カタールW杯、森保ジャパンのベスト16は成功?ベスト8進出国と比較する「日本代表監督論」

アルゼンチン代表の優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップ2022カタール大会。リオネル・メッシが初めて優勝トロフィーを掲げる姿には感慨深いものがあった。

我らが日本代表も、優勝4度のドイツ代表と2010年の南アフリカ大会覇者のスペイン代表を撃破し、グループステージ(GS)を首位で通過。W杯優勝経験国を初めて倒し、史上初の2大会連続の決勝トーナメント進出を達成した。

大会終了後にはFIFAランキングも24位から20位へ上昇するなど、大きなインパクトを放った。一方、目標のベスト8進出を逃し、「新しい景色」を見ることはできなかった。

今回は賛否ある日本代表の森保一監督続投論について、4年間を通したチーム作りや戦術、ターンオーバーなどの采配面を、ベスト8進出国と比較しながら多岐に考察していく。

ベスト16は“ワールドリーグ”で考えると「1部残留」

日本は今回で7大会連続7回目のW杯出場で4度目の決勝T進出となったが、過去3度と同じくベスト8の壁に阻まれた。PK戦負けは2度目、残り2回も1点差負け。直近4大会で3度もベスト16に進出しながら、あと一歩届かない現状はもどかしい限りだ。

ただ、日本よりも格上のメキシコ代表は前回大会まで7大会連続ベスト16が続いた。1970年と1986年の2大会でベスト8に進出したメキシコだが、出場枠が32カ国になった1998年大会以降では1度もない。「ベスト8の壁」が大きいことは、日本以上にメキシコが証明している。

日本は1-1の延長PK戦(1-3)で敗れた今回のクロアチア代表戦がW杯通算25試合目だった。「PK戦」を「引き分け」とカウントした通算成績は7勝6分12敗。「勝点」換算すると、25試合で27ポイント。3度ベスト16に進出している直近4大会でも15戦5勝4分6敗の勝点19。そこまで大きな差はない。

30試合制の“ワールドリーグ”があったとすると、この成績はトップリーグ残留争い中、と置き換えるのが妥当な立ち位置だ。各国リーグで1試合平均1ポイントをギリギリ超えているチームはおおよそ残留できている。日本は世界トップのコンペティションで戦える戦績は残しているのだ。

17大会に出場しているメキシコも通算60試合で17勝15分28敗。決勝T進出経験が9回あるが、勝点換算では66ポイントだ。

しかし、トップリーグ参戦7シーズン目だったと仮定すると、まだ残留争いをしている現状はいかがなものか?と考えるのも無理はない。ベスト16は成功でも失敗でもないのだ。

ベスト8進出国で比較する「ターンオーバー」の是々非々

今大会は欧州サッカーのシーズン中に開催される異例の大会で、なおかつスケジュールも過密さが増していた。それに伴い、ベスト8進出を考えるならばGSで先発メンバーを入れ替えて疲労蓄積を回避する「ターンオーバー」の必要性が各メディアで展開された。

日本の森保監督も中3日で挑んだ今大会の第2戦、初戦でドイツ相手に大金星を奪った先発メンバーを5人入れ替えた。

その結果、コスタリカ代表の堅守を崩せずに0-1と完封負けを喫した采配が、「FIFAランクで10個下回る格下相手に主力を投入し、2連勝で決勝T進出を決めるべきだった」など、疑問と波紋を呼んだ。W杯出場を勝ちとったアジア最終予選において、「固定メンバー」を批判されていたにも関わらずだ。

そこで、ベスト8進出国の先発メンバー変更人数の推移を集計した。

注目すべきは開幕2連勝したのがフランス代表とブラジル代表、ポルトガル代表の3チームのみだったことだ。彼らは3戦目で大幅にターンオーバーを採用して敗れ、今大会は1994年のアメリカ大会以降、7大会ぶりにGS3連勝のチームがなかった。

それでも、この3カ国は全てGSを首位通過。無事にベスト8へも進出したが、ブラジルとポルトガルはそこで伏兵の前に力尽きた。逆に彼らを下してベスト4へ進出したクロアチアとモロッコ代表は準決勝まで先発を2人以上入れ替えることはなかった。

よって、ターンオーバーに成功したのはフランスだけと捉えるべきだろう。日本は大会前から怪我人が続出したこともあり、必要に迫られて採用したに過ぎない。

世界王者アルゼンチンと比較!「再現性」は代表戦に必要なし

優勝したアルゼンチンのリオネル・スカロー二監督はGS第2戦のメキシコ戦で先発5人の入れ替えを敢行したが、これは初戦でFIFAランク51位だったサウジアラビア代表に敗れた結果を受けて採った策で、ターンオーバーではない。

第3戦のポーランド代表戦で、大会4得点を挙げることになるFWフリアン・アルバレスと、若き攻守の要MFエンソ・フェルナンデスを初先発に抜擢するなど、GSを通してチームの最適解を模索しながら戦っていたのだ。

つまり、今大会のアルゼンチンの優勝とスカロー二監督の采配にこれといった継続性はない。そもそもスカロー二監督は2018年の8月に「暫定監督」に就任して以降、1年3カ月もの長期間に渡って「暫定」の肩書がとれず、アルゼンチン協会が当初から指揮を任せたかった人物ではなかった。

しかし、期待されていなかった“もうひとりのリオネル”は2021年夏にコパ・アメリカを制し、母国を28年ぶりの南米王者へ導くなど36戦無敗を記録。2006年のドイツW杯でチームメイトだったメッシからの信頼も獲得し、カタールW杯を制して36年ぶりの世界制覇を実現したのだ。

