水族館のアシカは1頭いくら?意外と知らない自治体が保有する資産

家計も会社もお金の流れを見える化し、使い道を検証することが大切ですが、それは地方財政も同様です。自分たちが納めた税金がどのように使われているか、意識している方は少ないのではないでしょうか?

そこで、地方財政コンサルタント・野崎敏彦 氏の著書『水族館のアシカはいくらで買える?』(合同フォレスト)より、一部を抜粋・編集して地方財政の疑問について解説します。


【現状】アシカから競艇場まで─自治体が保有するさまざまな資産

突然ですが、読者の皆さんは、公立の水族館で飼育されているアシカの購入価格はいくらぐらいか、ご存じでしょうか?

筆者は、愛知県蒲郡市の財政業務支援の仕事をしている時(2006年ごろ)、同市が運営する竹島水族館の資産管理に携わりました。市役所の所管課の資料を見ると、水族館のアシカの購入価額が記載されていました。当時、竹島水族館では、アイちゃん、シーちゃん、ナナちゃんという名のアシカを3頭飼育しており、その額は、何と1頭200万円でした。

アシカも、市が保有する立派な資産(固定資産)です。会計上、耐用年数8年で減価償却され、飼育中に死亡すると「固定資産除却損」という、血も涙もない勘定科目で会計処理されます。

自治体が管理・運営する動物園のライオンやキリンもアシカと同じく、その自治体の資産なのです。

余談ですが、蒲郡市は競艇事業も管理・運営しており、年間売上日本一(全国には24の競艇場がある)を達成することもあります。ここで使用される競艇用のボートも市の保有です。ただし、競艇用のボートは、レースによる摩耗が激しく、耐用年数は1年に満たないため、会計上、資産としては扱われず、費用として処理されます。

自治体は、土地や建物、道路や水道などのほかに、動物や植物といった意外な資産を保有・管理しています。それら以外にも、資産には次のようなものがあります。

・美術品、工芸品、モニュメント
・緞帳(どんちょう=小・中学校の講堂や公会堂の舞台などにある厚手の大きな幕)
・樹木
・街路灯、常夜燈
・ゆるキャラのかぶりもの
・公園の案内板
・道路のガードレール、カーブミラー、融雪装置
・温泉権

―など

【問題点】まちのお金が足りません!

住民の生活様式やニーズの多様化が進み、自治体が保有する資産が徐々に増えてきました。これらの資産を維持・管理するためにはかなりの資金が必要ですが、日々の報道が伝えるとおり、現在、自治体の財政難が大きな問題となっています。

自治体の財政運営は、1980年代(昭和55年以降)から、いわゆるバブル経済のピークを迎えるころまでは比較的安定していました。ところが、1990年代以降の長引く景気低迷の影響を受け、徐々に疲弊してきています。

自治体は、国が実施する政策を追従するかたちで、その対応策(景気対策)としての公共事業(道路工事など)を毎年追加しています。これにより、近年、非常に厳しい財政運営が続いているのです。

これまで公共事業の多くは、地方債の発行により、資金を調達してきました。バブル経済崩壊(1992年)以降、地方債の増発が顕著となっています。地方債残高を見ると、バブル経済崩壊直後では全国で70兆円未満であったものが、現在では146兆円と、倍に達しています。

このような財政難の中でも、自治体は、住民生活の安心・安全のためにさまざまな資産を今後も適切に管理していかなければなりません。そんな中、新しい考え方が注目されるようになりました。「新しい公共(新たな公)」という考え方です。次に、この「新しい公共」について説明します。

【解決策】「新しい公共」では住民や企業、NPOが主役

新しい公共とは、「公共心を持って、社会で必要とされるサービスを提供する活動や活動主体」を指します。

これは、平成20年代の初頭に国(内閣府)から発信された声明です。そこには、行政だけでは公共サービスに限界があるため、住民、企業やNPOなどの団体が公共サービスの受け手にとどまるのではなく、活動主体となり、それぞれができる役割を担い、まちづくりの主役になってほしいという期待が込められています。同時に、活動に参加する人々が、住民のために役立っているという充実感、満足感を得ることも目指しています。

