安室奈美恵が扉を開けた「Don't wanna cry」新年のスタートにふさわしい1曲  アムラーが知る安室ちゃんの魅力

2022年、デビューから30周年を迎えた安室奈美恵

皆さん、あけましておめでとうございます。お正月はいかがお過ごしでしょうか。新しい年の幕開けにふさわしい1曲として、今回ピックアップしたのは安室奈美恵の「Don't wanna cry」です。“さあ、ドアあけなくっちゃ 動けなくなるよ” という、新しい世界へ背中を押してくれる前向きなメッセージは、まさに新年にぴったり。同時にこの曲は、安室奈美恵の音楽人生を語る時、とても重要なターニングポイントに位置する楽曲でもある。

安室奈美恵が、私たちの前から姿を消して4年以上が経った。ずっとコンサートを見てきた身からすると、安室ちゃんのコンサートは自分の年間スケジュールに組み込まれたひとつのルーティーンであり、未だ寂しさから途方に暮れているアムラーは多い。引退直前にアムロスと呼ばれた現象も、私たちアムラーにとっては現在進行形だ。

そんな中、2022年9月16日に安室奈美恵はデビュー30周年を迎えた。引退したのだからカウントするのもおかしなことかもしれない。けれど、私たちの思いは海よりも深く、その愛はどこまでも大きい。

レコード大賞受賞、小室哲哉が生み出した名曲「Don't wanna cry」

安室奈美恵名義としては、5枚目のシングルとなる「Don't wanna cry」。プロデューサー・小室哲哉と2人でミーティングをした時に安室ちゃんから飛び出した「次はミディアムテンポのブラックミュージックを歌いたい」という言葉を受けて、小室哲哉が生み出した名曲だ。ジャネット・ジャクソンに憧れる19歳の安室ちゃんにとって、ブラックミュージックは自身の音楽ルーツでもある。

1995年「TRY ME 〜私を信じて〜」に始まり、「Body Feels EXIT」、「Chase the Chance」とキレッキレのダンスを披露したアップチューン路線で飛ばしまくるという手もあったはずだ。けれど、安室ちゃんはその路線とは一線を画したミディアムテンポの曲を望んだ。そしてその選択に間違いはなかった。「第38回日本レコード大賞」で大賞を受賞。19歳という若さでの受賞は、当時の史上最年少記録でもあった。そういう意味では、安室ちゃん自身もまたこの若さにして、非常にプロデュース能力に長けた人ではなかったかと思う。

そして、2001年にリリースした「Say the word」から、小室プロデュースを離れ、セルフプロデュースをスタート。初めのうちこそ手探りで、さまざまな葛藤もあったようだが、セルフプロデュース期の楽曲たちを見ると、すべてが一歩も二歩も時代の先を行くものであり、もともとプロデューサーとしての視点を備えていたこともうなづける。

話を「Don't wanna cry」に戻したい。この曲の素晴らしさは、なんといっても、ジャパニーズヒップポップとブラックミュージックとの絶妙なバランスにあると思う。ブラックミュージックのリズムと、耳に残るポップでキャッチーなメロディーは、まさに “日本流ブラックミュージック” ともいえる。そしてこの曲について「曲作りはとてもスムーズだった」と言ってのける小室哲哉のすごさにも驚かされる。

歌詞は小室哲哉と前田たかひろによる共作だが、十代の女の子の鬱屈とした日々と、思いに対して、「ドアを開けて、皆でいこうよ」と歌う安室ちゃんが力強い。恐れを知らず向こう見ず。そんなピュアで力強い歌声がナチュラルでとてもカッコイイ。そう、安室奈美恵は私たち女性に、「女の子だってカッコよくていいんだよ」ということを教えてくれた人でもあった。

けっして世の中に媚びることはなかった安室奈美恵

この曲のミュージックビデオのメークやファッションがそれを物語っている。アーミーな帽子にニット、ダボッとしたパンツスタイル。バーカウンターで黒人女性たちとリズムを取る安室ちゃん。そのたびに耳元で大きなループピアスが揺れる。そんな強めのクールファッションに身を包みながら、「これが歌いたかったの」といわんばかりの安室ちゃんの楽しげな笑顔がまたイイ。とっても “カッコ可愛いい” のだ。まだ女性の形容詞といえば “可愛い” が当たり前、男性は “カッコイイ” が褒め言葉とされた時代にあって、 “女の子だって格好良くてイイ” ということを、まさにこの曲の安室ちゃんが私達に教えてくれた。

それまでの赤みのあるリップを取り去り、敬遠されがちだった顔色悪く見えちゃうベージュのリップを恐れずチョイス。男子ウケなんて関係なしと言わんばかりにブラックミュージックのスタイルをメークでも貫いた。続く「You're my sunshine」、「SWEET 19 BLUES」、「a walk in the park」でも安室ちゃんはこの路線を崩さず、その後もけっして世の中に媚びることはなかった。私たちアムラーは知っている。安室奈美恵の魅力は、こうした自分が信じた道を突き進んでいく芯の強さと、目標へ向かって努力を重ねるストイックな姿だということを。

この曲は、彼女が自分の歩きたい方向へ大きな一歩を踏み出すきっかけとなった曲であり、安室奈美恵というひとりの女の子が、アーティスト・安室奈美恵として本格的に音楽の扉を開くきっかけとなった大きな1曲であることに間違いないだろう。

―― さて今年は一体どんな1年が待っているのだろうか。歳を重ねれば重ねるほど、新しい扉を開くにはパワーが必要になっていく。けれどそんな私たちに「Don't wanna cry」の歌詞が問いかけてくる。

「本当にそれでいいの? 後悔しない?」

―― と。私はいつだって、いくつになっても、繰り返される歌詞のように、こう言える自分でありたい。

I've gotta find a way,so let me go
(私は自分の道を見つけなければならないの。だから行かせて)

Because baby I don'twanna cry
(だって後になって泣きたくないから)

カタリベ: 村上あやの

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