日本で森保監督を批判する大きな要因のひとつに、「再現性がない」との指摘がある。カタールW杯本大会に、これまでの4年以上の在任期間でほとんど採用して来なかった3バックで臨んだのは、「戦術的な積み上げがなく、毎回試合ごとにリセットされている」と批判を受けても仕方がない。

しかし、ドイツを撃破してもそう批評されたサッカーは1週間後、スペイン相手に“再現”された。森保監督は再現すべきゲームモデルは設定しなかったが、招集した選手個々にプレー原則とその優先順位だけは示し続けていた。それが選手層の拡充と交代枠5人制を最大限活かせるメリットに繋がったのは事実だ。

これまでは急なシステム変更に対応できなかったが、それが可能となったのは選手間や監督との信頼関係の構築こそが4年間の大きな積み上げとなって現れたと見るべきだろう。

そもそも代表戦に「再現性」は求める必要がない。年間通して集まる機会が5、6回で期間も短く、メンバーも少しずつ変わっている。

何よりもW杯では、欧州や南米、アフリカ、中南米など試合ごとに人種が全く異なるチームと対戦する。特に今大会のスペイン戦では局面の1対1でのデュエルで日本が上回っていたが、それをカメルーン代表などアフリカ勢と対戦した場合にも再現する戦略を立てれば、逆に指導力を疑うべきだ。

戦術的に欧州をリードした「ミシャ式」、Jリーグの可能性

「森保は無能、何もわかっていない」と酷評されるのが選手起用も含めた戦術面だ。

しかし、森保監督が率いたサンフレッチェ広島は2012年から2015年までの4年間で3度のJ1制覇を達成する常勝チームだったことだけでなく、欧州に先駆けて現代サッカーのトレンドである可変システムも採用し、戦術的に優れていた。

それを植え付けたのは、2006年の途中から2011年まで広島を指揮したミハイロ・ペトロヴィッチ監督なのは間違いない。そのJリーグ発の独自の戦術「ミシャ式」はペトロヴィッチ監督が広島を退任後に指揮した浦和レッズと、現在も指揮をとる北海道コンサドーレ札幌へも移植された。

森保監督は広島でペトロヴィッチ監督をコーチとしてサポートし、監督就任後も可変システムを始めとする独特の戦術を踏襲していた。そして、ミシャ式に現在の日本代表でも基本コンセプトとする「良い守備から良い攻撃」を浸透させ、J1の予算規模では中位のクラブを3度の日本一へと導いたのだ。

デフォルトのフォーメーションは[3-4-2-1]ながら、攻撃時は[4-3-3]に近い[2-3-5]の布陣で5レーンを支配し、守備時には「5-4-1」の人海戦術で5レーンを封鎖するのは現代サッカーのベースに則している。

攻撃時にボランチが最終ラインに下がる理由は、ビルドアップできるCBを2枚揃えたいからで、日本代表でそこだけ採用していないのは、CBに冨安健洋や板倉滉、吉田麻也、谷口彰悟などボランチ経験があるビルドアップに長けた選手が揃っていたからだ。

「ミシャ式」は広島がJ2で戦っていた2008年に完成した。当時の欧州ではアンカーが最終ラインに落ちる「サリーダ・ラボルピアーナ」などのグループ戦術が散見されていたが、チーム戦術としての可変システムが一般化したのは、レアル・マドリーがUEFAチャンピオンズリーグ決勝やバルセロナとのクラシコで採用し始めた2014年頃だった。

ミシャ式は欧州に5年以上も先駆けてJリーグに誕生していたのだ。

日本代表のさらなる躍進のためにもJリーグの発展は欠かせない。ミシャ式のような世界をリードする戦術が生まれ、世界中のクラブが有力選手を引き抜きに来るリーグだ。

アーセナルのDF冨安、フランスフルトのMF鎌田大地、フライブルクのMF堂安律らは欧州で育てられたわけではない。Jリーグでプレーしていた選手たちだ。

冨安に限っては所属当時のアビスパ福岡がJ2在籍期間が長く、J1では10試合の出場のみだった。「J2リーガー」から「プレミアリーガー」が誕生するJリーグを、2023年、もっと多くの日本人に観てもらいたい。

歴代W杯優勝監督に続き、ベスト8進出国全てが自国人監督

カタール大会はW杯史上22回目の大会で、これまで8カ国が世界王者に輝いてきた。その優勝チームを指揮した監督はすべて自国出身であるのは有名な話だが、今大会ではベスト8に進出した8カ国すべてが自国人監督だった。

コロナ禍にあって制限があった中、通訳が必要な外国人監督はチーム作りをするうえで今まで以上に時間がかかり過ぎる。また、監督専任のコーチや家族の世話役など、コストとマンパワーが2倍増しに必要だ。今後も少ないながらもコロナの制限はある以上、日本もこの流れに沿うべきだと考える。

もし、外国人監督を採用するのであれば、すでに日本人を理解し、日本サッカーを今もアップデートさせている札幌のペトロヴィッチ監督か、広島のミヒャエル・スキッベ監督の2人を挙げたい。

サッカー界の監督やチームのサイクルは3、4年と言われているが、それはクラブサッカーシーンの話だ。前回王者で今大会も準優勝に導いたフランス代表のティディエ・デシャン監督は2012年から母国の指揮を執っている。

2017年からクロアチアを率いるズラトコ・ダリッチ監督も森保監督のように国内メディアから無能呼ばわりされながらも、前回は準優勝、今大会でも3位に導いている。

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日本代表にも長期政権を築く監督がそろそろ必要なのではないか?目標のベスト8進出は叶わずとも、ベスト8への再挑戦の権利は、森保監督が獲得したと見るべきだ。

「サッカーは文化を映す鏡」だ。日本を、日本人を理解している指揮官が相応しい。

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