これまでも、民間のさまざまな活動主体が、地域の清掃や独居老人の見守りなどのあらゆる分野において、公共的な仕事を担ってきました。国や自治体がやっていることだけを「公共」と呼ぶのではなく、「新しい公共」というものを創造していくことを国も推奨しているのです。

ここで、新しい公共の活動領域について具体的に述べます。

(1)行政機能の代替

本来、行政が担うべきサービスを、新しい公共が自らの意思で住民に提供する活動です。

・道路や公園の維持管理(掃除や除草など)を住民の手で行う
・公民館などの施設を住民が自主的に維持・管理する活動を行う
・リタイアした土木技術者グループが橋梁などの老朽化について検査を行う
・街の景観デザインを住民と行政が行う
・独居老人の情報把握や日常の世話をする

(2)公共領域の補完

行政が担うべきとまではいえないが、公共的価値の高いサービスを提供する活動です。公共領域の補完の事例は数多くあります。

・伝統文化を保存する
・古民家や街並みを復元する
・ゴミの分別を行う
・地産地消を推進する
・自然環境や景観を保存する
・子どもを地域で育てる
・地域の特産品を発掘し、販売を行う
・地域の祭りを行う

(3)民間領域での公共性の発揮

必ずしも行政本来の役割ということではありませんが、公共的価値の高いものです。軌道に乗ると、ビジネスとして成り立つ可能性があります。

・住民が連携して地域の特産品を発掘し、コミュニティビジネスとして展開する
・古民家を観光資源として活用する
・空き家を二地域居住などのために活用する

新しい公共によって取り組まれる内容はさまざまですが、その中で共通しているのは、活動の成果は直接サービスを受ける人だけが得るのではなく、広く地域全体で享受する点です。新しい公共を創造することで、人々のニーズを満たす公共サービスを維持できる可能性が出てくるのです。

近年、総合計画の中に、住民の参加と協働による新しい公共を盛り込み、まちの将来の在り方を提示する自治体が出てきました。

例えば、富山県黒部市では、住民一人ひとりが主役として自主的かつ積極的にまちづくりに参加することを基本に、第1次黒部市総合振興計画を策定しました。将来、都市像を達成するための基本理念として、「市民の参画と協働によるまちづくり」を掲げています。

また、筆者が行革委員を拝命している三重県桑名市では、総合計画の主旨を「みんなでビジョンを共有し、全員参加型の市政」を実現することとしました。桑名市が目指す市の姿を明確にし、その実現に向け、各主体(住民、企業・団体、行政)が共通の目標に向かってまちづくりを行っていけるよう「市が取り組むこと」と「市民が行動すること」を記載し、「中央集権型の市政」ではなく、「全員参加型の市政」を目指す計画としました。

日本社会では、新しい公共が担うと想定される前述のサービスの多くは、古くから住民同士のつながりによって、生活の一部として日常的に提供されていました。都市や地方を問わず、集落の「結(ゆい)」や「寄り合い」などの集まりは、地域での道や水路、そして森林の維持管理などの協働作業を可能にし、住民の生活を自分たちで支えてきたのです。

地域におけるコミュニティ(共同体)の崩壊が進み、住民同士のつながりが薄れている現在、新しい公共に大きな期待がかかっているといえます。

水族館のアシカはいくらで買える?

著者:野崎敏彦
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家計も会社もお金の流れを把握し、収支を明確にし、使い道を検証することは当たり前。地方自治体も同じです。自治体が財政を立て直すにあたって、大事なのは市民×企業×行政の全員参加。だから、私たち一人ひとりがもっと地方財政を身近に感じ、“自分事”として捉えていきましょう。15年間、約50自治体の支援をしてきた地方財政コンサルタントがやさしく解説します!

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