【特別寄稿】パチンコ産業の歴史⑩ 国家公安委員会規則の改正と「新要件機」の登場(WEB版)/鈴木政博

創刊60周年記念にあたり、業界の歴史を振り返る意味に おいて「パチンコ産業の歴史シリーズ」を再掲載しています。 ※この原稿は2011年2月号に掲載していた「パチンコ産業の 歴史⑩」を一部加筆・修正したものです。

1. 国家公安委員会規則の改正
1,300発規制が行われて以降、1980年代後半になると「一発台」と「おまけチャッカー付きデジパチ」の大ヒット機種が続々と登場していた。そんな中80年代終盤になると、近く規則改正が行われるとの推測が出てきた。念のため再度説明を加えると「一発台」とは、「本来は平台である遊技機であり、非常に入賞しにくいチャッカーに入賞すれば特定チューリップが開き、開放後は本来ならチューリップに玉が入れば終わりのハズのものを“チューリップが閉じることのないような釘調整”を施すことにより、チューリップの先端に弾かれた玉が、今までは入賞しづらかった別の入賞口に容易に入賞する」仕組みだ。結果として、店側が「打ち止め」として強制的にチューリップを閉じるまで玉が出続ける。また「おまけチャッカー」も同じで、「デジパチが大当たりしたらアタッカーが開くが、このアタッカー内に入賞するだけでなく、アタッカーの先端に弾かれた玉が別のチャッカーにも入賞しやすくなる」ことにより、10ラウンド10カウントで賞球13個であれば本来1,300個が上限となるはずの出玉を、3,000個以上まで持っていくものだった。

こうした「本来の出玉性能とは違う現状」が問題視され、1990年8月30日に国家公安委員会規則「遊技機の認定及び型式の検定に関する規則」が改正され公布、同10月1日に施行される。ここで新たな条文が追加されたことにより、本来の入賞口以外への入賞が容易になるゲージ構成が禁止され、今までのような「一発台」や「おまけチャッカー」は姿を消すこととなった。ただしパチンコに関しては、規制強化ばかりではなかった。規則に沿った内容であれば、現状の出玉感を一定程度は保てるよう規制緩和も同時に行われた。詳細は以下の通りだ。

1990年10月1日施行「遊技機の認定及び型式の検定に関する規則」改正部分の抜粋

(一発台および、おまけチャッカー禁止部分)
別表第3の1
《ハ》役物が作動した場合に当該役物の作動によりその入口が開き、又は拡大した入賞口以外の入賞口への遊技球の入賞が容易になるものでないこと
別表3の2
《へ》遊技球を入賞させることができない入賞口を有しないものであること

(出玉の緩和部分)
別表第2の1
「ロ」《イ》一個の遊技球が入賞口に入賞した場合に、十五個を超える数の遊技球を獲得することができるものでないこと
「チ」《ロ》役物連続作動装置の一回の作動により第一種特別電動役物又は第二種特別電動役物が連続して作動する回数は、十六回を超えるものでないこと
別表第3の1
「ロ」《イ》一個の遊技球が入賞口に入賞した場合に、十五個を超える数の遊技球を獲得することができるものでないこと
「ト」《ロ》第三種特別電動役物の一回の作動による大入賞口の入口の開放等の時間は、十秒間を超えるものでないこととし、また、当該大入賞口の入口の開放等は、おおむね十個の遊技球の入賞により終了するものであること
「ト」《ハ》特別装置は、その作動中に遊技球が特別装置作動領域を通過したとき、又は第三種始動口に十六個を超えない数のうちあらかじめ定められた数の遊技球が入賞したときは、その作動を終了するものであること

2. 規則改正の主な内容
1990年の規則改正について、主なポイントを抜粋した。まずは「おまけチャッカー」「一発台」を禁止する部分。「入口が開き、又は拡大した入賞口以外への入賞口への遊技球の入賞が容易になるものでないこと」として、アタッカーやチューリップが開放した状態で、他のチャッカーへの入賞が容易になるものを禁止。これにより、「オマケチャッカー」を禁ずると同時に「一発台」も大当たり中に玉を増やせるゲージ構成ができなくなった。また「一発台」に関しては「遊技球を入賞させることができない入賞口を有しないものであること」として、「閉じないチューリップ」にしやすいゲージも禁止。事実上、両者は以降の開発が不可能となった。
ただし、規則を正しく守った範囲内であればということで、出玉性能に関しては緩和されている。まずは第1種(デジパチ)。改正前は「10ラウンド・10カウント・賞球13個」までであり、最大1,300個が大当たり出玉の上限であった。この規則改正で「16ラウンド・10カウント・賞球15個」となり、最大2,400個までの出玉が可能となった。実際には「おまけチャッカー」により4,000個を超える出玉もある遊技機が市場に出回っていたのだから「緩和」と呼べるかどうかはともかく、これで規則上、問題のないものとして「2,400個」までは出玉を獲得できるようになった。

