希少な剥製、標本で圧倒的存在感 津山の博物館、23年開館60年

開館60周年を迎える「つやま自然のふしぎ館」。世界の希少な動物の剥製などが来館者を魅了している=津山市山下

 津山市中心部にある民間自然科学博物館「つやま自然のふしぎ館」(同市山下)が2023年、開館60周年を迎える。世界の希少な動物剥製や昆虫標本など2万点超を展示し、市内のミュージアムでも存在感を放ってきた。観光客らを呼び込むにぎわい拠点として期待されているが、老朽化が進む施設や展示物の維持管理が今後の課題となっている。

 牙をむき、鋭い目つきでこちらを見つめるシベリアトラやインドライオン。巨大なホッキョクグマやミナミゾウアザラシは今にも動き出しそうな迫力だ。

 岡山県北有数の桜の名所、鶴山公園(津山城跡、同)入り口に立地。外部とは打って変わった別世界が来館者を圧倒する。カップルで初めて訪れた兵庫県姫路市、会社員(36)は「動物がリアル。珍しい剥製も多く、こんな博物館に来たのは初めて」と驚いた。

2万点以上公開

 ふしぎ館は、初代館長森本慶三(1875~1964年)が63年11月に津山科学教育博物館として開館した。慶三は呉服や両替、不動産といった事業を手がける豪商の跡取りとして期待されたが、大学在学中に内村鑑三に師事してキリスト教を信奉。伝道にもつながると図書館建設や高校開設に取り組み、自然への畏敬の念から博物館も開いた。

 館内は日本や北米、アジア、北極・南極などのエリアに分かれ、ほ乳類や鳥類、爬虫(はちゅう)類など剥製だけで約800点を展示。80年のワシントン条約発効前に集めたワニやオランウータン、現在は絶滅して目にできなくなったニホンカワウソも並ぶ。化石や鉱石、昆虫を含めて計2万点以上を公開している。

 近年の年間来館者数は約1万6千人。開館当初は同1万人程度だったが観光名所に近接する立地の良さもあり、微増傾向。市民向けに夜の館内を巡るナイトミュージアムや剥製の写真展なども積極的に開催して幅広い集客につなげている。

 慶三の孫に当たる森本信一館長(81)は「これまでの収集品が今となっては非常に貴重なものになっており、他の施設にない魅力になっている」と自信を見せる。

進む老朽化

 慶三が全国の学者や資料収集家らの協力を得て集めた数々の展示物が人気を集めるふしぎ館だが、開館から半世紀が過ぎ、一部の剥製は毛が抜け、色あせも目に付いてきた。

 建物も1958年ごろに建てられた旧津山基督教図書館高校舎を利用しており、雨漏りが見られる。段差解消や車いす用リフトの設置といったバリアフリー化も遅れ気味だ。

 折しも、鶴山公園南側一帯は現在、中心市街地活性化のため、市が多目的広場などを備えた広域交流拠点を構築中。ふしぎ館は鶴山公園などとともにエリアに集積する文化施設として、観光客や市民を中心部に呼び込む大きな役割が期待されている。

 森本館長は「剥製の修復やバリアフリー化を少しずつ進めていく。新たなまちづくりとの調和を図り、多くの人に親しまれる施設運営に尽力したい」と強調する。

 つやま自然のふしぎ館 公益財団法人津山社会教育文化財団(津山市山下)が鶴山公園前の「歴史民俗館」「森本慶三記念館」とともに運営する。木造3階約1500平方メートル。2万点超の展示物の中には、動植物だけでなく人体もよく知ってほしいとの慶三の遺志に沿い、ホルマリン漬けされた本人の脳や心臓、肝臓なども展示されている。

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