAプレスリリースより)

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「男性同士の恋愛を扱っていても、キャラクターが倫理的に正しい、品行方正であろうとする作品に対しては少女漫画を読むモードで鑑賞しているようです」一見、異なるように見えるこの3ジャンルですが、とくにZ世代はこの巨大感情を描いた作品群を一括りに「BL」と呼んでいるそう。「一般的に“愛”と呼ばれるような割り切れる感情ではない偏愛・執着といった概念に近い巨大感情(クソデカ感情)、そのネガティブともいえる感情をお互いに受け入れあう、というような関係性のBLを描くとおそらくヒットしていくのではないか、と思っています」結婚至上主義時代だった昭和、恋愛至上主義時代だった平成に続き、令和は“クソデカ感情至上主義”時代といえるのだそう。令和的価値観の新しいBLには、恋とは違う簡単に割り切れない感情があり、より多様性のある作品が描かれるように移り変わっていっているのです。

いにしえの時代を多少知る30代としては概念から揺さぶられ、流行の進みの速さに驚かされる昨今のBL事情。多様化が進むにつれ沢山の選択肢が増え、新たな推しジャンルに出会える可能性が増えるのかも? 今後もトレンドに注目していきたいところです。(執筆:イケダトモ)<参考>

・第13回BLアワード2022 商業BLの祭典

https://www.chil-chil.net/blAwardRank/y/2022/■BLジャンルは多種多様な時代に。ライト作品の増加は『おっさんずラブ』の影響大?

https://numan.tokyo/column/U5io1

■2022年のBL流行は王道甘々系と骨太系に真っ二つ!世代で異なる理由は“シェアしたい”

https://numan.tokyo/column/OXpzC

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