「新要件機」第1号機となった「フィーバースパークGP」(SANKYO製)

また第2種(ハネモノ)に関しても第1種と同じ内容となる。改正前は「8ラウンド・10カウント・賞球13個」だったのが、同じく「16ラウンド・10カウント・賞球15個」となった。ただし、ハネモノの場合は「初回のV入賞」が1ラウンド目にカウントされるため、実質出玉では「8ラウンドから15ラウンドへ緩和」された事となる。ハネモノの場合はハネがフルオープンになるわけではないので第1種より若干獲得出玉は劣るが、それでも一度の大当たりで最大2,000個に迫る出玉を獲得できることとなった。ただし、やはり「ハネモノで1,500個以上」というのは、ハネモノ特有の「遊べる遊技機」からかけ離れすぎたためか、序盤に多数の16ラウンド機が登場したものの思ったよりも市場受けせず、最終的にはハネモノは800個程度の機械に回帰していくこととなる。

「新要件機」 になりハネモノの出玉が大きく増加した「ニューモンロー」(ソフィア・西陣製)

また第3種に関しても、上記と同じく「16ラウンド・10カウント・賞球15個」となり、最大の3回権利物 (3回セット)であれば、6,000個以上の出玉獲得が可能となる内容だった。ここで当時の権利物の仕様を簡単に説明すると、「権利発生Vゾーンに入賞すると権利が発生」し、「権利発生中に、特定チャッカーに入賞するとアタッカーが開放する」という仕組みだった。そして3回権利物であれば「2回目、3回目は権利獲得が容易になる」というものだ。ただしこの改正で「権利発生中に特定チャッカーに16個目が入賞したら、その時点で終了すること」となった。改正前までは、例えば最高8ラウンドの権利物の場合、アタッカーが5回目を開放しているときに特定チャッカーに6個目、7個目、8個目が連続入賞したとすれば、この場合は8回目のアタッカー開放まで行ってから権利終了という仕様だった。ただしこの規則改正により、例えば最高16ラウンドの権利物の場合で、アタッカーが10回目の開放を行っているときであっても、特定チャッカーに16個目まで玉が連続入賞してしまうと、そのアタッカー開放を最後として権利消滅してしまうこととなった。「権利発生中は、なるべくスムーズに特定チャッカーに入賞させて、連続でアタッカーを開放させたい」一方、「連続で特定チャッカーに入賞しすぎると、16回開放までいかずに途中で権利消滅してしまう」というジレンマのあるゲーム性になってしまったのだ。

この第3種のジレンマについては、 改正後に発表された数機種はその様なゲーム性がストレスを感じるもので、やはりファンには不評だった。しかしこの難点は、ある画期的な発明により解消されることとなる。三洋物産製「ニューヨーク」の登場だ。この機種は特定チャッカーに「回転体」を用いて、アタッカーが閉じる瞬間まで連続入賞しないよう工夫。以降、他社も同じ構造を追従し、権利物には「回転体チャッカー」が搭載されるのが常識となる。

権利モノのジレンマを解消する画期的な発明「回転体」を搭載し大ヒットした「ニューヨーク」(三洋物産製)

さて、パチンコは以上のような改正が行われた。「実質デジパチ16ラウンド・ハネモノ15ラウンド」というのは2017年まで27年以上に渡り続いた。そして後に2018年2月1日の規則改正で再度最大10ラウンドと新たに規制強化されたのはご承知の通りだ。当時、この規則改正は世間へのインパクトも非常に強く、かなり画期的なものであった。ただし当時、さらなる問題点があった。「パチンコの連チャン機」と「パチスロ機」である。1990年の規則改正以降、この2つの問題が大きく表面化していくこととなる。

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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