福井県出身「クズ芸人」岡野陽一の頭の中 パチンコ、借金…「芸人なんてギャンブルみたいなもん」

定番のパチンコを打つポーズをする岡野陽一。その視線の先にあるのは、お笑い界の未来か、それともパチンコ台か=東京都内
瓶ビールを飲みながら語る岡野陽一=東京都内

 福井県敦賀市出身のピン芸人、岡野陽一(41)。パチンコ、競馬、借金にまつわる想像を絶する体験談や失敗談をメディアで披露し爆笑をさらう。近年、新たに定着したジャンル「クズ芸人」の代表格だ。「パチンコで人生を学んだ」と豪語する岡野陽一とは、一体どんな芸人なのか。

 「俺、何にも考えてないっすよ。芸人なんてギャンブルみたいなもんだから」

 愛嬌のある風体で、ひょうひょうとけむに巻く。大好きだという瓶ビールがあれば本心が見えるかもしれない。サラリーマンでごった返す東京都内の居酒屋に岡野を誘った。「瓶ビールうまいっすね。なんでも聞いてください。福井新聞に載ると敦賀の両親も喜ぶんで」

 インタビューの出だしは上々だ。

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 ――パチンコへの異常なまでの愛に加え、競馬などのギャンブルも大好き。当然のようにそこに借金の話が絡んでくる。語られるエピソードはどれも型破りで度肝を抜かれる。

 敦賀での子どものころ、ダウンタウンさんを見てお金いっぱいもらえて楽しそうだし芸人になろう、って思いました。パチンコは高校卒業してから大学入学までの間に、当時の彼女に連れていってもらったのが最初。入学後パチンコにはまり、4年間で単位ゼロ。それで中退することに。

 ――コント日本一を決めるキングオブコントでは昨年、即席ユニット「最高の人間」で、個人としては3回目の決勝進出。狂気じみたおじさんを演じ、強烈なインパクトを残した。

 大学中退後、敦賀に戻るんですが「芸人として忙しくなる前に」とパチンコに没頭。(パチンコ代を稼ぐための)日雇い仕事で、癖の強いおじさんたちに出会いました。もらいたばこを繰り返すおじさんとか、「俺、東京出禁なんだ」っていう人もいました。理由は怖くて聞けない(笑)。その人の目は艶のない碁石の黒。いろんな経験をすると輝きが減るんでしょうね。

 その達観というか、人生ってそんなもん、っていう感じが好きで。いい服を着て、女の子にモテるというそれまでの価値観が変わった。そのおじさんは、服を“ただの布”としか思っていない。かっこいいな、と。憧れますが、そうはなりたくない(笑)。

 【インタビューを始めて小一時間。瓶ビールが勢いよく空になっていく。もうパチンコの話なのか、芸人の話なのか、人生の話なのか、よく分からなくなってきた】

 パチンコ屋で理不尽さを学んだ。僕は朝5時から並んで負けて、夕方から来たおじさんが勝つ。努力が実らない。いくら打っても当たらない「ハマり」という時間がある。仕事がない時期は、この「ハマり」の状態。でも、いつかは当たる。運だけど、それはパチンコのハンドルを離さなかったから、あきらめなかったから起きる現象。(逆に)ずっと当たり続けることもないですけどね。

 「努力は必ず報われる」というが芸人はそんな訳ない。面白くても売れずに辞める人もいる。芸人は恐ろしい仕事。というか楽しい“趣味”ですね。(パチンコでも人生でも)ハマったときは、休憩する。別の台に移動してもいい。台に縛られる必要はない。台を移動する権利は平等に誰にでもある、と強く言いたい。

 …大丈夫ですかこんな感じで。本当にこのインタビュー、福井新聞に載せてくれるんですか?

 ――一緒にパチンコ番組に出演するお笑いコンビ「空気階段」の鈴木もぐら、事務所後輩で「ザ・マミィ」の酒井貴士らとともに「クズ芸人」として近年、スポットが当たっている。

 芸人はみんな面白い。どこにスポットが当たるかは運。自分自身は何も変わっていない。クズ芸人にスポットが1回当たっただけでも運がある。そこから「クズ」を抜いても面白かったら残るし、面白くなかったら消えるだけ。

 【「今後の目標は?」と問いかけても「ない」とはぐらかしていた岡野。2時間飲み続けて酔いが回ってきたのか、ついに本音を語り出す―】

 目標を定めるなんてよくないですよ。絶対勝つぞ、って行って、負けた時ほどきついものはない。だからいつも家を出る時は、悪いことを考える。外出先でアキレス腱が切れると思ってるし、切れなかったらうれしい。そういうこと…。

 【インタビュー開始から3時間。グダグダになってきたので、この質問で締めますか】

 ――あなたにとって「お笑い」とは?

 街で怒鳴られても、パチンコで大負けしても笑い話になる。ウケたら勝ち。お笑いの世界でねたみ、つらみはない。面白いやつが全ての実力社会。でもウケないと終わり。すぐ売れるやつもいるし、ずっと売れないやつもいるこの世界で、僕は趣味で面白いことを本気でやっている。当たったらいいなって、その“台”を打てるのが楽しいんすよ。

 ――長時間ありがとうございました。もう一軒行きますか? 仕事抜きで

 いいっすね。じゃあちょっとだけ(笑)。

 ◇おかの・よういち 福井県立敦賀高校卒、京都産業大学中退。2008年に人力舎のお笑い芸人養成所「スクールJCA」に入り、コンビ「巨匠」を結成。14、15年にコント日本一を競うキングオブコント決勝進出。16年にコンビ解散後、ピン芸人として活躍。ひとり芸日本一を決めるR-1ぐらんぷり2019の決勝に進出。22年のキングオブコントでは即席ユニット「最高の人間」で決勝進出。41歳。

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