「スタートアップ」長崎県が後押し 若い発想×新技術 企業や大学も起業家支援

VRやメタバースを活用した不登校支援の構想について語る山下さん=長崎市内

 長崎県内で革新的なビジネスを創出し地域経済の活性化につなげようと、スタートアップ(新興企業)支援の機運が高まっている。県は2023年度、新たに重点施策の一つに「みんながチャレンジできる環境づくり」を掲げて注力。若い世代の発想と新技術を掛け合わせて社会課題の解決を図る動きを、企業や大学などと連携し後押しする。

 スタートアップはこれまでにない新サービスを生み出し、急成長が求められる。県によると、21年度に県の支援を受けて起業したスタートアップは5件。県総合計画(21~25年度)では各年度3件、計15件を目標に掲げる。
 県は具体的な支援策として、優れたアイデアに対する補助(100万円)や助言、交流拠点の提供などをしている。若手起業家を投資家に引き合わせるマッチングイベントも企画。新年度はこうした事業化に踏み込む段階の支援に力を入れる。22年度のスタートアップ関連予算は8790万円。23年度も同規模を見込む。
 昨年11月、長崎市内で開いたマッチングイベントでは、佐世保高専3年の山下立仁(りひと)さん(18)が同級生2人と考えたアイデアを発表した。
 山下さんが事業化に挑むのは、高専生が指導・運営する中学生向けオンライン塾。県の補助を受け3月開始を目指し、準備を進めている。さらに、仮想現実(VR)やインターネット上の仮想空間「メタバース」も組み合わせた不登校支援「マナバース」(仮称)を構想する。メタバース内で分身のアバターを使えば、人付き合いが苦手な人も抵抗感が軽減される。カウンセラーや各分野の“プロ”との連携も想定し「学習とメンタルの両面を支援できる」と自信を見せる。
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 スタートアップ支援に向けては、長崎大が、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)と連携した起業家育成プログラムを実施。長崎市や佐世保市も金融機関の協力を得てビジネスコンテストを開催している。県教委は、高校生の起業家精神を育むゼミを展開している。
 「数年前から大学や高校で“種”をまき、ようやく“芽”が出る土壌ができつつある」。FFG傘下の十八親和銀行(長崎市)の艶島博・地域振興部長はこう現状を分析し、「100万円の補助など(他自治体より)長崎県の支援は手厚い。官民一体となった応援態勢が強み」だと言う。その上で「資金調達や実証実験の場の提供など応援してくれる人をもっと増やすのが大事」としてマッチングに力を入れる必要性を説く。

動画やイラストを使って被介護者の情報を入力する職員=長崎市江川町、ケアハウス「リエゾン長崎」

 成長しつつあるスタートアップもある。Liais on(リエゾン) Design(デザイン)(長崎市)は介護施設向けシステムを開発。情報通信技術(ICT)を活用し、被介護者情報を動画やイラストなどで「見える化」し、職員間の情報共有を円滑にする。昨年4月に発売し、年末までに全国約30事業所に導入した。今後、プロモーションを強化し、27年度までに導入先を3千事業所に、売上高を10億円規模に広げたい考えだ。
 同社の川副巧成代表取締役はグループ会社のケアハウスで理学療法士としても働く。このシステムで職員の負担を軽減し作業効率が向上、離職率が下がったという。「介護事務はまだ紙が中心で、ありそうでなかったシステムだった。人材の育成や定着は全国共通の課題。(増加する)外国人労働者の育成にも活用できる」と可能性を強調する。
 県新産業創造課の香月康夫課長は「積極的に挑戦できる環境を官民でつくり、『長崎発』のビジネスが多く生まれることを期待したい」と話す。


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